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『私たちが星座を盗んだ理由』北山猛邦

※かなり致命的なネタバレをします。未読の方はどうぞご注意ください。


表紙のイラストがかわいかったのと、あまり重くなく、かつ軽すぎないミステリが読みたい気分だったので、作品紹介にざっと目を通してすぐにレジに持っていきました。

5つの物語が収録されていて、そのすべてにそれぞれどんでん返しが待つ、と書かれていたので、ほうほう、それはどんなものかと興味津々で読みはじめたのですが。

苦味に多少の差はあれど、とにかくいずれも後味が悪い。

といっても、本を投げたくなるような後味の悪さではなく、物語自体はそれぞれ引き込まれる面白さがあり、だからこそ、最後の最後にガツンとやられるというか。

1話めの「恋煩い」は女子高校生が主人公で、恋が実るためのおまじないに一喜一憂する、なんてことはないお話なのだけど、読み進めていくうちになにやら不穏な気配がにじみ出してきて。
ラスト一行、あの短いたったひとことに背筋がゾッとしました。そんじょそこらの怪談よりよっぽど怖いよ。相手が生身の人間だけに。

次のお話「妖精の学校」
これがいちばん強烈に印象に残りました。
でもたぶん、このお話がこの本のなかでいちばん淡々としていて、起承転結がはっきりしません。
読み終えたあと、いったいどういうことなのか全然わからなくて、反則技と思いながらも気になってネットで検索したくらい。
すると、そんなわたしと同じ心境の方がわりといらしたようで、すぐに解説を見付けられました。

最後の数字の意味がわからなかったのですが、これはどうやら座標を表すらしく。
「北緯20度25分30秒、東経136度04分11秒」と読むそうです。
この数字が表すのが、日本の最南端にあたる沖ノ鳥島。この非常に特異な「島」のことを調べてみると、「妖精の学校」のあの謎が少しは解ける気がします。

結局、あの子どもたちは、ほかの国の人間を上陸させないためにあの島に幽閉された人質というところでしょうか。最初から読み返してみて、わたしはそんなふうに感じたのですが。
あるいは、島自体はもう海に沈んでしまっているようですし、その上に人工の「島」を造って、それでもここは自国の領土だと主張している、そのデモンストレーションのために、やはり子どもたちを利用している?
子どもたちの記憶を消して、名前を変えさせてまで(しかもみんな「鳥」の名前)あの場所に連れてくる、そこまでするには誰のどんな思惑が絡んでいるのか。場所が場所だけに、国家レベルのプロジェクトになるよね。
159ページから160にかけての先生の言葉がとても意味深です。

ほかの3つの物語も、それぞれ読後感がなんともいいがたいお話ですが、それでも充分に読みごたえがあるバラエティに富んだ一冊です。

切ないようなざらざらした気持ちになってもいいからなにかミステリが読みたい、という方にはおすすめします。

(2015年9/22 読書日記より)

***

【追記】
いまだにこの「妖精の学校」は謎のままです。
それゆえに、わたしがこれまでに読んだミステリー小説のなかでもっとも印象深い作品かもしれません。

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