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『バジリスクの道』山中ヒコ

この漫画をはじめて読んだのは2013年のこと。

月刊flowers 2013年9月号に掲載されたよみきり漫画で、山中ヒコ先生がflowers に登場されたのはこのときがはじめてだったと思います。

とても衝撃的なお話でした。

主人公は、園芸部に所属する心優しい少年・安部くん。
同じ部のユキ先輩にひそかに想いを寄せつつ、遠巻きにでも先輩の姿が見られたら今日は良い日だと思うような、そんな安部くんですが、彼らが暮らす国は内戦状態にあり、毎日のようにどこかで銃声が響き、武器を持たない一般市民の命が無造作に奪われていきます。

力で国民を押さえつけようとする国と、それに反発する反政府との戦いは日に日に熾烈しれつなものとなっていき、経済は正常な機能を失い、店頭からは商品が消え、ついには配給が始まります。

「どうしてこんなことになったんだ」
とつぶやく人に、年配の男性が応じます。

「これまで日々の生活にかまけて、政治や経済に無関心だったツケをいま払っているんだよ」
と。

表紙に書かれていた、
「これは対岸の火事ではない」
という言葉。

その通りだと思います。

この国の未来が、このお話のようにならないという保証はどこにもないし、今このとき、まさにこのような内戦状態にある国が存在するのは誰もが知っていると思います。

武器を持たず、なんの咎もない人や小さなこどもたちが、立場や思想の異なる、でも自分と同じはずの人間たちに殺されていく。
そしてその殺す側の人間たちにも、家族や愛する人、守るべきものがあるはずで。

どうしてこんなことに。
そう思わずにはいられない無惨な状況が、そんな非日常が日常となる。

愛するものを奪われた憎しみの連鎖。報復の繰り返し。

安部くんのように、破壊された学校の花壇にそれでも花を植えようとするのは、
戦わないことを選び、武器を手にしないことは悪いことなのか。
それは弱虫なのか。腑抜けなのか。
優しさは弱さなのか。

そんな葛藤のなか、それでも大事な家族のため、自分の意思を貫いた少年の想いが小さな弟の心に届くことを、ただただ願うばかりです。

どんなときでも、それまで続けてきたことを変わらずにこつこつと続けていくことが、平和だったあの頃へ繋がると信じている。
少年のその想いに、とても共感しました。

今、この物語を描かれた山中ヒコさんは、今この時代に、このお話を読んでほしいと思われたのでしょう。
それが伝わる物語でした。
ひとりでも多くの人に読んでほしいと、わたしも思います。

***

ここで冒頭の話を思い出していただきたいのですが、この感想を書いたのは、2013年のことです。

今回、こちらに書くにあたってほんの少し加筆しましたが、ほぼ当時の原文のままです。

今は、2022年。
約十年前に描かれたこの物語。
現在の世界情勢は、……あえて口にするまでもないでしょう。

あの頃、誰がこんな未来を予測できたでしょうか。

内戦は、紛争は今も世界のどこかで続いています。
戦争も。

「これは対岸の火事ではない」
その通りだと思います。
決して他人事ではない。
戦火の外にいるわたしたちにまずできることは、
「知ること」
「知ろうとすること」

ただひとついえることがあるとするなら、どんなときも、状況を悪化させるのは「無関心」ではないかと思うのです。

作中で描かれた、この国の未来のように。



この作品は長らく単行本未収録でしたが、現在は
『クラスで一番可愛い子』(祥伝社)
に収録されています。

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