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ヨコハまいが~る

個人的ラブソングの金字塔であるスーパーカーの「My Girl」(MVもナカコー、いやサイコー!)

この曲がリリースされた前世紀末、僕は横浜とは名ばかりの港の見えない丘の上工場でオペレーターと言う名のTENGA系いやGATEN系労働者として毎日、汗水垂らして働いていた。

五平餅くらい語弊を承知で言ってしまうと、当時の工場の人間模様は、漫画雑誌に例えるならば、まさに

週刊漫画ゴラク(表紙は白竜)

そのまんまだったので、同じくあえて漫画雑誌に、例えるなら、

LaLaか花とゆめか別マな感じの当時の僕にとっては、異世界すぎて、まったく入り込む余地がなかった。

僕は仕方がなく、外に出会いを求めて彼女と出会った。

初めて二人きりで話したのは、横浜駅の構内にあったBECKS COFFE。

レディオヘッドの話題で盛り上がれる人と人生で初めて出会って感激した僕はその日のうちに彼女に交際を申し込み、見事、OKをもらった。

そんなサブカル好きの二人のデートの行き先は、もっぱらまだ横浜市内に点在していた古い映画館だった。

上映直前の少し照明を落とした館内にぼんやりと浮かび上がるベルベットシートの濃い赤色はいまだに目に焼き付いて離れない。

映画はなぜか今は亡き関内アカデミーで観た「アメリ」のことだけよく覚えている。

そして、映画鑑賞後は、黄金町、日の出町、野毛界隈をただ当てもなくぷらぷらすることが多かった。

関内にある横浜カレーミュージアムとその下の階にあったUFOキャッチャーにもよく通ったし、あと今は亡き萬里という町中華の店のたたずまいが好きすぎて、当時、ホームページビルダーで作っていた自分のホームページのメニュー画面にその店の壁にずらりと並んだメニュー札の画像を採用したこともあった。

まあ要するに、僕が行く場所はどれもこれもJR京浜東北線の線路の北側に位置していた。

線路を挟んだ南側(みなとみらいとか山下公園とかハマスタとか中華街とかがあるザ・ヨコハマなエリア)は、当時の僕には、キラキラと眩しすぎて、なんだか気後れして行けなかったのだ。

幸い彼女もまた弘明寺という横浜の下町育ちだったせいか、観覧車も大型ショッピングモールもなく、というかそもそも海すら見えず、代わりに、ソープランドや中国マフィアや小汚い飲食店(でも味は抜群によい)ばかりのその界隈を文句一つ言わず、寄り添い歩いてくれた。

やがて両親と折り合いが悪かった彼女はたびたび横浜郊外にある僕のアパートを訪れるようになり、気づいたら、半同棲みたいな生活を送るようになっていた。

そんなある日のこと、彼女におつかいを頼まれて訪れた近所のデイリーヤマザキで、突然、流れたのがスーパーカーの「My Girl」だった。

当然、ファンだからこの曲のことはすでに鼓膜が擦り切れるくらい何度も繰り返して聴いていたのだけど、ランチパックとかミニスナックゴールドとかナイススティックとかスイスロールとかランチパックとかが売っているB級コンビニで流れるスーパーカーはなぜだか格別にリアルに聴こえた。

元々、勝手にスーパーカーの歌詞と僕の感性はシンクロ率が高いと思っていたのだけど、この時はまさに自分の人生と彼らの曲がピタリと重なった、そんな印象すら受けたのだった。

若い世代に愛なんてない

そんな毎日を笑う

近い未来の僕をかばってたいんだった

などとうそぶく老青年がランチパックと家庭用ゴミ袋片手に確かにそこにいたんだよね。

つまり、当時の僕は、何だかやる前からいろいろと諦めている、いや、より正確には諦めた振りをしている、そんな若者だったわけだ。

そんな感じだから、数年後、あっけなく僕は彼女から別れを告げられる羽目になるわけだけど。

その別れ際に彼女から言われた

「あなたはたぶん私のことそんなに好きじゃなかったよね・・。」

という一言に何も言い返せずに立ち尽くしていた自分のことを今もよく覚えている。

確かにあの頃の僕は彼女に限らず、自分のことも、この世界のことも何一つとしてそんなに好きじゃなかったような気がする。

きっと好きになれるほど自分の人生に足を踏み込んで生きていなかったせいだろう。

そして、あれからずいぶん月日が経った今、僕はあの時、近い未来を想像するように聴いていたあの歌を、逆に遠い昔の自分を慈しむように目を細めながら聴いている。

どこか照れくさそうな微妙な笑みを浮かべながら。

そのままでいよう 

すぐそばにいよう

またわらえるように

いままだながされていよう

いままだながされていよう

ながいこのたびのはてに

またわらえるように

ちなみに僕はたとえそれが昔の曲でも懐メロ的に音楽を聴くことがほとんどなく、実際、この頃に聴いていた他の曲たちは今だに当時とほぼ同じテンションで聴いている。

そういう意味では、この曲は、きっと自分にとって数少ない、いやほぼ唯一に等しい

若者の象徴(AOHARU YOUTH)

みたいな曲なのだろう。




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