丘陵に溶け込む パウルクレーセンター(建築物語9)
今回はスイスの美術館、パウルクレーセンターを紹介していきます。
首都ベルン郊外の美術館です。屋根の美しい、世界遺産に指定された都市ベルンから路線バスで接続されています。芝の緑の美しい、緩やかな丘に建つ建築です。
スイス出身の芸術家パウル・クレーの作品を数千点所蔵している美術館で、2005年竣工です。美術館機能だけでなく、地下には多目的ホールが配置されています。
設計は、レンゾ・ピアノ氏です。国際的に有名な建築家で、日本では関西国際空港(1994)、銀座のメゾン・エルメス(2001)が有名でしょう。
世界では、ポンピドゥーセンター(パリ 1977 リチャードロジャースとの共同設計)などを設計している建築家です。
緩やかな丘の中腹に、パウルクレーセンターはあります。
過去の記事で紹介した伊東豊雄さん設計のぐりんぐりんが3次元的なうねりをもつ建築ならば、パウルクレーセンターは2次元的な、波型にうねる建築です。
3つの「丘」で構成された建築ですが、ぐりんぐりんも3つの「丘」の構成でした。連続したデザインは、3つがちょうどよいのでしょうね。2つだと建築表現として足らないし、4つ以上だとうるさい、といった検討の結果なのでしょうか。
エントランスは、ガラスの回廊となっており、向こう側の構造が連続して見えます。
構造は、うねった梁をロッドのような細い部材で相互につながっています。梁の部材は、無垢ではなくて、仕上げがしてあるのでしょうか、パネルのような目地が見えます。
内部空間では、波打った構造躯体をそのまま感じられます。丘の妻側はすべて開口部となっており、開放的です。
窓の外側には、巨大なルーバー(日よけ)が設置されており、やわらかな間接光が降り注ぐ空間となっています。ルーバーは光を拡散するため、全方位的に明るい空間となっています。
またルーバーは、外観の印象に大きく影響を与えるデザインの要素ですが、同時に室内空間の断熱性にも配慮されています。
レンゾ・ピアノの作品は、他にもバイエラー財団美術館(スイス バーゼル)、NYタイムズビルディング(アメリカ合衆国 ニューヨーク)などを訪れました。いずれも大開口が開けられており、美しい日よけの装置がデザインされています。
アーチの構造体から、照明器具が設置されているので、やはり構造躯体そのまま見せているのではなく、仕上げがしてあるのでしょう。
バイエラー財団美術館では、トップライトに幾重もの日よけの要素をデザインし、自然光が降り注ぐ展示室でした。
しかし、このパウルクレーセンターは、天井からの光は意図して避けられたようです(レンゾピアノ作品集より)。
外方立形式のサッシや、鉄骨むき出しの庇など、レンゾ・ピアノの作品は、メタルワークが美しいです。
見せたくない要素はうまく隠し、見える部位は機能的にデザインされています。
このパウルクレーセンターは、美しい形態とディテールに目を奪われがちですが、とても機能的に設計されています。
例えば、写真に見える、水仕舞の屋根材のさらに上に設けられた美しい細いルーバーは、屋根の断熱性能を上げる要素となっているように、無駄な部材は一切ありません。
しかし、金属製の躯体を直接地面に触れさせるデザインは、挑戦的だと思います。多雨・多湿な日本では、すぐにさびてしまうので、まず見られないと思います。
建築の周囲は解放されており、自由に丘を散策できます。金属の躯体が、空と丘に溶け込んでいます。
ここでも、日本だったら屋根に侵入防止・落下防止の手すりがつくんだろうな、と思いました。
実は、学生の時はレンゾ・ピアノの作品はあまり好きではありませんでした。もっと、伊東豊雄とか安藤忠雄とか、ザハとか、リベスキンドとか、分かりやすい建築が好きでした。
よく考えると、レンゾ・ピアノの作品は、どうしてもスキン・デザインが前面に出て、コンセプトがぼやけているような気がしていました。でも、社会人になり、温熱環境に配慮した窓回りのデザインをするようになって、改めて彼のすごさを思い知ったわけで。
シャープなコンセプト、美しい形態と、息をのむ窓回りの精緻なデザイン。
レンゾ・ピアノのように、純度の高いデザインを表現できる建築を設計したいと、思いました。
ぱなおとぱなこ
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