1.個人特定まで

現在は法改正により国内業者向けの開示請求がかなり簡略化されましたので「国内の開示請求部分については」以下の記事の内容よりは楽だと思います。

そもそもGoogleのクチコミとは

僕が書かれたクチコミは、Googleで会社名を検索した時に表示されるGoogleのページへの投稿です。画面にはGoogleの広告などと共に自社のHPも表示されますが、それ以外にもGoogleビジネスという機能によりGoogleそのものによる会社の案内ページが作られています(混んでいるとかマップとか表示されるアレですね)。その中の「クチコミ」という欄です。まずたいていの人が見る、家の看板のような力を持っています。のちに分かったことですが、あれは「Googleマップ」におけるその店舗に関するクチコミだそうです。従って、裁判も「Googleマップへのクチコミ投稿」という扱いになります。

画像1
検索結果表示の際のクチコミ表示

上の「クチコミ」と赤く書いたところに表示されます。スマホ画面だともっとわかり易い場所になります。(この画像は例として名古屋大学を検索した結果です、むろん今回のnote記事とは関係ありません。)

次に、問題になるクチコミをクリックして表示してください。すると、↓のように表示されます。

画像2
Googleマップ上でのクチコミ表示

最初に必ずやっておくべきこと

まず最初に必ずクチコミそのもののスクショを撮って保存してください。特に↑画像の赤で囲んだ部分ですね。投稿者のアカウント、クチコミそのものが分かるように画面に表示して(この作業は簡単ですが、見るのも嫌な物を保存する作業は精神的に本当に苦しい)スクショを保存しましょう。PC画面でもスマホ画面でもOKです。場合によっては本人または何らかの理由により消されて証拠が残らないこともありますから、まずすぐスクショを撮ることはとても大切です。

本人特定は時間との戦いです。躊躇していると証拠がどんどん消えていきます。※1

警察よりまず弁護士へ

次に、弁護士に相談しましょう。警察に行くのはその後です。警察は弁護士がついてくると対応が180度変わります。個人で行ってもなんとなく言いくるめられて終わりです。基本的にはまず対応してくれません。

弁護士からのメール↓

画像3
弁護士から「一緒に警察に行ってみましょう」メール

とはいえ、今回は結果的に弁護士を連れて被害を訴えても「捜査は無理」と言われました※2。

画像4
その後の警察からの連絡について

弁護士への相談はどうしたらいいのか

僕は会社を経営しているので顧問弁護士(顧問料年間20万円ほど)がおりますが、普通は弁護士と関わったことすらないと思います。その場合はまず各地域に弁護士会のようなものがありますので「誹謗中傷書き込みに詳しい、若い弁護士を教えてください」と相談してみてください。「若い」理由は、ある程度ネットの状況も分かり、かつそれなりに経験を積んでいる30~40代くらいの人がいいのではないかということ、そして日常的にネットを使ってコミュニケーションを取る必要性があると思うからです。

裁判は、社会正義を訴える場ではありません。いかにして自分が有利になるか、相手を法的にたたきのめすかの戦いです。どうしても知識や経験値がある弁護士が必要になります。加えて、疑問に感じたことや、どう薦めていきたいのかを密に連絡を取る必要が出てきます。しかし普通に昼間働いている人はそうそう時間を作って法律事務所に行けません。法律事務所に行くことすら躊躇を覚えるのが普通だと思います。にも関わらず、法律事務所は業務上、地域の裁判所の近くにあるのが普通です。県レベルなら県庁所在地とか。ですから、普段メールでコミュニケーションを取れることは非常に重要です。メールをしても何日も返ってこないなど不安要素がある場合はすぐ証拠品を引き上げて(といってもこの場合たいてい電子データやスクショ画像ですが)他の弁護士に切り替えましょう。この辺りは普通のビジネスと同じです。弁護士だから忙しいだろうとか、弁護士だから仕方ないと気を使う必要は必要は全くありません。何度も書きますが時間との戦いです。とにかく素早く動ける人、連携できる人を見つけることが肝です。

おおむねこうしたことをクリアしているであろうと思われるのは、多くの弁護士を抱える弁護士法人のような事務所です。可能な限り近くの大都市でおおきな弁護士事務所に電話またはメールで聞いてみると良いと思います。(よく広告で見かけるような過払い請求系の弁護士事務所はどうなのかちょっと分かりません。すみません。個人的には信用していません。)

可能そうであれば、実際に事務所を訪ねて具体的な相談をすることになります。まず最初の相談料は30分5500円(税込み)が基本です。恐らく全国一律ではないでしょうか。このときに、米国での裁判ができるか、またはそうした弁護士と連携できるかをはっきり聞いた方が良いと思います。どれくらいのお金がかかるかも、この時点でざっくりとでいいので聞いてみましょう。弁護士本人は意外にお金については細かくない場合が多いですので、細かい数字が出なかったとしても問題はありません。その場合は「ある程度でいいので後でメールしてください」と伝えればOKです。

