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懐かしさの秘密

先日、散歩ついでに藤枝市郷土博物館で開催されている黒井健さんの絵本原画展に行った。黒井さんは色鉛筆を油でぼかす手法を得意としている。ぼやっとした色合いには暖かみがあり、抽象化による引き算の美学を感じる。空間を広く切り取り、その中に対象となる建物や人物を点々と描いた風景イラストには不思議な懐かしさを覚えた。

メモを取り忘れたので曖昧だが、「ふるさとは各々にとっての具体的な場のみを指すのではなく、音や匂い、光などの記憶に起因している」といったことが書かれていた。つまり初めて出会う景色でも、自身の記憶に共鳴する部分があれば、人はそこに懐かしさを感じてしまうというわけだ。

蓮華寺池公園(2024.2/13)

ふるさとを構成する要素は自覚しているものもあれば、自分で把握できていないものもたくさんある。それゆえに道端を歩いていると不意打ちのように懐かしい気持ちにさせられることがある。

写真や動画のように好きなときに追体験できるわけでなく、その感覚を再入力したときにしか想起されない遠い記憶。自分が覚えていなくても、自分の感性が大切だと思って無意識下に保存していた感覚だ。自分のことでもよくわかっていない部分はたくさんある。歩くことは世界を見ると同時に、自分の中を見ることでもあるようだ。

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