見出し画像

全部ダメだよ、映画『バブル』

粗筋 

 全世界を「降泡現象」が襲った。東京は膜に閉ざされ廃墟の都となるが、一部の若者たちは楽園を求め移り住む。いつしか、「バトルクール」と呼ばれるパルクール・チームバトルが彼らの間で流行るようになった。
 チーム・ブルーブレイズのエースであり、一匹狼のヒビキ。彼は東京タワへの登頂に失敗した折、不思議な少女ウタと出会う。


 一個も褒めません!!

 前評判の時点で暗雲、公開後のレビューも大荒れ、興収も300館公開で2億すら危ぶまれる爆死もよう。そんな『バブル』、公開3週目で漸く見ました。…今年のワースト映画更新です!不毛なまでに詰まんねえ
 以下、熱誠込めて酷評させて頂きます。

世界観

降泡現象によりライフラインが絶たれた東京からは、多くの人々が避難していった。しかし、一部の若者は住み続け、生活物資を賭けたチームバトル「東京バトルクール」を行っている。東京バトルクールは住民を結束させ、治安維持に一役買っている。

…という設定。「生産活動ゼロなのにどこから消耗品手に入れんだよ」とか、リアリティの細部は今更ツッコミませんよ。マイルドヤンキーの国取りごっこ系は、HIGH&LOWが敷居をぶっ壊しているから。
 でもこの手のジャンルには、キャラ立ち景気の良さが必要なんですよ。
 主人公チーム以外は電気ニンジャ/アンダーテイカー/関東マッドロブスター「のリーダー」と名前がなく、配下のメンバーに至っては完全に書割り。ゲームにおける駆け引き・裏切り・共闘は一切ない。
 折角のヤンキーチーム系なのに、画に落とし込めていないのも鼻白む。チームごとにパルクールのスタイルが違うとか、登場する際に外連が効いた集合をするとか、アガる瞬間がない。この映画、キャラに愛着が持ちようがない

デコトラ/白バイ/ボンネットに乗るぐらいやれや!

パルクールと(広義の)アクション論

 そもそも論、パルクールとアニメって相性悪くないすか
 エクストリームスポーツ、サーカス、カンフー映画…。何故これらが人をひきつけるのか?生身の人間がこんな動きを出来るのか、こんな危険に挑むバカヤロウが居るのか…と驚嘆すればこそでしょう。その点、アニメは何でもアリです。

 それでも、体重移動や所作をアニメで置き換えられたなら実写以上の感動はあるだろう。ところが本作、ジャンプアニメのようにぴょーんぴょーんと大ジャンプをする。「重力異常」「弾力のある泡」という設定があるとはいえ、何かなあ…。

 その癖、設定から逆算したアクションを突き詰められていない。この映画、所謂「パルクール的な動き」をするのだが、果たして妥当だろうか。トリックは速度を落とさず衝撃を殺す/障害を避ける技なのだから、重力1G以下で取るのは効率的なのか?いっそ、異常進化したバトルクールを見せた方が、説得力があると思うのだが。

アクションの緊迫度

 かっちょいい動きがしたい!なら良いよ!荒木監督×WIT STUDIOの『進撃』座組だから、立体機動的な撮影ノウハウを使うべきだしね!
 だとしても、この映画には足りないものがある。危険です。怪我と、その先に当然あるべき死が全く描かれない。リスクが可視化されればこそ、彼らの蛮勇が輝いて見えるのに。
「危険な…」「止めなさい」「危ねぇ!」…。台詞は事ある毎に出るものの、バトルクールで誰も傷一つ負いません。青黒い打ち身も、ざっくり切った脛も、当然骨折もない。長老キャラが「ワシは東京タワー登頂に失敗して足を失ってのう…」と語るのだが…寧ろ片足だけで平気なんかい!

 他チームとのバトルにおいて、平気で空中から突き飛ばす描写にもモヤっとします。鉄骨や浮遊物に激突したら即死だし、地上数十メートルから水面叩きつけられたら内臓破裂は必至。ヤンキー系ジャンルを唯一踏襲出来たのが、漂白された暴力演出だけなのがなあ…。

ストーリー面

主人公に成長がない

 中盤、見せ場があります。中ボスに仲間が攫われ、不利なバトルクールに挑むことになる。重力渦の前に誘導され、立ちすくむヒビキ。だが、ウタがハミングを奏ではじめ潮目が変わり出す…。作画は力入っているものの、ここに成長はないんです。ヒビキは一度たりとも、バトルクールに疑問を持ったことがないからドラマに落差が生じない

 ヒビキは「人当たりは悪いが才能だけはある」いけ好かない主人公な以上、一度鼻っ柱折られる方がストーリーに起伏が出るんですよ。せっかく東京タワーに挑んで一度負ける展開があるのだから、そこで初めて恐怖を自覚するべき。タワーどころか、普段飛べていた段差すら怖気づくようになり、エースからお荷物に転落する。
 一旦落ちぶれるからこそ、成長が生まれる。過去の考え方を改め、これまでよりも遠くへ跳べる…。そういうアツさがないんすよ。

