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息子が彼女を家に連れてきたら75歳のおばあちゃんだった!


オレのカノジョは後期高齢者


おいおい、そんな話しドラマの中だけだって。

「界人くん、本当なんだってば……
信じて、私は亜湖なんだって」

いやいや、そんな小首かしげられても。


信じられるわけないでしょ……
目の前で俺の彼女の名を連呼している白髪のおばあちゃんが、
ミスこんにゃく小町の亜湖だなんて。

「私も訳わかんないよ。
突然おちゃんと入れ替わっちゃうなんて」

亜湖だと言い張るおばあちゃんは
泣き出してしまった。

「じゃあさ、証拠を見せてよ……亜湖だっていう」

おばあちゃんは、
突然俺の右耳の付け根にある小さな穴に鼻をくっつけた。

「亜湖が一番好きな界人くんのにおい」

耳瘻孔と言われる生まれつきあるこの穴の存在は、
家族以外亜湖しか知らない。

というか、チーズのようなにおいがするこの穴は、
亜湖のお気に入りだ。

「本当に亜湖なのか?」

ドラマのようなこの状況を俺は受け入れることにした。


「許すわけないでしょ。
75歳のおばあさんと結婚だなんて」

亜湖を家に連れて行くと、
案の定俺の母親は猛烈に反対した。

「75歳だからだよ。
残り少ない彼女の大切な1日を無駄にしたくない。
早く結婚したいんだ」

いくら懇願しても母親は認めようとしない。

「今すぐ籍だけでも入れて、ふたりで生きていこう」

もう駆け落ちしかない、
俺は亜湖の皺だらけの手を握りしめた。

「界人くん、ありがとう……でも、別れよう。
お祖母ちゃん、末期癌だったんだって。
中身は25歳の亜湖だけど、身体はお祖母ちゃんなんだもん。
亜湖、もうすぐ死んじゃうんだよ」

「だったらなおさら……」

死期が迫った亜湖ならむしろ好都合だ……
俺は必死に亜湖を引き止めた。

しかし、亜湖はなにも言わずに姿を消してしまった。


失意のどん底から1か月、
突然25歳の亜湖が目の前に現れた。

俺は驚いて
「お祖母ちゃん!?」と叫んでしまった。

「やだな、亜湖だよ!
あれからお祖母ちゃんといろいろ試して
ようやく元に戻ったの」

いろいろって?
どんな方法で元に戻れたのか詳しく聞きたかったが、
それよりも聞きたいことがあった。

お祖母ちゃんがどうしたかだ。

「お祖母ちゃんは亡くなったの。
でも亜湖の身体を借りて合コンしたり、
最後まですごく楽しかったって」

だから、そんなことよりも俺が聞きたいのは……

「その……お祖母ちゃんってすごい金持ちだったんだろ」

「そう。よく知ってるね。
だけど遺産はぜーんぶ詐欺の被害者救済団体に寄付したよ。
ああいう輩は絶対許せないって」

「元に戻れたんだから。ね、私たちまたふたりで」

「……ムリ……亜湖にもう用はない」

すると、突然亜湖が俺の耳瘻孔に顔を寄せ
においをかいだ。

「臭いモノには蓋をしないとね」

「イタッ! え……亜湖?」

耳瘻孔にアイスピックが刺さっていた。
耳がドクドクと脈を打ち、鼻腔に血のにおいが広がった。

「亜湖もあんたの正体ば知らんで逝けてよかったたい」

「ま、まさかあんた……」

いつの間にか屈強な男たちが現れ、
俺は車のトランクに投げ込まれた。

「きっちり最後まで亜湖に付き合ってやんない」

車が向かう先は……おいおい、
それはドラマの中だけの話だよな。
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                             (終)

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