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人は過ちを繰り返す

 人は過ちを繰り返す。

 人類の歴史が始まってから争いが絶えた事はないし、法が出来た時から犯罪というものが無くなった事はない。人類とは、なんとも愚かな生物なのである。

 しかしそれらの事例よりも、人類にはもっと身近に起こりうる恐ろしい過ちがあるのであった。これはあなた達も例外ではない。

 人類が日々起こしている恐ろしい過ち……それは、お腹が空いた時に行くスーパーで起こるのである。

「あーお腹すいたなぁ。今晩何作ろうかなぁ……カレーとかかな」

 そう意気込んでスーパーに行くあなたは、まず店頭に並んでいるパンに目が行くだろう。スーパーの隅っこの方に併設されていがちなパン屋は、こういうタイミングを狙って焼き立てほやほやに仕上げてくる。その熱気と香りは、あなたの思考を狂わせて、過ちを犯させる。

「せっかくだからパン買ってくかぁ」

 ここで過ちポイントその1が発生してしまう。あなたはぶっちゃけパンなど買わなくてもよかった。なぜならあなたの家には、既に先日買ったパンがあるからだ。先日も同じ思考でパンを買ってしまっていたのであったが、結局食べていないのであった。食べないまま、今日も同じようにパンを購入してしまったのだ。人は過ちを繰り返す。

 次にあなたは精肉コーナーへと赴く。どうやら今日は豚バラが安いようだ。当初の目的通り、ポークカレーを作るためのお膳立てがされていると言える。しかしここであなたの腹がぐぅとなる。

「んーでもちょっと今日は、多めの晩ごはん食べたいかもな……」

 過ちポイントその2だ。空いたお腹に思考が乗っ取られ、当初の目的からハズれたメニューを考え始めてしまう。確かに、どんな晩ごはんにするかはあなたの自由だ。しかしながら、あなたがいま多めの晩ごはんを食べたいと思っているのは、あなたのお腹が空いているからに他ならない。お腹いっぱいの時にはこういった発想にはならない。空腹思考のあなたは、ここでついお徳用パックの特盛牛バラを買い物かごに入れてしまった。どう考えても使い切れない量の肉だ。人は過ちを繰り返す。

 買い物を終えたあなたは、町中を徒歩で移動する。ああしかし腹が減った。いったん家に帰ってから、適当にパスタを茹でようか……そう考えているあなたの鼻孔を、飲食店達は逃さない。彼らはそれで生計を立てているため、本気で獲物を釣り上げるのだ。
 風にのって流れてくる香辛料のかおり。肉の脂が鉄板の上ではじけるジューシーな香りが、眼の前に霜降り肉を幻視させる。肉だ。肉が食いたい。どうやら近くには焼肉店があるようだ。だがこんな昼間から……しかも一人で焼肉は少々抵抗がある。買い物を終えたあとなので財布の紐も固くなっていることだし。
 仕方ない、あきらめるか……そう思い歩みを進めたあなたに、クミンの芳醇なかおりが届く。カレーだ。カレー屋がそこにあったのだ。

「焼肉はちょっと高いけど、カレーならいいか。お腹もすいたし……ちょっとした贅沢ってね!」

 過ちポイントその3。当初は家でパスタを茹でようと思っていたのに、なんと外食にしてしまった。焼肉店のかわりに別のお店を選んだのでむしろお得! な感じも獲得してしまったし、あろうことか今晩つくるはずだったカレーを外食に選択してしまったのだった。冷静ならばこんなことはしないはずだ。これも全て、腹が減っていて思考が空腹に乗っ取られてしまったからである。人は過ちを繰り返す。

 外食をすませて、いよいよ家に帰り着く。
 お腹の膨らんだあなたは、エコバッグから購入したものを取り出す。お腹が膨らんだので、購入したパンは少し色褪せて見える。「これ買わなくてよかったな……」とか思ってしまいながらも、とりあえずパンが入っている籠につっこむ。先日買ったパンが物悲しそうにこちらを見ている気がする。
 つい勢いで買ってしまったお得用大容量の牛バラを見て「これなにに使おう……」と頭を悩ませる。カレーにしようと思っていたが、カレーは昼に食べてしまったのでなんか嫌だ。別の料理にするにしても、こんなに牛バラを使う必要はまずない。完全に腹が減っていたから選んだ愚かな選択だったのだ。豚バラだけを購入して素直に帰ってきていれば、普通にカレーを作っていたことだろうし、先日購入したパンも食べていた事であろう。それで全て丸く収まっていたはずだったのに、結果として大出費することになってしまった。

 だがしかし、これはあなたが悪いのではない。人間とは生物であり、生物とは腹が減っていれば思考がバグるものなのだ。腹が減っている時は「たくさんたべたいなぁ~今ならめっちゃ食べれる気がする~」と思うのだが、実際お腹が膨れてくると「なんでこんなに頼んだんだよ」と自分に突っ込む羽目になる。これが生物というものなのだ。

 あなたに落ち度があったとすれば、スーパーに出かける前に何も腹に入れていなかったことである。少しでも腹が満たされていれば、あなたは豚バラだけを購入することができた。「腹が減っては思考がバグる」とは、北条氏綱が息子に送った手紙に書かれていた一節である。戦国武将ですらこうなので、現代の我々が克服できる余地もないのであった。

 過ちを犯したくないと思ったあなた。明日からは、何か食べてからスーパーへ行くことをオススメする。それが結果として家計を助け、自炊を促すことへとつながるのである。それこそが、よりよい人生なのではないだろうか……。

 翌日あなたは、少し寝すぎてしまったので急いで身支度を整え、スーパーへと急いだ。時間がなかったので腹には何もいれていない。ああ、腹が減った。

「あーお腹すいたなぁ。今晩何作ろうかなぁ……カレーとかかな」

 そう意気込んでスーパーに到着したあなたは、まず店頭に並んでいるパンに目が行くだろう。スーパーの隅っこの方に併設されていがちなパン屋は、こういうタイミングを狙って焼き立てほやほやに仕上げてくる。その熱気と香りは、あなたの思考を狂わせて、過ちを犯させる。

「せっかくだからパン買ってくかぁ」

 人は過ちを繰り返す。

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