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”設計コンサルティング”という仕事をつくって体感して学んだこと

設計コンサルティング、という仕事をフリーランスの間にしていました。聞いたこともない、というかたぶん僕がつくりだした仕事なので、はてなと思うでしょうね。独立して、個人になって「さあやるぞ」と息巻いても、ろくに仕事がなかった頃の話です。

何かできないだろうか、と考えまして設計案件が来る間の、つなぎになったらと思い、ゆるい気持ちでこのスキームならいけるかもということで始めました。

ある建築系のサイトに業務内容を載せたところ、1年間に2件ほど依頼があったので、僕が思った以上にニーズがあるんだ、と驚いたのを覚えています。でも、その間に設計の仕事がたて込んだし、なによりいま会社員なので依頼があってもお断りしている状態です。


さて、設計コンサルティングとはなんの仕事やとざっくり言うと、クライアントに寄り添い、住宅づくりのお手伝いをすること。気の利いた建築家さんならあたり前にやっている設計でのサービスに焦点をあてた仕事です。ざっくりね。

依頼していただいたクライアントは、「ローコストの注文住宅!」と銘売ってCMなんかもバンバン放送するような有名なハウスメーカーに住宅の設計を頼んでいました。

そんな設計中の計画案を見せてもらいますと、住み心地がよいとか、美しさへの追求とか皆無でして、単に住む機能だけを詰め込んだ効率重視の建売住宅そのものでした。
また、設計のスケジュールもタイトでして、3週間に1度のペースで計3回だけ打ち合わせして、実施図面を書く工程に進むというものです。住宅に大切な、間取りを含めた空間を決める打合せが、たった3回ということです。これでは、建築設計をやっている僕はもちろん、門外漢のクライアントに計画案の良し悪しなんて決められないです。

つまり、せっかく注文住宅を依頼したのに、でてくるのは建売住宅のプランでクライアントが誰であっても良い大量生産的なプランであること、また打合せの回数が少なすぎて、あれよあれよと言う間に設計内容が決まってしまう2点が問題でした。「注文住宅」という意味とはなんだと、僕はショックでした。

あ、誤解して欲しくないのは、ハウスメーカーだからダメという話では決してなくて、設計で困ったことがあるからたまたま依頼が続いた、ということです。世の中にはクライアントに寄り添う、自由な設計があるハウスメーカーもたくさんあることでしょう。


1件目のクライアントさんの話をすると、建築途中にお子さんが生まれる予定の都内に住むご夫婦でした。設計の打合せ2回目の案が出た時点で、僕へのご依頼がありました。世田谷区の景色の良い河川敷があって静かな住宅地ですが、住宅同士の密度が高く、若干日当たりに難のある小さな土地が敷地でした。

「自分の思い描いた夢がくずれて、どこでもある普通の家になってしまいそうでとても不安です」と奥様に語っていただきました。

まず僕が取り組んだのは、設計スケジュールをクライアントを通して修正を頼みました。設計担当の○○ハウスとは一悶着ありましたが、3週間に1度の打合せを2週間に1度にしてもらうことで設計の打合せを2回分増やしてもらい、加えてメールでの間取りのやりとりをすることにしてもらいました。

これで設計打合せは5回+メール。間取りが考えられるチャンスが2回増えたので、勝手にどんどん進む感は薄れてよかったとクライアントはおっしゃっていました。

次に、間取りの改変です。当初案は、1階がLDK、洗面・風呂で、2階に寝室が3部屋でした。狭小敷地で、延べ面積60㎡くらいしか建てられない中で、色々詰め込みすぎてLDKが9畳しかありませんでした。

ハウスメーカーというところは、だいたい建てる住宅の構造・工法が決まっています。だから、設計担当○○ハウスができる工法で建てなくてはならないので、構造はよくある木造軸組工法でできる間取りを考えました。

僕が設計するなら、これだと思う空間があって、それに合う構造・工法を選ぶものですが、実際クライアントは工事請負契約まで結んでいるので、ぐっとこらえます。

クライアントに話をよく聞くと、家族の居場所はやはりLDKにしたい、子供は2人予定とのことでした。そこで日当たりの良い2階にLDK、日当たりの悪い1階は風呂・寝室3部屋としました。これでLDKは18畳になり、また4メートルと高い天井が取れたので、家族がくつろげる広々としたスペースになりました。

そのせいで1階は詰め込み感が半端なかったですが、子供に対しては勉強も遊びもLDKでして欲しく、個室は寝るだけでよいとの教育方針でしたので、子供部屋は文字通りベッドと机が置けるだけの広さとしまして、折り合いをつけたのです。

こうしたことをはじめ、建築家さんと呼ばれるひとなら当たり前にやっている、

・住宅への夢があって、夢を実現するための要望をじっくり聞いてゆく作業
・その要望にあった間取りを何度も考える・パースでイメージを伝える。(模型づくりは設計のスケジュール的に出来ませんでした。)
・外壁、床材、壁紙、タイル、キッチン、建具などの素材を現物をみながら一緒に決める
・契約に関わる図面=基本設計の終わりと、実施設計の最終図のデザイン・性能面でのチェック
・設計担当が監理せず、現場監督が兼務しているというちょっと怖い体制だったので工事現場に頻繁に通い、クライアント側の代行として現場に変更を伝える

などなど。

というように、「こんな問題があってこう改善した」という手前味噌感たっぷりの羅列が嫌なので、いろいろやりましたが話を割愛しました。そのくらい、僕が考えてきた設計の在り方というか、クライアントに寄り添う姿勢があまりに遠く、「注文住宅」の実態にショックを受けたのは事実です。


2件目もクライアントが子育て中の若い夫婦で、違うハウスメーカーでしたが、まったく同じ問題のケースでした。クライアントに寄り添わない設計。その、家づくりに欠かせないピースを僕が埋める手伝いをするイメージ。


そこには、家づくりの実体験に挑んだならではの、発見や学びがありました。


世の中には、建売住宅と変わらない設計の技術と、利益優先でクライアントの意向をくまない注文住宅での自由設計という現実があるということ。

僕は設計側の人間なのでハウスメーカーなど他の設計事務所の設計に触れることはまずないが、他業者の家づくりの「実際」に立ち会ったという経験。

クライアントが求めているのは、できた家という「結果」だけでなく、設計していく中で自分自身も建築家も一緒に、納得いくまで考えられたという「過程」もすごく大事にしていること。頭ではわかっているけれど、これ、とても重要な学びです。

設計という仕事は、単なるモノづくりではなくて、家づくりをしたい人が、建築家が技術的にサポートして、絵や模型や言葉で具現化しながら建築家と一緒になってじっくり考えていく、人生で数少ない「体験」なのだなあと。そんな「体験」を良いものにするのも、悪いものにするのも、設計者なんだと、自分でも知らないうちに背筋がしゃんと伸びていたことを覚えています。


いつかよい機会があれば、とてもやりがいがあることだし、またチャレンジしたい仕事だなと思っています。

確かにこの仕事は、クライアントが既に契約を交わしており設計者を変えられない中で、その業者の決められた構法や外壁や内装といったフィールド内で改善していかなくてはならないので、自由にはできません。もちろん、クライアントには予算がきっちり決まっているので、金額が跳ね上がるような、彼らの設計システムを逸脱したことはできません。

そんなルールの中で、クライアントと一緒にパズルをはめていくような「過程」を共にする作業は、設計とはまた違った達成感を感じられるような気がしています。


ぱなおとぱなこ


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