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発達障害学会2021に参加してみた。 実行委員会企画シンポジウム②「持続可能な療育システムと支援体制構築:既存の資源・機関の機能化からのアプローチ」



第56回 発達障害学会
2021/10/31  実行委員会企画シンポジウム②
「持続可能な療育システムと支援体制構築:既存の資源・機関の機能化からのアプローチ」
企画者:               肥後 祥治(鹿児島大学教育学部)
シンポジスト:    福元 康弘(姶良市教育委員会)
                              塚本 亜希(熊本市教育委員会)
                              城門 千代(熊本市子ども発達支援センター)
                              有村 玲香(鹿児島国際大学)

企画趣旨(肥後先生)

制度を超えた支援を必要とする子どもの増加,およびそれに対応する資源の地域間格差,に対して解決策が必要という背景がある。
現在の制度は,専門家と効率的なサービス配布に重点を置く「施設中心型」のリハビリテーションである(IBR:Institutional Based Rehabilitation)。これだと療育センターおよび専門家をたくさん増やすことが目指す解決策であるが,果たして現実的なのか?実現できるのか?

地域に根ざしたリハビリテーション CBR:Community Based Rehabilitaionが代替戦略となるのではないか?
WHO定義によればCBRは,「障害者自身やその家族,その地域社会の中の既存の資源に入り込み,利用し,その上に構築されたアプローチ」。CBRはIBRの対概念であり,主に発展途上国のコンセプトとして採用されてきた。

IBRでのサービス提供主体は,ケアの専門組織,巡回サービス,家庭介護プログラムなどである。一方,CBRでは障害者同士,家族/介護者,ボランティア,コミュニティワーカーが主体となる。

CBRからみた療育システムの構築概念として,
   (1) 既存の社会資源の再開発
   (2) 不必要な専門家への依存から脱却
   (3) 人的・情報ネットワークの構築
   (4) 相互援助生の獲得
   (5) 学習による知識の蓄積
が重要になる。

今実践していることの成り立ち,現状の課題などから,持続可能な療育システム構築にむけたパラダイムや技術論を検討することが,シンポジウムの目的。

姶良市教育委員会 福元先生「切れ目のない支援体制づくりに向けた姶良市の取り組み」

姶良市子ども相談支援センターの不登校相談の6割,虐待相談の4割に発達の特性が疑われた。不登校は2次的障害かもしれず,早期に支援していれば防げたかもしれない。特徴に気付き,特徴に合わせた教育を実施することが目標。取り組みは途中段階である。

<保育園・幼稚園>
現状課題①発達の特性なのか,個人差なのか,判断が難しい
     ⇒ アセスメントツールの紹介。黒澤礼子「赤ちゃんから大人まで気づいて・育てる発達障害の完全ガイド総合版」にある基礎調査票を配布した。

現状課題②対象児に対する支援方法が適切なのか不安がある
     ⇒ 支援チームの編成。臨床心理士,保健師,言語聴覚士,理学療法士,指導主事で構成し,巡回相談を実施。園における「個別の指導計画」書式を相談開始時および巡回相談時に使えるよう開発した。医療機関につながるよう,協働で紹介票も作成した。保護者も確認し,園から医療機関に送信する仕組みにした。

<小中学校>
課題  発達特性がある児童を支援することに,教師間で差がある。
子どもから自ら直接教師に訴えられるよう「得意なこと,苦手なことシート」を開発した。4年生以上を対象にして,記入後に個別面談を実施。
教師が支援方法を考えやすくするため,支援の例を列挙した冊子を作成して配布した。

「学校楽しぃーと」で自己肯定感,友達や教師との関係,学習意欲,適応感を調査した。この結果,発達児は「自分なりの学習方法がない」「自分のことをわかってくれる先生がいない」という項目が高率だった。一方で,「友達から悪口を言われるなどしてつらい」「授業中に先生の話をよく聞いている」は差がなかった。発達児は友達関係はよく,授業を聞いているが,学習方法をもたず,授業についていけないが先生に相談できていないことが推察された。

熊本市教育委員会 塚本先生・子ども発達支援センター  城門先生「校内委員会と特別支援教育コーディネイターの機能化による熊本市内全域の特別支援教育体制づくりに向けた取り組み」

塚本先生
市が特別支援教育の推進事業を実施。5地区21ブロック化し,各ブロックに拠点校を指定して,各地域の取り組みを活性化。地域毎に巡回相談員を割り当てた。ブロック内では幼稚園・小中学校・高校が連携して状況交換や研修を実施している。
ブロック毎に研修課題を設定。さらにブロック合同で研修会を実施し,スタッフ同士の連携ができてきている。夏休みに特別支援教育コーディネイター研修会を実施している。
巡回相談員はブロックごとに割り当て。巡回相談員だけでなく,子ども発達支援センター地域支援班も同行。教育委員会が間に入って調整して連携。
巡回相談員の研究も実施。

