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人生という名のレストランで迎えたバースデイは、拍子抜けするくらいいつもの一日だった

その店はもう15年くらい前から僕が憧れていたレストランだった。

月日が経ちすぎてもはや憧れていたことすら忘れかけていたのだけど、今年の「自分」のバースデイパーティーの会場にしようとふと数日前に思い立ちお店に電話したら、人気店でかつフライデーナイトに関わらず、なんと奇跡的に予約ができたのだった。

その日はいつもどおりというか、いつも以上に仕事が忙しくて、あととても蒸し暑かったから、体力的にはかなり消耗していたと思う。

そのせいなのか何なのか、今日は一年に一度しかない、かけがえのないとことん自分を甘やかすことができる大切なアニバーサリーデイなはずなのに、そして、憧れのお店のインテリア(室内装飾)も非の打ち所がないくらいパーフェクトだったのに、なんかさっきから

テンションが全然、上がらないやないかい!

と開始時間の18時30分より少し早く着いた僕はひとりそんな平静の怪物な自分を持て余していた。

その後、妻と息子が合流したのだけど、二人も僕と同じか、それ以上にいつも通りのフツーのテンションだったから、本当に祝祭感というかスペシャルな日という感じが全然しなかった。

妻なんて席に座って正面の僕を見るなり、

「え!なんか太った?」

とか言い始める始末だし(苦笑)

いやまあ、確かにそれは事実かもしれないけど、パーティーの第一声は、

お誕生日おめでとう!

であって欲しかったなあ。

で、アラカルトでオーダーした料理も本当に全部美味しかったでし、店員さんの接客も自然体だけどすんごく行き届いていて、要するに何もかもがパーフェクトだったけど、逆にあまりにも何もかもがさりげな過ぎて、僕らのテンションはほとんどいつもの家での晩餐と同じだった。

実際、気づいたら、「本日の主役」なはずの自分の話はほどほどに、またいつもの日と同じように息子の最近の心境を根掘り葉掘り聴いていたし(苦笑)

だから、そのうち

「誕生日だからって無理やり盛り上げる必要なんてないよな」

って諦め始めた(笑)

そして、2時間後、僕らは「life(人生)」という名の僕の憧れのレストランをお腹をパンパンに膨らませながら後にしたのだった。

腹ごなしに、と一駅先まで歩くことにした。

案の定、妻が途中で

「疲れた〜もう歩けんわ」

と愚痴り始めた。

それを無視して息子が口角泡飛ばす勢いで夢中にゲームの話を僕に話かけてくる。

彼の横でうんうんとうなづきながら

「何も特別なことが起こらなかった今年の誕生日。でも、それでいい、いや、むしろそれがいいのかもしれないなあ。」

と思って僕は住宅街の軒先に咲いたツツジの匂い立つような花の香りを鼻の穴を広げて目一杯吸い込んだ。

そんななんてことのない僕のlife。

でも、とても幸せな気分な僕のlife。

うん、これまでなんだかんだあったけど、生まれてきてよかったなあ。

というわけで、改めて最後に

ハッピーバースデイ 自分!

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