"Entrée" behind-the-scenes③東京ラビリンス

“ラビリンス”とは、一般にギリシャ神話でミノス王がミノタウロスを閉じ込めるために工匠ダイダロスに命じてつくった迷宮のことを意味するが、
「迷宮」は迷路とは違い、正確にはクレタ型迷宮に代表されるような、分岐がなく秩序だっていて、
”他に選択肢のない一本道” という意味である。


——ここは、東京?小宇宙?いや、東京・内・宇宙。彼女は、”僕”の胸にすべての想いを預けた。
彼女は、ウクライナから東京を選んで来た理由や、ここ1年自分の周りに起こった悲惨な出来事をすべて”僕”に打ち明けた。
”僕”は、彼女と恋人になる決意をする。
同じ時代(とき)を生きる二人が、今できること、必死に生きることとは、むさぼるように愛し合うこと。
いつの時代も、愛とサクリファイスは同時に存在する。 “僕”も、警察学校を卒業し警察官になっていた。サクリファイス—犠牲となった者への想いを抱きながら、生命を体で感じ合う。強い信念は、僕らだけの信仰となる。


ある時、僕の耳にはトレンドの音楽がクールに聴こえすぎた。
右往左往している心をクールダウンさせるには、クールな音楽ではなくホットな音楽が効くこともある。
ルーツを辿れば辿るほど、クリエイトの根源に向き合えば向き合うほど、ニューミュージックや歌謡曲が僕のインスピレーションの根をはっていることに気が付く。
僕は、根っからクールに生きられる人間ではないのだ。

何の迷いもなく作った、日本でしかあり得ないような、確信を得たメロディ。ホットな、メロディだった。その裏には、なぜかナイルロジャースのような、プリンスのようなギターカッティングがイメージとして湧いてきた。サウンド的なルーツは、確かにそこにも強く在る。
『Entrée』は、1st Albumでありながら、過去を否定してきた”過去の自分”と対峙して、何とか向き合おうともがきながら作った作品だったのかもしれない。
その話は、「トゥナイト」の時にまた深く掘り下げて綴りたい。

今回のアルバムはすべて自分で演奏して、マスタリングも半分以上やるなど、化学反応や技術的高位よりも妥協なき世界観づくりにパラメータを振って作ったが、
その中でも唯一参加していただいたのがフルカワユタカさん。
「東京ラビリンス」の主人公である”僕”は、”彼女”と愛の決意をする一方で、100%の未来を信じ切れていない。
一寸の迷いや不安を抱えながら、それを振り切るように何とか前を向いている。そこには、東京をテーマにした生々しさがある。
他の楽曲は、日本が明確に舞台になっていないものもあり、リアリズムを直接的に描いていないが、この楽曲には芯となる生命のうねり/うなりのようなものがどうしても欲しかった。
そのようなギターを、この楽曲に合う形で弾いてくれる方・・・そう想像すると、フルカワユタカさんしか思い浮かばなかった。決して、ファンキーなカッティングのイメージがある訳ではないフルカワユタカさん。フルカワさんが弾いて下さったギターカッティングの鋭く温かくホットで生命力に満ちあふれた音が、この楽曲を想像以上に希望に満ちたものにして下さった。本当に有り難うございます。

迷宮に入り込んでも、迷わない信念を伴えば、一本道で辿り着く。
愛も、きっと、そういうものなのかもしれない。


【Spotify】https://open.spotify.com/track/5GIlrqpY5K5hu3qNaKFr3q?si=9KKRYgqwRAO1EruvsApc-w

【YouTube】


2018年、ビクターよりメジャーデビュー。シンガーソングライター/トラックメイカー。愛猫カールをこよなく愛す。ベイスターズと北欧料理に励まされるピアノマン。◆新曲「三角形のミュージック」MV→https://youtu.be/hKb500zLQCE