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【予測不能】二転三転するショートホラー


廃校決定

『廃校もしかたないね』

どこから仕入れてきた情報なのか
SNSのグループラインに、そんな書き込みがあった

『あーね』
『偏差値も高くないし』
『部活動でのウリもないし』
『卒業生は、うちらみたいにパッとしないしね』

SNSでは 次々とそんな言葉が飛び交う

いわゆる 卒業クラスのSNSで
定期的につぶやく何人かがいるので
かろうじて消えずに残っているようなグループだ。
読んではいるけど、もう長いこと既読のみにしている。

『廃校したらどうするんだろう』
『校舎は解体しちゃうのかなあ』
『校歌、まだ歌える?』
『歌えるよ。“清き心の白い花~”』

『そういえば行方不明になった子、覚えてる?』
『ともちゃん?』 
『そうそう、知子! どうしてるのかなあ』

『え、だって……自殺じゃなかったっけ』

ポンポンと続いていたラインが一瞬止まる。
空気読め

『そうだった』
『知子…… なに、悩んでたのかなあ』

一瞬にしてお通夜のようになる
忘れてたくせに

『ちがう、自殺じゃないよ』

え……。

『だってわたし、知子に会ったもん』

え…………。

『にこにこして、なんだかうれしそうだったよ』
『幸せなんだ。よかった、ほっとした~』

笑のスタンプ
うれし涙のスタンプ
またね、のスタンプ

……まあ、そんなもんでしょ。

次の日の夜、車にシャベルを積んで、学校に行った。
まわりに人がいないのを確かめて、敷地内に入る。
北の校舎の裏、化学室の横。

なんとかしなければ。
校舎が解体される前に。

しかし──ここにきて、躊躇ってしまった。

会った人がいるのなら、
自分の記憶のほうがまちがっていて
知子は本当に、幸せに暮らしているのかもしれないよ?

「何してんの」
暗闇から、声が聞こえてきた。

「やっぱりね」
「来ると思った」
「掘りなよ。確かめなよ、先生」
「エロ教師」

……迂闊だった。
女子高育ちのこいつらが、いかに粘着質だったかってことを
すっかり忘れてた。

「廃校って聞いて、ちょっと懐かしくなっただけだ。
 おまえらこそ、どうしたんだ? みんなで集まっちゃって」

姿は見えない。
クスクス……
笑い声だけが聞こえてくる。

「先生。みんながいるって信じたの?」

暗闇から、ひとりの女がでてきた。
……知子だった。

「あのグループライン、ぜんぶわたし」

「でも、今、何人かの声が……」
「それも、わたし。……ごめん、脅かしすぎちゃったかな。
 でも、もういいの。こうして会えたから」

「知子、おまえ……、今、どうしてる……?」

「幸せだよ」

知子は、笑った。

「あのとき言ったよね。赤ちゃんができたって」

「…………」

「わたし、あれから先生との赤ちゃんを産んで、
 ひとりで立派に育ててきたんだよ……土の中で」

土から、にゅっ……と、手がでてきた。
「先生、こっち来て」
女の手。

「パパぁ……」
そして、子どもの手。

ふたつの冷たい手に、足をとられて、
オレは、そのままずぶずぶと、土くれの中に……


遺体の身元は、ふたつとも、すぐに割れた。
何年か経過した白骨と、死後数時間の遺体。

不可解だったのは、白骨の下に遺体があったことだった。
白骨に抱きしめられるようにして、
遺体は身をよじったまま硬くなっていた。

廃校するというのは、ガセネタだった。
“清き心の白い花”
校舎から、今日も校歌が聞こえてくる。

おわり


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