城門先生
校内支援体制を充実させる事業を行う前は「特別支援教育は,特別な場や人による,特別な教育である」という考え方だった。予算と専門家の奪い合いの状況だった。
事業の狙いは,中核となるコーディネーター間の情報共有および連携,専門家の有効活用(研修内容の重複回避),管理職の意識改革,などがある。拠点校の選定にエネルギーを裂いた。ブロックに幼稚園や高校を巻き込むことで,福祉システムと連動できるようにした。

鹿児島国際大学 有村先生「行政との協働による保護者支援プログラムの実施の成果と課題」

県のこども総合療育センターがオープンしたので,市の発達支援センターを設置しないこととなった。裾野が拡がったが,多数の診療待ちがある。全国でも有数の事業所数があり,市町村や民間に専門性をもった人材が増えてきた。地域での質および量的な支援の充実が課題。戦略の柱を5つ立てた。

1,地域のあらゆる場所,日常の中で支援が受けられる体制構築:
幼稚園,小学校,中学校,高校の活用
2,行政とのタイアップによるシステム化:
特別支援教育の保護者支援事業(ペアレントトレーニング)を2013年から実施。インストラクターの養成から実施している。インストラクターには学校の教師をあてた。
3,保健・福祉・教育の協働をイメージした展開:
複数年度を見据えて展開を順次実施した。地域内にインストラクターのコミュニティができ,不登校などにも対応できる。
4,既存の専門家を用いた人材再開発:教師に焦点をあて,ペアレントトレーニングのインストラクターとして養成。
5,高度な専門性を必要としないプログラム開発:
簡略化された行動分析,グループワークでの学習,会議運営の明確なルール(インシデントプロセス),専門家からの技術および心理的サポート。保護者の活動にもつながり,家庭内でも変化が生まれた。

課題。教育委員会主体のため縦割りになる。転勤による人材流出。予算およびインストラクターの確保。量的な限界から保護者は1回しか受講できず,また個別支援が必要なケースには対応困難なこと。

討論

・事業展開のツール。姶良市は基礎調査票・紹介票といった情報連携面。熊本市は拠点校指定やブロック導入などの組織面。鹿児島市は研修・ワークショップなどのスキル面。

・問い:他の地域でも実践を再現できるか。長期間続けていくために必要なことは何か。継続する上での課題は何か。採用した方法の選択理由とそれ以外選択肢は何か。(肥後先生)

・福元先生:
連携を依頼した医療機関側でも対応が異なるため,連携のポイントになる。
自分は教育委員会と福祉を兼務しており,これが必要。
教育委員会の異動問題。後任に自分のビジョンを伝えていくしかない。
選択理由は予算的な問題。また,他機関にかかっているからと任せっきりになっていく。子どもの生活が分断されてしまい,本人と家族が混乱する。中核的なサポート点が必要

・城門先生,塚本先生:
学校数が多いと,熊本市のようなシステムを作らないと,将来担当者が変わるなどした場合,サービスの質低下を招く。
肥後先生が熊本大学にいたときに,今のシステムを作った。何度も相談し,アイディアをもらえたことが大きかった。
拠点校,拠点校以外,ほかの福祉機関にも仕事をふり,負担を集中させないことが大切。

・有村先生:
対象とする地域ごとに合わせた実施が必要。地域内のニーズを調べることも必要。研修を1-2回しても力はつかない。2-3年で独り立ちする。
継続するにはビジョンが必要。立ち上げ時のビジョンではなく,展開させていくビジョンが重要である。
予算が必要。参加希望者がどんどん増えており,量的な供給がネック。トレーナー側のファシリテーション力,コーディネイト力が必要。

・ビジョンを共有する,って言うことは簡単だが,実際はどうする?

・CBRは特定の技法を使うことではない。RTIのような階層モデルとは直接関係しない。なぜ先進国の日本で,途上国向けのCBRを導入する必要があるのか?とよく問われた。国内では考えている以上に多様性があり,地域毎に問題が異なり,解決するアクションをしていくためにCBRが有用と考えている(肥後先生)

・行政の縦割りをどう打破するか。部局横断的なコーディネイトする役割をどうするか?担当者兼務しかない?
城門先生は関連部局の経験がほぼ全てあり,現役管理職をよく知っている。これが重要だった。後任の塚本先生はそれを継続させていくことに課題意識がある。

・行政システムは継続されやすい一方,縮小再生産になりやすい。行政は行政だけで課題をかかえがち。姶良は行政官がどんどん連携をやっているやや特殊な事例。熊本市・鹿児島市は民間と行政のコラボ。行政だけで解決する必要なない。
ABAなどの手法は肥後先生曰く「ハード」。ビジョンや組織は「ソフト」。今まではハード一辺倒だったが,ソフト面を重視していく必要がある。(肥後先生)


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