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『N号棟』

粗筋

 女子大生の史織は、「タナトフォビア(死恐怖症)」で眠れぬ夜を過ごしていた。ある日、元カレの啓太が卒業制作の撮影で幽霊団地に行くと聞き、興味本位で付いていくことになる。
 啓太の今カノ真帆と3人で向かった先は、廃団地にも関わらず住人が居た。不思議な佇まいの住人に歓迎されるも、怪奇現象が起き死亡者も出てしまう…。
 2000年に岐阜県富加町で起きた「幽霊団地事件」に着想を得た、「考察型」ホラー映画。


『ミッドサマー』+白石晃士=別に面白くない、M中です。 

本作では何度も観て確かめたくなる考察型恐怖体験ホラーという新ジャンルを開拓する!

公式サイト

 宣伝屋の惹句にコロッと手懐けられ、観に行っちゃったよ。
 大まかなプロット、出だし30分は確かに面白い。けれど見終わって残るのは「エンタメとして出来悪いな…」という落胆。序盤の期待が、後半に繋がってくれない。と言っても「良い意味で」期待を裏切る飛躍があるワケでもない。
 以下、期待と落胆の両ポイントを述べていきます。

良さげな点

蛮習ホラーin団地

 田舎ホラー、フォークホラー…そういったジャンルがある。田舎に行ったら頭おかしい集団に囲まれちゃうホラーだ。大抵は孤島・山奥・僻村など文明世界から隔絶した場所に設定されるが、団地を持ってきたのは新しい。
 謎ルールが支配する団地ホラーで言うと『劇場版新耳袋・幽霊マンション』があるが、今作において幽霊は寧ろ脇役だ。異常な死生観を持った集団の方が怖い、となると矢張り『ミッドサマー』に似ている。
 監督はインタビューで「特にモチーフはない」と語っているが、そりゃ無理あるよ。
・白・赤・黒のスリーカラーの服を着て
・みんな性に奔放で
・人を火にくべるエンド
となればどう考えても『ミッドサマー』や『ウィッカーマン』を意識してる。

 他にも、
・灌木を抜けた先の建物で、肉屋スタイルの大男が死体の処理をしてる
・安楽椅子の上に干からびた男が座っている
などは田舎ホラーの金字塔『悪魔のいけにえ』でしょう。Jホラーっぽく始まっておいて、別ジャンルの要素を盛り込んでいくのは確かに新機軸でした。

クセ強系主人公

 Jホラーの主人公像と言えば心優しい、メンヘラ、清純の3大要素。ところが本作、掠っているのはメンヘラ成分だけ。
 彼女持ちを宅呑みに誘ったら、次のシーンでは朝チュン。幽霊団地で怪現象が起きると尻込みするクルーを「田代ォ!カメラ回せ!」と工藤Dバリにドやしつける。煙草をぷかぷか吸い、終盤ではレザーフェイス(仮称)を拷問するなど、アクの強い立ち回りを見せ続ける。

自己チュービッチ系女子大生というと、これまた『ハッピーデスデイ』にドンピシャ通じるキャラ設定だ。類似作品があろうと、それを日本オリジナルの物語に落とし込めたら十分にフレッシュになりうる。ゆえに期待して観続けた、のだが…。

尻すぼみな点

団地のリアリティがない

 田舎ホラーと団地の相性が悪いっす。田舎ホラーには「隔絶性」が必要。先述したようにド僻地にあるか、巨大施設か、或いは政府や有力者が手を回しているか…何がしか「孤立した共同体が、維持出来るようなリアリティー」が必要なんです。

・廃団地である意味がない
 住民はゴミだらけのド汚ェ団地に住んでいるんですが…コレ、必然性ある?荒れ果てた風景に、住民の異常な振舞い…観客は当然「コイツら全員幽霊じゃないか?」と疑います。結局真相は別にあり、住民は生身の人間なんですが…なら生活環境整えるでしょ。中盤までは「幽霊かな?狂人かな?」で引っ張るフックにはなるが、後から見返した際の合理性がない

