「CQをポケットに地球一周の船旅」第4回:「自主企画」ー個人と集団の達成は「最高の娯楽」
「船で世界一周」と聞くと、つい「自分には関係ない」と思ってしまいませんか?私もかつてはそう感じていましたが、この旅でその考えがガラリと変わりました。
ピースボートの第117回クルーズで、2024年4月から105日間、18の国々を巡る経験をしました。この連載では、前回の「シニア世代の飽くなき冒険心と日本のサービス文化(後編)」に引き続き、異文化適応力(CQ)の視点から船旅を振り返り、船内のユニークな人々や、各国の文化、社会問題についてお話しします。
船上で広がる自己表現!ピースボートの多彩な自主企画とは?
船旅を成功させる鍵は、「長い船上生活をどう充実させるか」にあります。これは第1回の記事でもお話ししましたが、ピースボートの旅では、日常的に多くのイベントが開催されます。その中でも特にユニークなのは「自主企画」です。
自主企画は、乗客が自分の趣味や専門知識を活かし、仲間づくりを目指して開催するイベントです。その多様さは驚くほどで、1日に30〜40回もの企画が船内各所で行われています。
船内で出会うシニアの中には、豪華客船クルーズを経験している方も多くいます。彼らからよく聞かれたのは、「提供される娯楽は1週間で飽きる」ということ。これに対し、ピースボートの乗客は「自己表現」や「コミュニティづくり」が最高の娯楽だと感じているようでした。
117回クルーズで実施された自主企画の一部をご紹介します。
船上で生まれる絆! 世代と文化を超えた自主企画の魅力
多様な人生経験、文化、興味を持つ乗客が作り上げる自主企画は、本当にバラエティ豊かです。ここではその一部の様子を紹介します。
船内では「知り合うこと」を目的とした気軽なイベントがたくさん開かれています。
例えば、「アニメ好きの集まり」や「株式投資について情報交換したい人」、「浴衣を着て集まりたい人」といった趣味や関心を中心としたものが開催されます。また、「看護師経験者」や「教師」といった職業別の集まり、「○○県民」といった地域ごとのコミュニティなどもあります。これらのイベントを通して共通点を見つけ、親近感を感じながらコミュニティが少しずつ出来上がっていきます。
特に、若者とシニアが一体となって作り上げる企画は、大いに盛り上がりました。
例えば、「ピンクレディーを踊る」企画では、リアルタイムでピンクレディーを知らない世代の若者たちが中心となり、まずはYouTubeで振付を覚え、発表会に向けて親や祖父母世代に教えながら一緒に楽しく練習しました。
また、「洋上大運動会」のような大規模な企画も定期的に開催され、応援団長やシニア長などのリーダーが中心となって、年齢や性別、国籍を超えて盛り上がりました。まるで学生時代の体育大会や学園祭を思い出すような活気がありました。
さらに、個々の経験や専門知識を活かした企画もたくさんあります。例えば、元大手新聞の論説委員だったAさんは、リタイア後にNPOを立ち上げ、政策提言や食育をテーマに全国的なイベントを実施してきました。船内では、その豊富な知識を使い、「水先案内人」に匹敵するほどの知見を披露していました。
また、ピースボートに20回以上乗船しているリピーターのBさんは、南極やキューバなど珍しい場所にも何度も訪れており、世界各地でボランティア活動にも参加しています。自主企画では、これらの寄港地をスライドや動画で紹介し、旅のノウハウや裏話を披露。毎回、立ち見が出るほどの人気でした。
外国からの乗客による企画もカラフルです。私は、マレーシア出身のCさんが甲板で毎朝行っている「チーゴン(Qi Gong)エクササイズ」に参加しました。朝の潮風を受けながら気功の運動をするのは本当に爽快でした。また、ウクライナ語やベトナム語のレッスン、舞踊、民族衣装の着付けなど、船内ではさまざまな文化が花を咲かせています。
日本文化に見る自主企画の人気の理由:個人と集団が交わる場
前回の記事では、ピースボートのリピーターに共通して見られる個人的な傾向として、「自己を大切にし、自己実現を追求する姿勢」「余暇を大事にし、人生を自分でコントロールしようとする意識」「若者を平等な存在として尊重し、互いに助け合おうとする姿勢」「日本社会に対して、厳格で息苦しさを感じる」などについて分析しました。
また、集団として共有される文化的な特徴として、「客とサービス提供者の関係」についても考察しました。
今回は、ピースボートの自主企画がこれほどまでに人気を集める理由を、異文化適応力(CQ)の視点で考察してみたいと思います。
社会的志向性
人々が社会との関わり方をどのように志向するかは、以下の2つの軸で見ることができます。「達成を重視するか、人との関係性を重視するか」という軸と、「個人としてのアイデンティティを持つか、それとも集団の一部としてのアイデンティティを持つか」という軸です。
日本の文化的傾向を見てみると、「関係性よりも達成」を志向する傾向が強く、また「集団」と「個人」の中間に自分のアイデンティティを置く傾向があります。この傾向が、自主企画のような「コミュニティづくり」に結びついており、個人の関心や専門性を活かしつつも、集団として最高のパフォーマンスを発揮しようとする姿勢が表れています。
その象徴的な例が「洋上大運動会」です。
この運動会では、参加者が誕生月を基にランダムに4つのチーム(赤、青、黄、緑)に分かれて競います。自由参加にもかかわらず、大いに盛り上がりを見せ、全身チームカラーを身につけたり、髪までチームカラーに染めるシニアも見受けられます。遅くまで練習や準備を頑張る姿は、日本文化における「個人と集団の両方の達成」を志向する性質を強く反映しているといえるでしょう。
今回は、ピースボート独自の自主企画の人気の背景にある文化的要因を掘り下げました。次回は、船に乗る若者たちに焦点を当て、日本社会について異文化適応力の視点から考察していきたいと思います。
CQラボ フェロー
田代礼子
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