「CQをポケットに地球一周の船旅」第3回:シニア世代の飽くなき冒険心と日本のサービス文化(後編)
「船で世界一周」と聞くと「自分には無縁」だと感じていませんか?
かつて私もそう思っていましたが、ピースボート第117回クルーズで2024年4月から105日間で世界18ヶ国を巡り、その思い込みが一変しました。
この連載では、船旅での経験をCQ(異文化適応力)の視点から分析し、知られざる船旅の世界や、出会ったユニークな人々、日本と各地の文化、社会課題についてお届けします。
前回、「シニア世代の飽くなき冒険心と日本のサービス文化(前編)」では、シニア世代の冒険心についてお伝えしました。
後編の今回は、船旅を楽しんでいたシニア世代の個人的な文化的嗜好について、ホフステード6次元モデルで紐解いていきます。
ホフステード6次元モデルから見る、リピートするシニアの個人的な文化的嗜好
もし船で出会ったシニアたちにホフステードCWQ(ホフステードの6次元モデルに基づいて個人の文化的嗜好を明らかにするアセスメント)を受けてもらったら、平均的な日本人に比べて個人主義と人生を楽しむ傾向が高く、権力格差と不確実性回避が低い結果が出ると考えられます。
・個人主義の傾向は「独立した自己観を持ち、自己実現を大切にすること」に繋がります。
・人生を楽しむ傾向は、「余暇を大切にし、人生をコントロールしようとする」態度に繋がります。
・権力格差の低さは「若者(年少者)を平等な存在として扱い、お互いに助け合おうとする」ことに繋がります
・不確実性回避の低さは「あいまいさを許容する」ことに繋がり、ルールや構造、予測可能性を重視しがちな日本社会に対して「杓子定規で息苦しい」と感じる可能性を示します。だからこそシニアたちは多様性やハプニングに満ちた船旅に魅力を感じてリピートするのでしょう。
集団として共有する文化的傾向との違い
しかし上記のような、個人としての文化的嗜好があったとしても、集団としての感じ方やふるまいになると話は変わってきます。
次のグラフは日本とその他の国の「客とサービス提供者の関係性」を示したものです。
日本は権力格差においては中間(やや階層的)ですが、不確実性回避が非常に高い傾向にあります。つまり日本では「客とサービス提供者の関係はやや階層的、かつ顧客サービスに対しては強く正確さと形式化を求められる」ことを示します。
サービスのスピードや正確さに対して非常に強く反応し、時には「お客様は神様であるべき」といった横柄な態度で接する可能性を示唆しています。
次のグラフは日本とその他の国の「客がサービス提供者に対する期待」を示したものです。
日本は不確実性回避と達成志向の両方が非常に高く、世界的にも特異なポジションであることが分かります。つまりサービス提供者に対して日本人は「どんなサービスであろうと正確で優れているべき」と考える傾向があります。
異文化の中で考える日本のサービス基準
クルーズでは、このような「無意識の文化」が顕著に表れる場面にも遭遇しました。その一例が、「接客される側」のマナーや日本水準のサービスを求めることです。
船の中は異文化環境。クルーは東南アジアや南アジア、中南米など様々な国籍で構成されています。彼らは日本人へのサービスに慣れており簡単な日本語もできますが、決して流暢というわけではありません。
レストランでは、接客するクルーに対して日本人の乗客が「Thank you」や「Please」といった感謝や丁寧な表現が使うことは残念ながら稀でした。日本語で日本とまったく同じやり方で注文し、「注文したものがすぐに出てこない」「オーダーを間違える」「間違えても謝らない」と不満を口にするシニアも多く見受けられました。
時間通りに届き、不在なら何度でも無料で届けてくれる宅配便、真夜中でも開いている便利で快適なコンビニエンスストア…日本では良いサービスが無料であることを普通と考えがちです。しかし海外に出てみると、そのどれもが特殊であることに気づかされます。
日本の高いサービス水準は長時間労働によって支えられています。「過剰なサービス」が労働生産性の低さを招いているとも指摘されています。サービス業に従事する人のワークライフバランスをどう守り、どんなサービスを期待し、何を対価として支払うのか、改めて考えさせられました。
ここで一歩立ち止まり、日本のサービスに対する考え方はどうなのか、世界と比較するとどうなのか、その深い違いに関する知識を持ち(CQナレッジ)、自分の振る舞いが、文化の異なる相手からみた場合にどのように映るのかを俯瞰し適応する(CQストラテジー・アクション)ことにより、より旅が楽しめるのではないかと思いました。
老後を豊かに生きるために
今回のクルーズで出会ったシニアたちは、冒険心と自立心、そして社会的関心の高さを持ち合わせ、豊かな老後を楽しんでいる姿が印象的でした。同時に客とサービス提供者の関係性に関する文化的な気づきもありました。
これらのエピソードを通じて、私たちが老後をどのように過ごすかについて考えるきっかけになれば幸いです。高齢者が持つ力や日本文化の特徴を再認識し、今後の生き方に活かしていきたいものです。
次回は、ピースボートならではのユニークな「自主企画」の世界、そこから見えてきたものについて、お話したいと思います。
CQラボ フェロー
田代礼子
▶ホフステードの6次元モデルと6つのメンタルイメージについて詳しく知りたい方は、『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』宮森千嘉子/宮林隆吉 著をご覧ください
▶一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。
▶こちらからCQラボ代表理事 宮森千嘉子の異文化理解についての講座を1週間無料で視聴できます
▶1分でわかる「CQ異文化理解」動画はこちら