仕事を辞めて法科大学院(ロースクール)の未修者コースに入学するとはどういうことかという話(お金編)


はじめに

https://note.com/brave_lion538/n/n4972a51bcebb

前々回の記事(上記)で会社員が仕事を辞めて法科大学院(ロースクール)の未修者コースに入学するのはかなり大変で困難で苦しくてしんどいぞということを書きました。
そちらでは未修者コースの司法試験の合格率の低さと留年率の高さを中心に取り上げ、進学を検討しているのであれば一刻も早く勉強しないと大変なことになる、ということを伝えるのが執筆の目的でした。
そのような本筋からは外れてしまうので法科大学院入学からの金銭的負担については少しだけ触れるにとどめましたが、私自身現実として合格してから修習の開始を待つ身分に至り「あれ?入学前に想定していたよりもお金がかなりかかっているぞ?」と思うようになったので自分の体験談をぼかしながら具体的に法曹になるまでにいったいいくらかかるのか、数字を見ていきたいと思います。

※注意
前々回の記事にも書きましたが筆者には未修者コースを批判する意図はありません(むしろ感謝しています。)。
また、「こいつ記事を盛るために数字盛ってんな!」と思われないために、以下で取り上げる数字は極力少なく見積もっているつもりです。つまり、それぞれの生活状況にもよりますが、実際にはもっとかかると思っていただくのが参考にする上で安心だと思います。
会社を辞めて法科大学院に入学するというとても大きな決断をするための参考資料がネット上には少ないと感じています。
悔いなき選択をするためにも、また、進学を選択した人が必死に頑張れるよう発破をかけるためにも、具体的にどれだけの金銭的負担を負うことになるのか(負っているのか)を可視化することが本記事の目的となります。
また、筆者は司法修習参加前ですので司法修習以後の記載については誤りがあると思われます。この点先にお詫び申し上げます。ご注意ください。

長くなってしまいましたが、よければどうぞお付き合いください。

1. 法科大学院での3年間

一例

非常にざっくりとした計算になりますが一例として法科大学院での3年間だけでこれだけの金額がかかります。
(より具体的には実際のご自身の年収や生活水準に合わせて計算し直してみてください。もっとかかるはず。
なお、※の付いている費目については当然ながら必須ではありませんのでその分負担は減ります。
(※を除くと3年間で¥-2,007,000となります。)
予備校については私の体験談の組み合わせで記載しましたが、例えば最大手の伊藤塾に申し込むのであれば50万円以上かかりますのでさらに負担は増えます。

一番の負担である法科大学院の学費については、社会人出身で無収入であれば(成績にもよりますが)免除になる”可能性は”高いです。
大変ありがたいことに私は3年間全額免除していただきました(GPA3.25)。もっとも、これに絶対の保証はなく、無収入なのに半額負担や全額負担になったというのも風の噂で聞いたことがあります。
入学前に自分が免除を受けられるかどうかがわからないのでここは非常に怖いです。
専門実践教育訓練給付金は支払った授業料の半分を年間上限40万円までキャッシュバックしてくれるという制度なので、上記計算は免除の申請が一切通らなかった場合を想定したものになります。
なお、入学金については免除ないし半額免除を受けられたのは私の周りでは聞いたことがありません。私も全額支払いました(これも専門実践教育訓練給付金の対象なので実際には半額負担で済む。)。

また、注意点として専門実践教育訓練給付金は授業料の支払い後1ヶ月から2ヶ月後(ちょっと自信がない)に振り込まれます。
要するに、一旦は学費について指定の額を支払う必要がありますのでキャッシュフロー上注意が必要ですのでお気をつけください。

2. 司法試験から司法修習まで(在学中受験不合格の場合)