 団地の屋上からは周りの住宅街が見えるのも良くない。いや!周辺住民通報するから!ゴミだらけの荒れ塚に、白装束の集団が居て、くるくる踊ってんすよ?第7サティアンとかパナウェーブ疑われるでしょ!寧ろ、都会系宗教ホラーに則るなら外面は常識人なのに、コミュニティー内に立ち戻ると狂人に豹変する方がゾっとするでしょ。
 意地悪な言い方になるけれど、

撮影ではリアルな廃団地を利用のため…

って制作側の事情に拠るんじゃねえかな…。

・十年以上維持出来るコミュニティに見えない

 コイツら、どうやって文化的な生活営めるんですかね?
 どう金稼いでるの?住宅棟が6個8個並んだ団地だから、ゴミ収集や郵便局員が毎日通るルートになるよね?ガス検針が毎月来るよね?義務教育のガキが学校通ってなければ、児相や民生委員来るよね?公団だから当然自治体との折衝もある筈。
 「幽霊か狂人か」どっち付かずで進む中盤なら兎も角、人間で確定するとディティールの無さが粗になるんですよ。

 田舎ホラーは、ド僻地を舞台にすればこそ免罪されるもの。自給自足出来る自然に囲まれ、警察や役場を抱き込んで隠蔽するからコミュニティが維持される。この点でも、田舎ホラーと団地は食い合わせが悪い。
 百歩譲って、「一時は完全に廃墟になった空間を、不法占拠して人知れず住んでいる」設定だとしましょう。それなら、
・カラスや鳩を殺して食ってる
・ガソリン式の自家発電機を回す
・雨水を貯める農業用タンク/ろ過装置がある
とか、そういうディティールを映像で見せて下さいよ。

主人公のモチベが不明瞭

 クセ強系主人公って、一本気に物語を展開させるからこそ楽しいんですよ。この映画にはそれがない。

 真帆はカレぴの不貞に憤り最初に洗脳される、啓太は再三「帰ろう」と助言するが情に絆される…この二人の行動原理は分かる。けれど史織が「心霊なんてインチキだ!アタシは突き止める!」と息巻く理由が分からない。

 史織はタナトフォビアに悩んでいる、原因は危篤の母親にある…。それらし「げ」な前振りはあるものの、常識的な反応をする啓太と正反対の行動をことある毎に取る理由には繋がらない。近年稀に見る駄作ホラーの『犬鳴村』『樹海村』にも言えることなんですが、曖昧にボンヤリ掛け合わせるの止めません?観る方イライラするんですよ、設定も動機もフンワリしたホラーって。

拷問ホラー3部作(3つ目はマシ)

 これだって、ストーリーラインに軸を立てるのは可能だったでしょう。母が危篤の原因を、この団地に帰せば良いんですよ。リメイク『ブレアウィッチプロジェクト』『貞子』のように、近親者がここ切っ掛けでおかしくなったとすれば良い。そしたら「帰ろう!」という尤もな諫めに反対する理由にも、「インチキを暴く」のに固執する理由にもなる。
 母親を動機に直接絡めれば、ラストで採る選択にも納得が行く。N号棟の住民は霊と共に住み、生と死を隔てなく見做している。史織はそれを受け入れて自殺するんですが…変心する理由が弱い。
 母の仇討ちにすれば、「あなたのお母さんは望んでここに来て、ああなったのですよ」と真相を知って改心するのも自然になるのでは。

わたしはずっと生きるのが不安だった!死ぬのは怖い!生きたい!でも死んだ後があるなら…!

自殺ショーを始めるときに、いきなり説明台詞をダダ流し始めるのはダサいよ。パーソナルな動機を、写真などの小物で間接的に見せればこそ、ジワっとした感動になる。仮令それがアンハッピーエンドだとしても。


 命は失われるが、世間的な価値観から解放されるエンド…。こういうところも『ミッドサマー』真似てんなあと鼻白むワケですが、天懸地隔の差があります。アリ・アスター作品は、伏線をきっちり張っているから「どういう共同体で」「如何なる末路を辿るのか」が見直せば初めから分かるようになっている。
 この映画、ディティール詰められてないよ。それらし「げ」な演出を何となく置いておけば、後は観客が勝手に深読みしてくれる。そういう怠慢が感じられるところが、僕をイラっとさせるんだろうな。


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