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関係人口創出に必要な「ファンベース」

2024年1月27日(土)ふじのくに関係人口創出シンポジウム2023の基調講演で佐藤尚之(通称さとなお)さんの基調講演を聴くことができました。


99.996%の情報はスルーされていく

なぜファンベースか、の前段として、対象に関心のない人に向けて広く発信しがちだがそれはもう伝わる時代ではない、ということがあげられます。
広告業の最前線にいらした方からの言葉には重みがあります。

静岡の素晴らしいところ、綺麗な景色、美味しい食べ物などの魅力的な動画を作ったところで、それは0.004%の人にしか届かない
ひとは1日3000件の広告に触れている、2020年の情報量は59ZB(1ZBは世界中の砂浜の数)、地球59個分の砂つぶの数。。。

長く広告、コミュニケーションの分野に身をおかれたさとなおさんが繰り出す印象的なデータからはもはやコンテンツを磨き上げても届かない現実を教えてくれます。
これらのデータは著書『ファンベース』にも詳述されており、講演を聞いてから再読することでより深く理解できました。

日本人のデジタルリテラシーは世界と比較して低い

日本人のデジタルリテラシーが低いことはなんとなくわかっていましたが、それが想像以上という事実も突きつけられました。
ほとんどの人が検索すらしない、ということには衝撃を受けました。この会のテーマに乗じて考えると、「静岡 おすすめ」「静岡 関係人口」なんて検索されるのは期待しない方が良いのでしょう。

よく「バズった」と話題になって情報番組などでも取り上げられるものでさえ、10%くらいの人にしか伝わっていないのです。

日本のX(twitter)のヘビーユーザーは、22%の990万人。
彼らが総利用時間の82%を占有している。
日本の総人口1億2560万人(2022年)のうちの990万人
X上での「バズ」や「トレンドワード」が
「残りの1億1550万人」に伝わるのは難しい

当日投影資料より

「パレートの法則」2:8が見事にここにも反映されています。上位20%にまずアプローチすることが重要なのだとよくわかります。
さとなおさんは「80%は雑音」とすら表現されていました。

ファンベースとは

ファンベースとは
ファンを大切にし、ファンをベースにして
中長期的に売り上げや価値を上げていく考え方

当日投影資料より

ここでのファンとは、
企業やブランド、商品が大切にしている価値を支持してくれている人
と定義されます。
この会の主旨にてらしていえば
静岡が大切にしている歴史や伝統、風土、文化、つながり、ヒトの笑顔などを支持してくれている人
と定義されました。
最後の「ヒトの笑顔」という表現がステキです。

なぜファンベースかというと、20%のファンが80%の売上をしめ(関係人口でいえば80%の関わりと噛み砕けるのでしょうか)、
ファンこそが新規顧客を開拓してくれるからです。
ファンの周囲にいるいわゆる「類友」が次のファン候補とさとなおさんは言います。
人にはだいたい15人くらいの「強い紐帯」の人と、150人〜500人くらいの「弱い紐帯」の人たちが周囲にいて、そのあたりが「類友」と呼べる人たちです。この人たちへアプローチすることがファンを増やす近道。
情報が過剰な中では、価値観が近い家族、友人の情報を最終的に信頼するというデータが提示され、デジタルネイティブのZ世代でも同じ傾向にあるそうです。
マスメディア(mass media)からマンメディア(man media)への移行という表現には膝を打ちました。

ファンの声とユーザー全体の声は根本的に違う

自身の本業でも思うのですが、どうしてもアンケート調査などでは声が多く、大きいものに引きずられがちです。
「7割の人が支持している機能」「自由回答で欲しいという声が多い」、決定するには大いに背中を押してくれる材料です。
しかしながら、さとなおさんは「ファンでない人はいいかげんな、勝手なことを言う」と繰り返されました。そういう人が8割いるとなると、アンケート調査を鵜呑みにするのは危険なことなのかもしれません。

そこで誰にきくかが重要で、全体にきくのではなく、ファンだけからきく、という方法が提案されました。
IKEUCHI ORGANICという今治タオルのファンであるご自身が参加されたファン向けツアーの例も紹介されました。
新規顧客、新機能に目を向けるより商品、サービス、土地の、ファンが愛している「情緒的価値」を高めていくことが肝要。
ファンは放っておいても来てくれる、買ってくれると思われがちだが、ファンが大事にしている情緒的価値が失われるとそっと去ってしまうであろう、という指摘は自分にも覚えがあるものでした。

関係人口創出にこそファンベース

講演後、主催のIさんたちと「とはいっても80%にも目が向いてしまうよねぇ」という感想。
20%ファンベースはもちろん実践することにして、80%は捨てずに切り分けて考えた方が良いなーという結論に。
プロダクトやサービスだと「次の顧客」を念頭に置かないと事業が成長するには弱い部分もあるので、ファンだけの声をきく、というのは状況により許されない部分もあるなぁと感じました。

一方で「関係人口創出にこそファンベース」というさとなおさんの言葉はうなずけるものでした。ある地域という器は場所を移動することもできないし、歴史や伝統、根付いた文化は良い意味でも悪い意味でも変えられません
それでも愛してくれる人たちは何を価値としているのかということを丁寧に、時間をかけて掘り下げることでますます地域の唯一無二の価値が磨かれていくことは間違いないと感じました。

以前旅行したキューバのガイドさんは日本の箱根に留学していたそうですが、「日本はその地域地域で細かく独特の風土文化、食があって感動した。キューバにはそういうものがあまりない。国を一周してもごはんにあまり変わりがないでしょう?」と言っていたことを思い出しました。
ラム酒が本当に美味しくて言われるまで気づきませんでしたが、確かに日本と同じような細長い国土なのにそれぞれの土地の特色があまりないように感じられました。

様々な地域が関係人口を増やそうとしている基礎に、土地に独自に根付いた魅力的なコンテンツがある。
それをファンベースで広げていくことには大きな可能性があると思った1日でした。そしてまずは私が静岡の魅力を周囲に伝えることが大切なのかもしれません。

講演後気さくにサインに応じてくださり
さとなおファンになったのはいうまでもないのでした
この日のスライドは221枚(!)
講演自体が稀で貴重な機会とのことでした


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