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18 英語の深い森(パナジ→ハンピ、マイソール→ウーティ 、そして、アジスアベバ)

 英語が苦手である。でも、だから旅で苦労した、ということは特にない(ま、恥ずかしい思いはするけど)。
 毎回「シングルルームありますか」「1泊いくらですか」「バススタンドはどこですか」ぐらいで長旅もできてしまうので、英語力はまったく伸びないまま今に至る。

 困るのは、長距離バスで欧米人と乗り合わせてしまったとき。僻地の情報交換をしたくても、なかなか細かいことを尋ねたり伝えたりできないのがもどかしかった。でも、みんなが英語ネイティブというわけじゃないので、そこはもう恥を忍んで持ってる力(非常にわずか)を振り絞って単語を発するしかない。

 インドのパナジからハンピに向かうバスで一緒だったイギリス人カップルはとてもいい人たちで、ひとり旅のわたしに何かと気を遣って話しかけてくれるのだけど、ほどなくイングリッシュ脳の限界が。「ごめんね、英語できなくて」と謝ると、二人は「謝ることないよ〜 あたしたちだって日本語できないもん(意訳)」と笑ってくれた。かたじけない。
 カップルはほんとに素敵な人たちだった。休憩時間にバスを降りると、子供たちが「ワンルピ〜」「ワンペ〜ン(pen)」と群がってくるのだけど、売店でビスケットをさっと買って、いちばん大きい子に「two each、two each」と2枚ずつ分けるように渡したのだった。なんてスマートな!
 おお、eachってそう使うのか・・・と生きた英語を学んだ気分だった。

 生きた英語と言えば、同じくインド、マイソールからウーティへ向かうバスでも。
 その小型ローカルバスの混み様はかなりの激しさで、わたしは真ん中ぐらいの窓際にかろうじて座ったものの、脚の間にバックパックを挟み、その上に誰かの赤ちゃんを乗せていた。
 隣には少女とお婆さん。二人掛けの席に三人である。どの席もそんな感じ。通路にはもちろん大荷物がみっしり。
 と、前方の窓側に、大きなバックパックを携えて2席分取っている欧米人女性が見えた。車掌が「荷物を抱えるか屋根に載せろ」と言っているようだが、無視。子供連れの家族が乗ってくると、女性は車掌に「お前、後ろへ移れ」と指示されていたが、「ノー!」と恐ろしい形相で拒否する。地元客はまだまだ乗ってくる。とうとう女性は、車掌と運転手にリュックともども引きずり下ろされていった。下ろされながら女性が叫んだのは
「ア〜イ ニーーーーッド ウインドウシーーーーーーート・・・」
  need ってそう使えるのか・・・わたしはそこでも学んだのだった。

 そんな英語レベルのまま、ある時エチオピアのアジスアベバにいた。
 ゲストハウスの共用リビングに旅行者が集まり、わたしもなんとなく隅っこに座っていた。
 ポーランドからバイクで世界一周する予定のドイツ人、チリ人カップル、イギリス人紳士、宿の若いスタッフも参加して、旅の話で盛り上がっていた in English 。わたしはところどころしかわからず、笑うのも遅れる。
 居心地悪い思いでいるのを、エチオピア人の女性スタッフが察したらしい。わたしに囁いた。
「 Nobody perfect !  No thinking ! Talking!」

 もう、もう、ものすごく感動して今もときどき思い出すのだけど、相変わらずシンキングばかりでトーキングしていない。

 英語だけで世界が回ってるわけじゃないしなあ。

 話は戻るが、ウーティ行きのバスはマイソール市街を出ると山道をよたよた登り始めた。景色がすばらしい。椰子の林から木々の種類がだんだん変わり、よその国の山のよう。気候帯が変わったようだ。降ろされた欧米人はこれが見たくてアイ ニードだったのか。納得。
 窓から入ってくる風は冷たく、ぐだぐだに暑かった車内がいつのまにかひんやりしている。わたしは誰かの赤ちゃんを抱えたまま、偶然のウィンドウシートから深い緑を眺めていた。

ウーティは寒かった。絵ハガキ買っただけ。

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