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「男なんかに…」

一人暮らしの部屋のベランダから祖母の声がきこえる。
裸の私が男性にYesやMoreと言った瞬間に(もっと明示的に表現するなら性的に求めた瞬間に)、彼女は囁きかける。
「男なんかに身体を明け渡したな」
「お前は女たちを裏切ったんだ」
「やっぱりお前は生まれてくるべきではなかった人間だ」
そう言って、カーテンのわずか数ミリの隙間から"あの目"で私を観る。私を咎め、暴き、蔑む目。やがて、かつて孫娘の小児自慰を罰するためにその子の手足を縛り押し入れに閉じ込めた両手がたやすくガラス窓をすり抜け、現在の私の首を絞めはじめる。
これは事実ではない、私の心の中でのみ起きていることだ、と自分に言い聞かせるけれどうまくいかない。叫びたくなる。それでもそれはある面においては真実なのだ。
私は身体の感覚に集中しようと試みる。首を絞める想像の手ではなく、いままさに私を愛撫する手に。うまくいかない。うまくいかない。
私が呻き声をあげると優しい手は止まる。
「痛い?」
そうじゃない。続けてほしい。しかし別のことを言う。
「いったんストップ」
お気に入りのカップに冷たい水をそそぐ。飲み干す。小さなめまいがする。
こんなことばかり繰り返している。

おわり

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