チームプレイをアクションで回収しない

 中盤がウタとのユニゾンアクションだとしたら、終盤にはチーム全体でのアクションになる。…のだが、反復と変化がない。「お、いきなり息が合い始めたな」と唐突感だけがある。
 極論になりますが、アクション映画に「神作画」って不要なんですよ。作画を売りにするのは、1話ごとに見せ場が要るテレビアニメの世界。映画は長時間集中して観続ける芸術だからこそ、似た(しかし微妙に違う)展開を繰り返すことで成長や心情を描くのに適しているのです。

 ラストでバッチリ息が合うのなら、同じ流れのアクションを序・中盤に置くべきです。チビとメガネが先行する、マッチョが間をつなぐ、リーダーが足場になって、ヒビキがフラッグを取る…この流れが。
 それはバトルクールではなくとも良い。洗濯や掃除などのコミカルな日常風景の方が、寧ろ意外性が出る。始めは動きも心もバラバラだったチームが、最後で結束を見せる。それこそが「上手い」アクション映画と思うのだが。

SFファンタジー版人魚姫

「人魚姫」という題材にはピンとくるものがあったんです。「人魚姫」が”少女の不憫さ”をフォーカスしているところに惹かれ、その少女の姿に心を痛めながら観るフィルムがやりたいな、と。

監督インタビュー

 映画の後半は、ガラリと雰囲気が変わります。謎の少女ウタは、実は泡星人だったのだ!悪の泡星人「ねえさま」は地球人類に敵対的だが、ウタは友好的。業を煮やしたねえさまがウタを拉致ったため、ヒビキらは東京タワーに向かう…というトンデモ展開。
 高次元存在が襲来するのも鬱ラストを迎えるのも、虚淵玄脚本だから仕方ない。けれど、『人魚姫』の肝を外してしまっている。人魚姫が不憫なのは、「一方通行」「自己犠牲の選択」があるからなんですよ。
 王子は人魚姫の好意に気づかず、結婚=彼女を最も傷つける道を選んでしまう。その時点で人魚姫には「王子を殺し海に還る」選択肢を提示される。しかし彼女は王子の幸せを願ったまま泡と消える。だから不憫なんでしょうが!

『人魚姫』を意識するならば、ヒビキは無自覚にウタを傷つける方が良いでしょう。泡を睨みつけて「こんなもの消えればいいのに」とごちれば良い。そうすればウタは自暴自棄になって泡ねえさま側に一旦振れる展開になる。そこでヒビキがウタの正体に気づき、深く後悔すればこそ成長にもなる。
 『バブル』は中ボス戦もラスボス戦も、「仲間が強引に攫われる→助けに行く」という展開なんですよ。これ、メインキャラ達の人間関係は摩擦ゼロです。何もドラマが生じてない。

しかも、これを虚淵玄が執筆しているのも哀しい。「地球外生命体との恋」…この設定で、20年前に傑作生み出してるじゃないですか。

沙耶の唄』だよ!!病院ENDはまさに、『人魚姫』まんまじゃないか。元の暮らしに戻りたいと懇願する主人公、少女は哀しみながらも笑みを浮かべ願いを叶える。結果、二人は永遠に別たれることに…。あの切なさが、なんでアニメでは出せねえのかなあ。


…酷評一辺倒はアレだし、少しは褒めとくか。コンセプトや物語はダメダメだけど、作画やデザインは良かった。

…逆に表情を見せるため顔に寄った時はパーツの大きさの調整やディティールを増やしキャラ表より解像度を上げてあります。…(中略)…睫毛なりほつれ毛なり盛りに盛ってます。

作監インタビュー

ヒロインは美人っすよ。この辺りは、WIT STUDIOの過去作『Vivy-Fluorite Eye's Song-』の手法が進化してますね。

…。
………。
…やっぱ擁護出来ねえわ!広告屋マインドがビンビン伝わるもん!
『進撃』チーム、キャラデザ小畑健、脚本ウロブチ、イケメン俳優×歌い手のダブル主演、これは売れるぞー!って元気Pの声が聞こえてくるもん!

 開始5分で駄作だってわかったよ!OP始まるもん!あれか?川村元気Pのことだから、『君の名は。』のセルフオマージュのつもりでしょ?残念!あれはモンタージュで瀧×三葉の関係が進展するさまを見せたから、胸キュンなんだよ。話が始まる前にOPでイメージ映像流しても、それ情報量ゼロだから!

…そりゃね、売れ線・安パイ要素で固めれば企画は通るし投資も集まるでしょう。でもそれ詰まんねえよ。作り手目線だけなんだから。
 『鹿の王』『グッバイ、ドングリーズ』、そして『バブル』。毒にも薬にもならない系アニメは大コケするって、いい加減気付こうよ。


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,930件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?