現在は在学中受験の制度ができましたので無事に3年次で司法試験に合格できれば以下の費用負担は必要ありませんが、不合格だった場合には以下の費用がかかります。

一例

当然ながら法科大学院を卒業したら教育訓練支援給付金による収入はありません。
名実ともに無職です。
卒業後の4月から7月の司法試験本番までは試験勉強でバイトをする暇などないでしょう。
その後もどうするか。
合格発表は11月上旬ですからそれまではバイトをするか、不合格に備えて勉強をするか、抜け殻になるか。ここは本当に人それぞれです。
合格発表後、無事に合格できたのであればバイトをする時間もできます。
もっとも、都内で企業法務の法律事務所に就職を希望する場合には司法試験後、また、合格発表後にそれぞれ就職活動の山場がきます。
一般民事の法律事務所であれば合格発表後や司法修習開始後に就職活動を行うことになります。
バイトと就職活動の両立は十分可能だと思いますが、シフトの調整等は必要です。

なお、当然ですが進学にあたっては最悪の場合を踏まえて自分の予算を考えるべきです。私は1回目受験不合格の場合はもう1年だけ一人暮らしをしても専業受験生を続けられるだけの予算を確保していました。2回受けて不合格なら就職予定でした。

この時期の費用について、私は大変ありがたいことに実家にいくばくかを入れることでスネをしゃぶりつくさせてもらっていました。頭を下げてスネをかじれるならば必死にお願いするべきだと思います。
合格してもまだまだお金はかかります。
(これが私の想定外で本記事執筆の動機です。)

3. 司法修習

一例

司法修習がはじまると修習給付金が毎月13.5万円、住居を借りる場合にはさらに3.5万円を住居給付金としていただけます。
無職卒業うれしいです。
もっとも、これらは雑所得扱いで確定申告が必要となる上、修習に必要な交通費や書籍代等は経費として計上することもできません。
また、在学中は国民年金の猶予申請を行っていると思いますが司法修習ではそれも通りません。
個人的にこの点は盲点でした。

上記修習給付金とは別途、申請をすれば修習専念資金の貸与を受けることができます。
これは毎月10万円を無利子で借りることができ、しかも返済は5年後からという大変素晴らしい制度です。
借金には変わりありませんが、なにより無利子ですし、上図の支出を考えれば借りざるを得ないと思います。私は申し込みました。

在学中受験制度により司法修習の時期がズレたため司法修習のための引越しの時期がハイシーズンにかぶることになりました。
司法修習では「導入修習(寮でダンボール郵送のみ)」→「実務修習(引越し)」→「集合修習(寮でダンボール郵送のみ)」という流れの移動になります。(※この記述が正確か自信がないので注意してください。)
上図ではこの実務修習のための引越しとその初期費用のみを記載しました。
上記移動の都度「移転給付金」をいただけますが、これは移動距離によって金額が異なるものの、おそらく引越し代と賃貸契約のための初期費用の全額を補うことはないと思います。少なくとも私は引越し代が丸々足がでる予定です。
また、キャッシュフローの問題として移転給付金が全額揃うのはかなり後になりますので、3月4月ごろの一時的な金銭的負担は大きいことに注意が必要です。
(実務修習から就職先近辺への引越しは次の項目で記載します。)
なお、司法修習中は原則バイト等禁止となります。

4. 弁護士生活初期費用

一例

無事に司法修習を終えて弁護士生活がスタートしてようやく安泰かと思ったらまたここでも結構な初期費用がかかります。
私はここまで考えていなかったです。
弁護士としての初期費用だけで22万円以上がかかりますが、これは所属する県によってはさらに高額になるので注意してください。たとえば大阪弁護士会は入会金で43万円です…
また、所属の事務所にもよりますが自分で各種機材等を揃えようと思ったらさらに費用はかかります。地方であれば車も必要でしょうからさらにその費用も…
このことを考えると上記の修習専念資金の貸与は事実上必須であり、無駄遣いなど一切できないと思われます。
書いていてさすがにつらくなってきました。
ただ、事務所によっては弁護士会費を負担してくれるところもありますし、独自に貸与金制度があるところもあると聞いています。