着手・民事裁判と刑事裁判がある

いざ事件への着手(裁判は民事だろうが刑事だろうが全て「事件」と呼ばれます)となると、大きく方向性を考えなければなりません。何をゴールにするか、ですね。これは弁護士とよく相談して決めましょう。

まず、誹謗中傷への対処としてのおおきな分かれ目は、民事裁判で賠償を勝ち取り削除を要求するだけに留めるか、刑事事件として相手の罪を裁いてもらうことまで希望するか、です。

誹謗中傷に対する民事裁判

そもそも民事裁判は、簡単に言えば個人間のもめごとの仲裁をしてもらうという裁判です。訴訟を起こし、裁判所から相手方に訴状が通達されます。通常その時点で相手も弁護士に相談し、その後は弁護士同士の話し合いが行われます。実際の裁判が開始されるまでにおおむね1ヶ月程度かかりますから、その前に示談で済ませることもあり得ます(解決金などの名目で金を払い、その代わり訴訟を取り下げる)。

この段階で話し合いがまとまらず実際に裁判になり名誉毀損が認められれば、慰謝料やかかった弁護士費用、裁判費用を支払えという判決が出たりします。もちろん負けたり(名誉毀損と認められない)、請求した賠償金額より低い金額の判決が出ることもあります(相場があるのです)。この辺りの詳細や経緯はまたいずれ。

誹謗中傷に対する刑事裁判

一方で刑事裁判は、相手の罪を裁いてもらう裁判です。殺人事件の裁判などは刑事裁判です。検察官が国の代理人となって被告を裁判にかけ、罪を裁いてもらうわけです。被告人には当然弁護士をつける権利があります。ネット書き込みでの誹謗中傷は「名誉毀損罪」になることがほとんどだと思います。これを犯罪として処罰してもらうのが刑事裁判ということになります。

ちなみに、「名誉毀損罪」に該当するにはいくつか条件があります。これはググればすぐ出てきますので確認してみてください。もちろん弁護士ときちんと相談するべきところです。
また、「名誉毀損罪」に該当しないケースでも「侮辱罪(ぶじょくざい)」というのもありますので、ご参考までに。

しかしどのような判決になるにせよ、刑事裁判で金銭的な補償はありません。1円ももらえないです。罰金刑でもお金は国庫に入るだけです。ここまでするかどうかは自分次第です。弁護士によってはこれでさらに余分に費用がかかる場合があります。

いざ、着手。かかる費用や時間は?

あくまでも僕の場合です。
まず着手金15万円(以後、金額は契約内容によりますのであくまで参考に)。弁護士費用(法的な書類作成や訴訟提起、あとは細かい相談など)として20万円。ほか、成功報酬(個人特定後、民事裁判によって損害賠償請求を起こし勝ち取った金額の10%)がかかります。僕の場合は顧問料(年間20万円程度)とは別に、これらを裁判ごとに支払う契約になっています。最初にかかるお金はそれだけではありません。Googleアカウントからの個人特定は最低でも2回、多ければ3回は訴訟が必要です。都度お金も時間もかかってきます。

個人特定までの裁判

個人特定までのおおまかな流れ


1.日本の弁護士(A弁護士=僕の顧問弁護が探したGoogle相手の裁判に詳しい弁護士です)から米国在住の弁護士(B弁護士)宛に連絡してもらい、Google相手に訴訟を起こす※1。ここで、A弁護士への着手金15万円+B弁護士へ支払い料60万円が発生します。ここまでで1ヶ月かかりました。

米国裁判所に提出した訴状。PDFで4ページ分。(専門用語が違ったらごめんなさい)

2.事実関係等のやりとりが2~3なされました。(書かれたことは事実なのかどうか?など)恐らく形式的なものですので、基本的に自分に有利な情報だけ必要に応じて出せばよいと思われます。もちろん嘘などは駄目です。

結構長く待たされるが、それでも2ヶ月程度

その後、突然IPアドレスや登録電話番号、その他個人の情報が開示されます。Google相手に訴訟を提起して2ヶ月ほどかかりました。※3

Googleからの「開示に応じる」旨の文書と、書き込みログへのアクセスURLを示したZIPファイル2つが送付されてきました。

具体的な情報を含むzipファイルのMD5ハッシュ値

また、添付ファイルに書かれたURLにアクセスすると、以下のようなアカウントに関するGoogleが保有する情報が表示されました。

ログにはしっかり電話番号からアクセスした都度のIPアドレスが記載

3.その情報を元に国内プロバイダ向けに弁護士(=僕の場合は顧問弁護士)名で「この携帯番号の所有者は誰か」を開示する弁護士会照会という請求をする。これは実費(切手代)くらいでやってくれました。1週間程度。
弁護士会照会とは、「訴訟に必要なので教えてくれ」という制度で、プロバイダ側に応じる法的義務はありません。

