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貫入する美しいディテール 猪熊弦一郎現代美術館(建築物語19)

今回は香川県丸亀市にある、美術館をみていきます。洋画家の猪熊弦一郎から寄贈された2万点の作品が見られる、丸亀駅前すぐの美術館です。

ミモカ=MIMOCA(Marugame Genichiro Inokuma Musium Of Contemporary Art)の愛称で呼ばれています。

設計は谷口吉生さんです。前回紹介した法隆寺宝物館や、ニューヨークの現代美術館(MOMA)の設計を手掛けています。

JR丸亀駅を降りるとすぐの駅前広場あります。カラフルな屋外アートとともに、門型のフレームが広場に向かってぽっかり口をあけているファサードです。

正面の壁面には、猪熊作の巨大な壁面が見えます。まるで門型フレームが額縁のように陰影をつくりだし、壁画がよく映えています。建築とアートが一体となっています。これが、サイトスペシフィックというのでしょうか、圧巻の景色です。

門型の正面にエントランス、脇に大きな階段がある構成は、法隆寺宝物館でもおなじみになっています。僕はこの門型フレームの形式が好きすぎて、とある大学施設での設計で参考にさせていただいたほどです。

竣工は法隆寺宝物館よりも8年早い、1991年。

延べ面積約12,000㎡と、けっこう大型の美術館となっています。美術館のほかに、図書館、レストラン、ミュージアムホール、スタジオ、屋上広場が1つの建築に内包されています。ですから、美術館単体としてはわりと小規模です。




模型写真がボケボケですみません。門型フレームと、円柱型のEV棟のある南側がメインのファサードとなっています。青森県立美術館とは違い、都市型の美術館ですので、東西南北全てをデザインするのではなく、バックヤードをうまく隠しています。



シンプルな門型フレームの中には、こだわりがたくさん詰まっています。

門型のフレームは、先端になるほど細くなっています。フレームを支える柱・梁を後退させることによって、シャープな縁を実現しています。下がり天井のところが、梁の位置でしょう。

絵画の下地となるタイルの壁は細目地となっており、壁画が映えるように白いキャンバスに見えるようになっています。

壁画の上部は、展示室へのハイサイド・ライト(高窓)となっており、門型の天井と切り離されたディテールとなっています。門型の中にさらに箱がはいっているように見せる工夫がされています。

天井の大型アルミカットパネルは、目地にてビス止めとなっているため、余計なものは見せず、とてもシンプルに見えます。


モノリシックなエントランスは、谷口建築の代名詞となっている正面壁で横入りのタイプ。ディテールが完全に消し飛んで、部材のプロポーションの美しさが浮き上がっています。

エントランス黒壁の左、浮遊する庇のあたり、の床にはなんとシャッターが収められています。せり上がり式シャッターだそうです。シャッターを天井に収める場合、シャッターボックスは大きくて、どうしても天井のフトコロが大きくなってしまいます。床に仕舞ってあるから庇は細く美しいプロポーションとなっています。




大階段の吹き抜けた通路。大きな階段室といった空間。

ルーバーから差し込む柔らかな光が障子のようです。谷口さんの建築って、空間に差し込む光が均一ではないんですね。空間を全方向的に照らすのではなくて、スリットや、ハイサイドライトや、ルーバーやトップライトを効果的に配置して、メリハリの効いた光空間となっているので、歩いて楽しいです。

かといって、モダニズム建築のように強くて直接的な光ではなく、柔らかい間接光を散在させて、たとえば行燈が点々と光っているような、日本建築に通じるものがあります。




エレベーター棟へ繋がるブリッジが、そのまま開口部に貫入している、ハッとするような美しいデザインです。

部材の厚みはゼロなのかと思うほどチリ(厚みによる小さなでっぱり)がほぼないディテールです。サッシは潰し枠を使っており、枠が見えないので、そこにガラスがあるのかと思うほど透明な開口となっています。




門型フレームに面した展示室。

門型の庇が直接光を遮り、サッシレス(もしくは上下2辺支持ガラス)のハイサイド窓から間接光が差し込んでいます。

サッシレスはつまること枠無しです。そうすると建物が地震などにより動くとガラスは割れるので、多分変形に追従できる上下2辺支持なんだろうな、とそんなことを考えながら。

それにしても2本の並んだ柱配置が絶妙ですね~。


展示室の間の休憩ができるホワイエ。谷口さんのつくる共用部は、吹き抜けがあって光が降り注いでて、とても気持ちが良いです。美術館ってメインは展示室なのだけど、展示室までのエントランスホールや廊下がカッコいいとワクワクしますよね。


模型のように極限までディテールが消された階段。巾木が深目地タイプ(入り巾木)なので、模型の中にそっと置かれたみたいに見えます。


階段との防火区画部。谷口さんは1つの施設に吹抜をたくさんつくりますが、区画が見えない工夫がされていて、世界観を損なうことがありません。


ステンレス手すり。握りやすい形状でした。細くて目立たない手すりも良いですが、空間の要素として見せる手すりもよいですね。


丸パイプでつくられた施設名称サイン。「MIMOCA」ロゴのかわいらしさが出ています。塗料のシミはご愛敬。




門型のフレームや、貫入するディテール、多彩な吹き抜け、ブリッジなどの空間要素は、そのずっと後設計することになるニューヨーク現代美術館にふんだんに取り入れられています。

MIMOCAは、ニューヨークに比べれば小さな美術館ですが、建築のルーツが色々なところで垣間見ることのできる縮図となっています。よりヒューマンスケールでその美しさを感じられるMIMOCAのほうが、僕には好みです。

今年に、改修工事を経てリ・オープンしたので、ぜひ行ってみてください。

そういえば、エスキスシリーズで古谷誠章さんがMIMOCAまるごと解説されてます。詳しく知りたい人はどうぞ。僕も読みましたけど、空間構成のような大まかなことから手すりのデザインなどディテールまで解説されており、MIMOCAファンにはたまらない良い本ですよ。絶版のようなので、探してみてください。



谷口さんの建築はこちらの記事でも紹介しています↓




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