5. 逸失利益

以上が法科大学院の入学から弁護士として働き出すまでの諸費用となりますが、会社を辞めて進学する以上、この挑戦によって生じた逸失利益も無視することはできません。

逸失利益(ここでは法的なそれから離れます)には考え方が2つあるようで、1つは例えば26歳から30歳までの受験生として実際に過ごした4年間の想定年収から計算する方法(パターンA)。もう1つは65歳の定年までの4年間、つまり(60歳からの再雇用を考慮しない)サラリーマン生活終盤の最高年収4年分を逸失利益と考える方法(パターンB)です。
個人的には後者のほうが正しいのではないかと思いますが、世間的には前者が多数派だと思いますので両方で計算します。(申し訳ないですが私の能力の都合上、税金等は無視します。)

一例

6. 支出まとめ

上記1から5をまとめ、法曹になるまでにかかる費用を概算すると次のとおりとなります。

パターンA
パターンB

ここでは参考までに自分の意思で支出を調整できる※印のものを抜いた計算結果も出しました。
また、上記の計算は法曹になるまでにかかる直接の費用のみを計算しており、実際にはこれにさらに生活費がかかってきますのでご注意ください。

7. リターン(損益分岐)

最後に上記費用の償還、回収を考えます。
(中間利息を考慮していません。)

パターンA
パターンB

私自身はパターンBの緑(1,023,857円)にあたります。
(先にも書きましたが個人的にはパターンAの計算は実状と異なると思っています。)
よって弁護士として働き始めてから30年間、前職よりも1,023,857円年収を稼がなければ、単純な生涯年収という意味では損をすることになります。
可能なのでしょうか?

日弁連の「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査 2020」は弁護士の年収について以下のように公表しています。

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2021/toku-1.pdf

 『所得合計の全国平均値は 1,119.1 万円(回答数 1,788、なお0以下を除くと 1,206 万円)、中央値は 700 万円(0以下を除くと 770 万円)となっている。2010 年調査では平均値が 1,471 万円、中央値が 959 万 円であったため、いずれも減少している。』(上リンク14p上部より引用)

上記によれば中央値は770万円ですので、この年収と前職の年収とを比べて考えていくことになります。

わたし、がんばらないと…

8. 入学までにいくら貯金すればいいのか?

厳密には入出金の時期の問題があるのでキャッシュフロー上正確とはいえませんが、大雑把にここまであげてきた費用と各種給付金、生活費を考慮すると以下のようになります。

キャッシュの目安

計算をシンプルにするためにここまで触れてきませんでしたが、実際には上記に加えて奨学金を借りるのが現実的だと思います。
また、何回も書きますが、費目については少なく計算していますので注意してください。(あとなにか抜けているかも…)
進学を検討する人は実際に自分はどうなのか、というのを各自計算してみてください。

おわりに

書いていて何度もドン引きして、そんなわけがないと再計算して、やっぱり事実だと確認してまたドン引きして、なんとかここまで書きすすめました。
お付き合いいただいたみなさんも読んでいてつらい気持ちになったと思います。すみません。

しかしながら、さらに現実をいえば、前回の記事で確認しましたが、未修者コースの司法試験1回目合格率は16.5%です。

合格率16.5%の試験に3000万円近い金銭と貴重な20代30代の4年間をベットしていたのだと考えると、なんて恐ろしいことをしたんだと自分ごとながら本当にドン引きです。

ただ、個人的に思うに、上記のような数字をいくら並べたところで挑戦する人はそれでも挑戦しますよね。
絶対にもう一度はやりたくありませんが、私自身もそうだと思います。
しかしながら、本当に挑戦するべきなのか?なぜあえて挑戦したいのか?ということは今一度考えてみるべきだと思います。

あなたは本当にこのリスクをとってまで進学したいですか?

この駄文がみなさまの人生の選択に少しでも役立ちましたら幸いです。
皆様の勇気ある選択にどうか幸あれ。心よりお祈りしております。

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