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訪問販売の人を家にあげたらとんでもない展開に!!〈Part2〉

時計が午後3時半を指し、私はあの男(ひと)を待っている
マスク生活でしまい込んだままの紅なんか差して
バカみたい・・・どうせマスクで見えやしないのに

出会う前とはがらりと変わったこの部屋
カーテンもカーペットも、クッションも、履いているスリッパも、
みんなあの男の色に変わった
今日変わるものは、もうあれしかない

初めてあの男が来たのは、3月3日の午後3時33分

ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪

誰よ、こんな時に
片頭痛がひどくて、やっとの思いで玄関までいくと、
大きなカバンを持った訪問販売員が立っていた

あの男は柔らかな表情で言った
「辛いですよね。このスリッパ履いてみてください」

え?私、何も言ってない
反論するのも面倒で、私は男の差し出したスリッパに足を通した

体が軽くなり、頭の痛みやイライラが嘘のように消えていった

「身につけるモノやいつも目にするモノは
気分や体調を大きく左右します。
あなたとマリアージュできるモノだけを提案することができます」

ダンナがホームセンターで2足千円で買ってきたスリッパと引き替えに
私は、1足3,333円のそのスリッパを買った

それから毎週木曜の3時33分にあの男はやってきた
私にマリアージュするものを提案し、
代わりに不要なものを引き取って行った

グラスやお皿、カーテン、カーペット、
ソファやベッド、電化製品までも
どんどん取り替えた
その度に私の心は晴れていった

そしてダンナが可愛がっていたインコを
リクガメに取り替えた
出張の間に死んだと言ったけど、
さすがに不信感を抱いたようだった
どうせ最初っから共通項なんて何もない
かまいやしない

そして、今、家のほとんどは私とマリアージュできるモノ
つまりあの男の色に変わっている
あともう少し・・・

午後3時33分
ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪

今日引き替えるモノは決まっている

「本当にいいんですね?」

私が頷くと
いつもより大きなカバンを持って家に上がり、
勝手を知ったようにバスルームへと向かった

「少しお時間がかかるかもしれません。
終わったらお声をかけます」
バスルームのドアが閉められた

リビングでお気に入りのカップでお茶を飲みながら
私はそれを待っていた

(何かここで転換するような音楽)

大きなカバンをパンパンにしてあの男は戻ってきた

「これで、あなたとマリアージュできないものは
すべて無くなりました。表札も変えておきます」

ようやく、あの男の名前がわかった
私とマリアージュできる名前だ

おわり

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