"Entrée" behind-the-scenes①首飾りとアースガルド

“アースガルド”とは、北欧神話に登場するアース神族の王国。死すべき定めの人間の世界、ミズガルズの一部であるともいわれる。
地上(ミズガルズ)からアースガルドに行くためには、虹の橋ビフレストを渡らなければならない。そのビフレストの番人がヘイムダルという人物である。

愛の女神フレイヤが持っていた首飾りがある日盗まれ、ヘイムダルは激しい戦いの末負傷を負いながらも首飾りを取り戻すことに成功する。
つまり、アースガルドとは、生を全うした人間が虹の橋を渡っていく天上の世界、天国であり、その門番が命を賭してまで守った愛の象徴が、首飾りである。


―この世に神は存在するのだろうか。世界には何種類もの神が存在するが、どれが本物でどれが偽物なのだろうか。どの神も、彼女を救ってくれなかった。神が本当に羊飼いならば、祈ることとはその袖を引っ張るだけのことなのだろうか。
“僕”は、この身を犠牲にして彼女が蘇るならば厭わない想いだが、彼女もまた犠牲になったのだ。
今、遺された”僕”ができることは、愛した彼女を弔うこと。
精霊流しに、彼女のいつも付けていた首飾りを添える。そこに、彼女がいるような気がした。


この楽曲は、Entréeのために作曲した作品の中で、最初に出来た楽曲。
僕は、この曲を作った時のことを鮮明に思い出せない。
ただ、僕が今まで経験した痛いほどの別れ―現世ではもう会えないというだけなのに―その年々増えてゆく古傷に、耐えられそうになかったあの時。
BOWIEのハーモニカが僕を救ってくれた。その時に作った曲だということだけは、覚えてる。

曲を作っている最中、BOWIEが死んだ。Blackstarとなった彼の、生涯最後のアルバムのラストを飾る「 ICan't Give Everything Away」。
1976年の名盤『LOW』のハーモニカと同じフレーズが、出棺時のラッパのように、遠くで聴こえる名曲だ。
僕は、BOWIEが死ぬなんてもちろん予想だにしていなかったが、その時作っていたデモ曲「モダン・ロマンス(仮)」に、なぜか『LOW』のハーモニカのオマージュを入れていた。

BOWIEが、生涯最後の曲に選んだハーモニカを、僕も意図せずにオマージュしていたこと、
身辺に降りかかる病気など、生死について答えが出ていなかった僕は、このデモ曲を今後の指針にしていこうと決意した。

しかし、その時は楽曲を完成させることができなかった。
そこから1年、別れる生命があれば、産まれ来る生命、出会う生命、そして守るべき責任とともに大人になってゆき、儚い青春とはその時の心の支えになるものだ、というところまでようやく考えられるようになり、歌詞をすべて書き直し、サウンドをすべて手直しした。
ただ、ハーモニカだけは残した。
BOWIEの最後の曲と、BRIAN SHINSEKAIとしての最初の曲を、繋げたかったのだ。

アーティストの命は、本質的には永遠だ。ただ、アーティストにも産まれる日はある。
BRIAN SHINSEKAIが産声をあげたのは、「首飾りとアースガルド」だ。

きっと、メロディがあれば、精霊流しのように、華やかに寄り添っていられるかな。
真夜中の川で、泳ごう。裸で。僕らは、きっと、透明な水になれる。争いの無い、色の無い、透明な。


BRIAN SHINSEKAI 『 Entrée』2018.1.24 release  1st Album
https://itunes.apple.com/jp/album/entr%C3%A9e/1280793976


2018年、ビクターよりメジャーデビュー。シンガーソングライター/トラックメイカー。愛猫カールをこよなく愛す。ベイスターズと北欧料理に励まされるピアノマン。◆新曲「三角形のミュージック」MV→https://youtu.be/hKb500zLQCE