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2中国発の人獣共通感染症(伝染病)の歴史

画像:Gengis Khan empire、 出典 historicair, Wikimedia Commons 2007
(内容)

・ モンゴル世界帝国軍団によってペスト(黒死病)が欧州へ伝播
・ ペストは中国が起源、シルクロードを経て世界に拡散との国際研究
・ その後も続く中国の悪疫の大流行と混乱
・ 悪疫の流行と明朝滅亡
・ 清朝末期にコレラがやペストが流行。日本や米国へも感染拡大
・ 20世紀にはいってからの疫病の大流行

 モンゴル世界帝国軍団によってペスト(黒死病)が欧州へ伝播

(前章からの続き)
過去に歴史を辿れば、中国の疫病が世界中に感染を拡大し、世界の歴史を大きく変えたというケースは何度も見られます。

例えば.中世ヨーロッパで黒死病と恐れられたペストがあります。これは19世紀末に日本の北里柴三郎によって英国統治下の香港で発生していた腺ペストの原因であるペスト菌が突き止められ、その後、現在では抗生物質などの有効な感染防止対策がなされ流行は減りましたが、ペストは長い間人類にとって最も恐ろしい伝染病でした。細菌性かウイルス性かという違いはありますが、ペストも新型コロナ肺炎と同様な人獣共通感染症・動物由来感染症です。 

ペストの大流行は欧州では古代ギリシアから5世紀まで何度も記録されていましたが、その後は途絶えていました。 しかしながら、14世紀から15世紀初頭にかけて発生した大流行では、当時の世界人口4億5000万人の2割以上の1億人が死亡したと推計されています。

モンゴル世界帝国は14世紀の初めに極盛期を迎えますが、折あしくこのころからユーラシア大陸では寒冷化が始まりました。寒冷化が始まると、飢饉が起こります。飢饉になれば食料が不十分になるので、人間の体力が弱ります。人間の体力が弱って免疫力の落ちた身体に病原菌が感染しやすくなるのは火を見るよりも明らかです。このようにして当時のユーラシア大陸でペストがはやり始めました。

この時のペストがどこで発生したかについては諸説ありますが、もっとも有力な説は中国の雲南省付近で流行し、南宋と戦っていたモンゴル帝国第4代皇帝のモンケハーン率いるモンゴル軍に感染し、それがヨーロッパに伝わったというものです。モンケハーンは、1259年に疫病によって陣中で没したといわれていますが、その疫病がペストであったようです。

12世紀から13世紀にかけてモンゴル帝国がアジアの大半からヨーロッパにかけて広大な領土を占有したため、東西貿易が盛んになり、ペスト菌もそれに伴ってヨーロッパに侵入したと言われています。

ペスト菌に感染したネズミ(中間宿主)からノミを媒介として、当時ペストが発生していた南宋から、約10世紀ぶりに遠くヨーロッパまでもたらされたのです。 この時のペストは中央アジア、西アジア、トルコからクリミア、東欧、イタリア、アルプスを経て、ドイツ、フランス、英国などヨーロッパ全体に広がりました。

ペストは中国が起源、シルクロードから世界に拡散との国際研究

2010年10月31日、米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)」(電子版)に疫病のペストは2600年前の中国で初めて発生し、シルクロードを経て欧州にもたらされたとの国際研究チームによる結果が発表されました。 このDNAを解析した研究結果は、中世の欧州で全人口の3分の1が死亡したとされるペストは中国を起源とするとの説を裏付けています。

以下はこのニュースを伝えるAFP社よりの引用です。
https://www.afpbb.com/articles/-/2772233

(引用) 【11月3日 AFP】研究チームはペスト菌17株のDNA配列を解析し、共通の祖先から変異した病原菌の遺伝子系統を調べた。その結果、ペスト菌は2600年以上前の中国で初めて出現したことを示唆する結果が得られたという。

 その後、約600年前からペストは中国からシルクロードを通じて西ヨーロッパに伝わり、さらにアフリカへと拡がった。15世紀に通商貿易航海で活躍した明王朝(1368~1644)の鄭和(Zheng He)も、ペスト菌の拡大に「貢献」したとみられる。

 さらに19世紀末、ペスト菌は中国からハワイ(HawaiHawaii)に伝わり、サンフランシスコ(San Francisco)やロサンゼルス(Los Angeles)などの港町からカリフォルニア(California)に上陸。米本土全域へと広まっていった。今回の発見は、ペストだけでなく、炭疽症や結核など感染性の病原菌の起源解明にもつながると期待されている。

 ペスト菌は元来、ネズミなどの齧歯(げっし)類の体内に潜伏しているが、感染した動物の血を吸ったノミを媒介としてヒトに感染する。ペスト菌がリンパ腺に伝播すると、腺ペストを発症する。

 研究は アイルランドのコーク大学(University College Cork)のマーク・アフトマン(Mark Achtman)教授が主導し、米国、英国、中国、フランス、ドイツ、マダガスカルなど、多くの国の科学者が参加して行われた。(c)AFP (引用終わり)

現代では現代のシルクロードである一帯一路(Belt and Road)を通じて、中国から新型コロナウイルスはイラン、イタリア、ロシアそして全ヨーロッパに伝播し、さらには北米・南米、オセアニアまで新型コロナウイルス肺炎という疫病がもたらされましたが、13世紀から現代にいたるまでシルクロードは疫病の通り道でもあったのです。

その後も続く中国の悪疫の大流行

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