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雪の夜(ちょっとすてきノォト❺)

2023年1月24日、
関西ではひさしぶりに激しく雪が降った

夕方、仕事の手をとめ、
ブラインドをあけて外を見てみると吹雪!

雪を見慣れない、大変さを味わったことのない
西の生まれの人間は、
雪が舞うのを見てわくわくと興奮したりする、、、

帰りの電車の中、
傘を持っている人が多く、床はぬれていた

途中で乗ってきた女の人が、わたしの目の前で
つるっと足をすべらせる

わたしはスマホを見ていて、
視界につるっとすべる様子がうつったから、
お願い!持ちなおして!
と念をかけたけど、
持ちなおすことができず、盛大に女性はこけた

彼女は黒の厚底のブーツをはいていた
(また流行ってるの?)

すぐさま、「大丈夫ですか?」と声をかけると、
こくんと頷くので大丈夫だろうと
スマホの画面に戻るが、なかなか立ち上がれない

ふんばって、腰をあげようとするけれど
立ち上がれない
生まれたてのバンビのように

え?え?あれ?
大丈夫じゃないよね、と見守っていたら、
わたしの斜め前のおばさんが早かった!

迷いなくさっと立ち上がり、
彼女を支えようとすると、
同じタイミングで20代の女子も参戦


いや、なによ、わたしもよ、と膝に置いていたかばんをどさっと
座席に置き、
3人の血気盛んな女性たちで、立ち上げれない厚底女子を支え、
座席に座らせた

見ると、鼻か口からか血が出ていて(マスク越しに)
一番乗りのおばさん(リーダー)が、
「ティッシュ!ティッシュ!」と言うので、
かばんからティッシュとウエットティッシュを出しながら、
乗っている近辺の乗客に、

「ティッシュありませんかぁ!?」

と、大きな声を出す
(わたしってビビりのチキンじゃなかったっけ!?)

わたしの隣に座っていたじいさんも、ポケットから黄ばんだ
くしゃくしゃのティッシュを出し、
「これ、、、」と手渡してくれた

サンキュ、
黄ばんでいてもないよりいいわ

すぐに次の駅に着き、
なにやら、
降りる人たちがわたしにティッシュを渡してくれる

これ、どうぞ、と言って髪の毛を染めた若い男の子やおじさんや、
うっすら笑顔で、
降りるけどごめんね、みたいな表情で


「僕、ここで降りるのですみません」

と、しっかりきっぱり言葉にし、
次にティッシュを手渡してくれた男性の顔を見たら、

びっくりするくらい男前で、
こんな人が、この電車に乗っていたのか、
というくらい美男で、知らんかったわー、
スマホなんか見るもんじゃないわ、と、
受け取りながらへらへらしたわたしをどうか許して

なぜか物資調達係になってしまったわたしは、
集めたティッシュを使いやすいようにビニールからはずし、
怪我している女性の太ももに置く

だいぶ、落ち着いてきたのか、
「ありがとうございます、ありがとうございます」
と繰り返す
その瞳はうるんでいた

マスクが血で染まっていて、
「替えのマスクが」、と隣で介抱するリーダーが声を出すと、

またしてもじいさんがズボンのポケットに手をつっこみ、
くしゃくしゃのマスクを出してきた

女性は、

「大丈夫です、大丈夫です、替えあります!」

と、必死で遠慮した(抵抗した)

わたしは思った
やはりマスクのスペアは常に持っているべきだと

じいさんの気持ちはうれしいが、
口につける難易度は非常に高い


わたしの降りる駅に到着して、

「降りますけど、大丈夫ですか?」

と、言ったらこくんと頷き
「大丈夫です、本当にありがとうございました」
と彼女は礼を言った

リーダーと若い女性も、笑顔でわたしを見送ってくれた

ホームに降りると雪はまだ激しく降っていて、
凍えるほど寒かった

でも、一致団結した車内のみなの優しさが、あったかかった
じいさん、おもしろかったなぁ!

わたし以上に、
怪我した彼女がみなの優しさに感謝していると思うけど

そして、
たぶんきっと、

厚底ブーツは天気の良い日にしか履かないと
決心していることだろう




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