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ぶっちぎった肝っ玉──『女帝エカテリーナ』読書感想文

久しぶりの歴史小説。
「おもしろーい!」って、次のページをめくるのにわくわくした本でした。

異国北ドイツから嫁いだ一人の少女がロシアの地で皇帝の座に就き、絶対的な統治者として国民に認められ「ロシア大帝」としてその生涯を終える。
その人生のあらすじを見て、一体運命がどういういたずらをすれば、そんなことが可能なのか? 興味が湧かない人はいないと思います。
実はその道を支えたものの大半は、単なる「運命」ではなく彼女自身の生来の賢さと弛まぬ研鑽であるということに、さらに度肝を抜かれます。

こんなこと、ありえるの?
──エカテリーナ2世なら、あり得そう。

それが、読後の感想です。

この本の何が面白いかって、とにかくエカテリーナが最高に賢く、強かで、かっこいいところ。

無理をしてでも周囲に求められる振る舞いをしなければいけないという場で、覚悟決めて最適な振る舞いをする。
利用するものは利用するが、すべては心に決めた「目的」のためであり、公人としての姿勢にはほとんどブレがない(たまにブレる)。
国や臣民に対する絶対的な愛がある。その上で、国の現状を冷静に把握し、現実的な路線で政策を行うための努力を厭わない。
絶対的な勝利運を信じ、自身の決断に対しては常に最後まで責任を負う。

かっこよさ、伝わりますか?

現存する書簡や資料などを細かに参照しているものの、もちろんこれは小説なので、エカテリーナがどんな人だったのか本当のところを知ることはできませんが、この本を読んだら彼女のことを好きになると思います(男性関係の奔放さも圧巻ですが、晩年を除いては公に私情を持ち込まないスタンスも好き)。

同じ作者の『大帝ピョートル』も読みましたが、私は断然エカテリーナ派です。ピョートルはピョートルで常軌を逸した凄まじさという面白さがありましたけれども。

かっこ良かったところ

▼女帝エリザヴェータに対する反心。自分に嫌疑がかかれば立場どころか命すら危ぶまれる事態に際して、このような問いかけをする彼女の豪胆さ。

エカテリーナはさらに宴会、ひきつづき舞踏会に、まるで何事もなかったかのように列席しなければならない。しかし彼女はこれ以上聾桟敷で心を悩ませてはいられない。冷静に意を結した彼女は、調査委員会の一員であるニキータ・トゥルベツコーイ公に近づくと、「罪人の数より犯罪の数の方が多くございましたの、それとも犯罪より罪人を多く見つけられましたの?」とたずねる。

▼ロシアに対する深い理解と深い愛。これが彼女の女帝としての地位を獲得した絶対条件であったのだろう。それと同時に、生来人の上に立つものとしての矜持を感じる。

実のところエカテリーナは、ロシアの欠点を矯正するのだと豪語する一方で、その欠点を愛してもいる。 〜中略〜 彼女は、自分の国民となったロシアの民の夢想家で怠惰な性格、その宿命論、突飛な振る舞いには、苛立ちもするが同時に魅了される。この民は偉大で美しい。

ロシアに情熱を持って結ばれている彼女は、臣下が呼びかけに使う「われらが母」という名がきわめて重大な意味をもつと考える。すべての人に対し、暖かさ、救い、神の意志を体現する人間でありたいと願う。彼女は書いている。
「優しく、近づきやすく、憐み深く、寛大な人になること。おまえの偉大さが、善意を持って小さき者の立場にへり下り人の身になって考えることを妨げぬよう、またこの善意がおまえの権威と尊厳を損なうことなきよう、心してつとめよ」

▼こんな強気な発言してみたい。

(側近の「心の大きさゆえに命を失うことになりかねない」という諫言に)彼女は笑いながら、運命の星には自信があるのです、と答える。そして身辺から護衛を遠ざけると、挑戦するかのようにモスクワでいちばん人の多い通りを無蓋馬車で乗り回す。

余談

過去に今回同様に「主人公かっこいい!!」って私が思って読んだ歴史小説はこちらです。この二つは特に良くて、印象に残っています。

▼定番。これは外せないですよね。信条の人。
こんな性格の人、近くにいたらすごくいやだけど、この一途さは本当にすごいと思います。

▼伊達政宗かっけえええええ!ってなります。
全八冊ありますがあっという間。すごくおすすめ。

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