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54 旅の夜には本を読む(前編) タイ、バリ島、マレーシア 

 旅にはガイドブック以外の本を持って行かない。重いから。
 夜の宿で日記やポストカードを書き終えて、まだ8時、寝るにはちょっと早いよなあというとき、活字中毒者はガイドブックをひたすら読む。これから行く場所、もう行った場所、基本情報、豆知識、欄外コメント、奥付、広告、編集後記・・・

 まだスマートフォンなどがこの世に無かった時代、バックパッカーの集まる場所には古本屋があり、旅人が本を売ったり買ったりしていた。ガイドブックを売り払って帰国する欧米人が多いのか、ロンリープラネットの各国版が安く並べられていたりもした。

【 タイ 】
 バンコク、カオサン通りにあった店は、狭いけれど1階と2階に欧米の、3階に日本語の本がぎちぎちに押し込んであった。
 屋根裏のような3階に上がって、棚の端から順に背表紙を眺めていく。大方は推理小説か話題になった本の文庫版、或いは何故か自己啓発本で、あまり食指は動かないのだけど、たまに「お?」っていうのがあって、それを見つける喜びがたまらんのだなあ。

 バンコクに滞在するたびにその店によく通い、よく買った。失敗もしたけど掘り出し物もあった。買った本で印象に残っているのは、
三島由紀夫「豊饒の海」シリーズ
 新潮文庫で全巻揃っていたので購入。が、「暁の寺」以外、2巻以降はあんまり面白くなかった。でも、この地でこの作品に臨んだ前持ち主の熱さが伝わってくるような。
 それから、
宮尾登美子「藏」
 
宮尾登美子は読んだことがなかったのだけど、面白くて昼間もラチャダムヌンクラン通りのマクドで読み続けた。日本にいたら知らないままだったと思う。

【 バリ島 】
 
ウブドのブックショップには手に取りたい本がほとんどなかった。が、日本人向けインフォメーションセンターに、貸本コーナーがあり、1日いくらかで借りることができた。
 ウブドには、夜のガムランと舞踊を観るために滞在しているので、それ以外することがない。で、本を借りる。これまたあんまり好みのものがないのだけど、消去法で選んだ、
田口ランディ「コンセント」
      「アンテナ」
が、ウブドの魑魅魍魎とあいまってなかなかよかった。
夏目漱石
の文庫版が何冊かあったので、それも借りた。日記帳の後ろのページに「草枕」の引き写しが残っている。そんなに暇だったのか・・・・

【 マレーシア 】
 
クアラルンプールのゲストハウス Traveler's moon lodge のロビーには客が置いていった本を並べた書棚があり、なんとなく自室に持ち帰って読み始めたら面白くて部屋にこもりっぱなしになったのが、
群ようこ「山田一家の辛抱」
 
その時のクアラルンプールは連日雷雨で外出がままならず、窓のない部屋で山田一家に救われた。
 以来、群ようこさんの文章はときどき読みたくなって、今でもエッセイを立ち読みしたりする(買えよって話ですが)。

山田一家を読み耽った部屋

 というわけで、夜だけじゃなく昼間もけっこう読んでたことを思い出しつつ
後編につづく

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