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野良犬を最近見ない

 私が子どもの頃は、よく野良犬がいた。遊んでいて、追いかけられたこともある。野良猫はよく見るけれど、野良犬をずっと見ていない。


 高校生の頃、通っていた高校には、野良犬が数匹いた。教室内も土足の学校で、野良犬も我が物顔で廊下や教室を歩いていた。

 よく覚えている犬が3匹いる。

 1匹目は、こげ茶と黒の混ざった大きな犬だ。耳が垂れていて、少し気性が荒い。機嫌が悪い時は、歯を剥き出して、「うー」と唸る。この子はよく保健室にいた。保健のおばちゃん先生が、犬を好きだったのもあるが、夏は涼しく、冬は暖かい保健室は快適だったのだろう。冬場に保健室に行くと、よくストーブの前で昼寝をしていた。私と一緒で、保健室に暖をとりに行っていたと思われる。
 2匹目は、明るい茶色をした短毛の中型犬だ。人懐っこく、穏やかな性格をした女の子だった。行動範囲が広いのか、学校だけでなく、スーパーの駐車場や、通学路でもよく見かけていた。
 3匹目は、柴犬と洋犬が混ざったような中型犬だった。毛質は芝犬だが、顔はコーギー犬のような顔をしていた。そして足が短かった。臆病でビクビクとした犬だった。後に我が家の犬となる。


 学校の野良犬たちは、ケンカすることもなく、時にくっついて、時にバラバラに行動していた。授業中でもお構いなしに教室に入ってきて、机と机の間の通路に寝転んだりしていた。特に授業をじゃますることもなく、おとなしくしていた。夏などは、床のひんやりした感じが気持ちよかったのではないだろうか。
 先生の反応はさまざまで、気にせず授業を進める先生、教室から追い出そうと躍起になる先生、愛おしおそうな視線を送る先生、いろんな先生がいた。

 お弁当の時間になると、みんなからおこぼれをもらっていたようだ。今考えると、ずいぶんと寛容だったと思う。田舎の学校だったからだろうか。


 それでも、やはり問題視する先生はいた。ある時、自転車小屋のところで男の先生が、野良犬のお腹を蹴り上げていた。
「キャン」
と、犬の鳴き声が響いた。慌てた様子で女の先生が止めに入った。後に我が家の犬になった子は、その光景を見て、震えながらおもらしをした。よほどの恐怖を感じたのだろう。私は、その子の背中を撫でてあげることしかできなかった。
 その後、保健所に連絡をして野良犬を処分してもらうそうだという噂が流れた。犬を蹴り上げた先生がそのようなことを言っていたからだと思う。

 この出来事がきっかけで、私の家で1匹引き取ることになった。この子は臆病すぎて、野良犬では生きていけないのではと思ったからだ。保健所にすぐに連れて行かれてしまうだろう。
 うちの子になってからも相変わらず臆病だったが、家族に対しては甘えん坊で、とてもかわいい子だった。


 野良犬を最近見ないなあ、と思ったところから、懐かしい出来事を思い出した。他にも、野良犬が、学校の茂みで子犬を産んだこともあった。友だちとふたり、そーっと子犬を見に行っていた。急に雨が降り出してずぶ濡れになった子犬を、ふたりで泥だらけになりながら濡れないところに移動させたり、飼い主探しに奮闘したこともあった。非常階段で話しながら、野良犬の背中を撫でていたことも思い出す。子犬を産んだ犬だ。私たちの話に、犬も参加しているようだった。私の高校生活の中には、野良犬が当たり前のようにいたんだな。

 野良猫に比べて野良犬がいないということは、以前と比べると、きちんと管理されて飼われているということなんだろうか。犬は猫のように、自由に外に出ることもないだろうから。それでも悲しいニュースはよく耳にするのだけれども…。
 なんにせよ、しあわせな犬や猫が多くなるといいなあ。お腹を空かせてさまようことなく、あったかい場所で眠ってほしい。

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