4.この段階での開示請求はたいてい国内プロバイダに拒否される(1週間程度)ので、IPアドレスやでんわ番号に基づいた所有者名開示のための国内裁判をプロバイダ相手に起こす。(顧問弁護士に別途訴訟費用として15万円支払い)

5.開示請求訴訟を起こし勝訴した場合、個人の情報が開示される。(さらに2ヶ月程度)・・・はずだったのですが、ラッキーなことに3.の段階でソフトバンクが回線名義人の開示に応じました。裁判の手間が省けました。

ここまでしてようやく個人が特定されます。このあと、特定された個人を相手取って民事での損害賠償請求訴訟および名誉毀損罪での刑事告訴を行うことが可能になります。

お金について言えば、個人を特定するまででざっと120万、半年かかりました。

訴訟と同時に自分でも行っておくといいこと

弁護士と話をすると共に、自分でも投稿者IDについて可能な限り調べてください。たいていは「捨て垢」でどこの誰かも分かりませんが、それでもアカウント名(ハンドルネーム)を控えてそのアカウント名に類似したアカウントがTwitterやFacebookにないかなど可能な限り調べてください。特にTwitterなどは同じ名前で捨て垢を作っていることもありますから念入りに調べましょう。(僕の相手は各種SNSでは全く情報が手に入りませんでした。)

個人名が特定されたら、次は国内での訴訟です。

現在、ようやく民事での損害賠償請求訴訟を行い、刑事告訴※4を行いました。これから裁判がどうなっていくのか、引きつづき経過を公開していこうと思います。

付記

※1 まずはGoogle相手にアカウントの個人情報と書き込みをしたときのIPアドレスを開示させます。そこで本名住所まで出てこれば話は早いですが、僕の場合はIPアドレスと電話番号のみでした。IPアドレスが分かればどこのプロバイダかはすぐ調べられますので(「IPアドレスサーチ」で検索してみてください)、そのプロバイダ相手に個人特定のための情報開示請求をすることとなります。ところが、この「誰がいつどこにアクセスしたか」を示すログの保存期間が、以前より多少長くなったとはいえ早いところでは3ヶ月程度で捨ててしまうそうです。つまり、せっかく書き込みをした人のIPアドレスが判明しても、そこから個人特定が出来なくなってしまうのです。プロバイダにログが残されていなければ一巻の終わりです。僕の場合もひょっとしてIPアドレス「しか」分からなかったら個人名までたどり着けなかったかもしれません。しかし非常にラッキーなことに今回は書き込みをした人の携帯電話番号が分かりました。こちらはそう簡単に情報が消えないそうで、A弁護士も「Googleから電話番号を取るのが本丸」とおっしゃっていたのは画像の通りです。

※2 最初の段階で弁護士とともに警察に相談に行きましたが、「明らかに誹謗中傷と見られるが、個人の特定を警察でやるのはかなり難しい」という対応でした。のちに画像の通り「本部にも確認しましたが、相手がGoogleとなると、日本の警察から照会しても拒否される」との回答。ここら辺は弁護士と警察との駆け引きなのかもしれませんが、弁護士が警察の扱い方を知っていますので、これ以上警察に頼っても仕方がないと判断しました。

※3 近年同様の訴訟が膨大に発生しており、米国の法律で「ディスカバリー手続き」という手段を執るそうです。詳しくはぐぐってください。比較的早く裁判が進みます。それでも2ヶ月くらいはかかりましたが。どうも、米国側弁護士や裁判所の混み具合が影響するようです。1ヶ月くらいのところで反応がなければ弁護士を突っついてみても良いと思います。放置しちゃう弁護士もいますので。

※4 顧問弁護士によると最初に相談に行った警察官は異動になり、他の警察官との話になったそうです。当然話は引き継がれておらず1から話してもらったそうですが、最終的に被害届を警察宛に出すのではなく、検察宛に「刑事告訴」という手続きとなりました。犯罪被害に遭ったときに、被害者が自分で被害を訴え出ないといけない「親告罪」と呼ばれる被害の場合、大きく分けて方法は2つで、警察への被害届提出、または検察への刑事告訴手続きです。証拠が揃っている状況だと後者の方が圧倒的に早いそうです。というか、血が流れたり金を盗まれたりじゃない限りあまり警察って積極的に動いてくれないようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?