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魅力的な提案、良い商品、優秀な人材が必ずしも受け入れられるわけではない

「魅力的な提案」が受け入れられないのはなぜか、「良い商品」が必ずしも売れないのはなぜか、4つの視点から丁寧に解説された良書を読んだ。

魅力を伝える「燃料」を投下するよりも「抵抗」をなくすことを考えようということ、その抵抗を4つの視点で解説されている。

こんなに素晴らしい商品です、画期的な技術です、そういうものを重ねることでは商品の魅力を伝えることはできないということを様々な事例やデータで解説してくれる。

内容のあまりにも簡単な要約

1.惰性とその克服

人は変化よりも不変を、未知より既知を好むため、何度も繰り返したり小さく始めたりなどして「惰性」を克服する。

パソコン黎明期、スティーブ・ジョブスはPC内のデータ構造を「ドキュメント」「フォルダ」「デスクトップ」など聞きなれた言葉で表現し、ユーザーの新規なものへの抵抗感を減らした。

本書表4より

2.労力とその克服

最小努力で成果を上げたいので、苦労や茫漠感を和らげるロードマップを作成して「労力」を克服する。

投票を促す電話をかけるキャンペーンで、選挙の意義を伝えるだけでなく、どんな交通手段で投票所へ行くかも訊ねて話すようにした。投票所へ行く方法に関する茫漠感が解消し、投票率上昇の効果が2倍になった。

本書表4より

3.感情とその克服

惰性や労力よりも、合理性よりも「感情」で人が動かないことがある。シェルターに入りたがらない人を注意深く観察して、ペット同伴可にしたところ即日入居した例などが挙げられた。この「感情」面の抵抗は見えづらい傾向にある。例がより具体的なのはそのためか。

アメリカ人にとって「ケーキを焼く」という行為は記念日やお祝いのために時間をかけて準備する、という大切なものである。そのため水で溶いて焼くだけでできるケーキミックスは便利だが「ケーキを焼いた気がしない」という感情面の抵抗で普及しなかった。現在支持されているケーキミックスは、卵を加えるなど「焼いた気がする」ものになっている。

内容要約

4.心理的反発とその克服

変化させられたり、自由を奪われたり、説得されていると感じると人は「心理的反発」を感じる。この心理的反発を克服するには自己説得などが有効。

飲食店が受けた予約電話の最後に「キャンセルの際には電話をいただけますか」と疑問形で伝え、「はい」の返事を引き出した。「必ず電話してください」と命令形で伝えるよりも客の心理的反発が減り、電話キャンセルが大幅に減少。

本書表4より


優秀な人が必ずしも報われるわけではない事実

私がこの本でもう一つ衝撃を受けたのが「感情」の項目に突如現れたこのページ。組織に関する私のもやもやした感情を、見事にクリアにしてくれた。

 心理学者のシャーリーン・ケースとジョン・メイナーは、部下の配置についてリーダーに訊ねる一連の実験を考案、実施した。配置先は、チームの成功の鍵を握る副指揮官的な役割と、チームの業績にさほど影響を与えない実働部隊的な役割のいずれかだ。候補者は能力も実績もさまざまだったが、どの実験でも、素晴らしい実績を持つ非常に優秀な候補者が1人いて、その人物か副指揮官にふさわしいことは明白だった。ところが、非常に優秀な候補者が最も影響力のある役割から遠ざけられてしまう事例が頻発した。
 その後の実験でわかったのだが、リーダーは高い実績を上げている社員から他の方法でも力を奪おうとしていた。素晴らしく出来の良い社員をのけ者にして、重要な情報を渡そうとしないことがたびたびあったのだ。さらには、優秀な社員を孤立させるために、チームとの絆を深めにくい役割を与えるという手段を取るリーダーまでいた

ロレン・ノードグレン+デイヴィッド・ションタル著
「変化を嫌う人を動かす」草思社 2023 p.179
Case.C.R.,and Maner,J,K(2014).
Journal of Personality and Social Psychology 107:1033-1050

レポート引用元も明記されているので機会があったら読んでみたい。

ケースとメイナーの実験では、優秀な候補者に脅威を感じてリーダーが彼らを降格させることがよくあった。大半のリーダーは権力や影響力のある立場をうまく利用しているのである。優秀な候補者を影響力のある役割に就けるのがチームにとって最善かもしれないが、そうするとその候補者がライバルになる可能性も出てくる。
 同僚の成功が組織全体にとってプラスであることは分かっているのだから、理論的には、同僚が成功できるよう、組織に属するすべての人が同僚を応援するはずだ。ところが、「感情面の抵抗」を考慮に入れると、真相はそうでないことが分かってくる

同上p.180

組織のために最善を、と考え、それを愚直に実行することは危険なことなのかもしれない。ということを理解できた一節だった。

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