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サンデル教授が導く「正義」への足掛かり

NHKでも放送された、ハーバード大学教授であるマイケル・サンデル氏の人気講義「Justice」を2010年に書籍化した「これからの『正義』の話をしよう」。私が読んだのは2014年で、ちょうど10年が経ちました。勉強になるとともに、自身の思想について私が最も考えさせられた本です。

本書では実際に起こった具体的な事例や思考実験を提示しつつ、歴史上の様々な哲学者による「正義とは何か」「人はどう生きるべきか」「社会はどうあるべきか」といった思想が解説されます。単に思想を解説するのに留まらず、それに対する疑問や反論についても併せて述べ、さらに発展した思想を紹介しながら読者に対して広い視点を与えてくれます。例えばベンサムの功利主義、ノージックの自由至上主義、アリストテレスの目的論的思考。それぞれの思想が、各事例を巡って本書の中でぶつかり合い、読者の思想をも揺れ動かします。著者による読者への下記問い掛けが、本書の位置付けを端的に述べています。

この本は思想史の本ではない。道徳と政治を巡る考察の旅をする本だ。正義に関する自分自身の見解を批判的に検討してはどうだろう。自分が何を考え、またなぜそう考えるのかを見極めてはどうだろう。

これからの「正義」の話をしよう

本書で取り上げられる事例は多々ありますが、見方や立場によって意見が分かれる、いわゆる「答えづらい問題」が取り上げられます。例えば、災害時における便乗値上げの是非、自由市場における臓器売買の可否、アファーマティブアクション(マイノリティに対する優遇措置)の功罪、先祖の罪に対する謝罪の要否など。誰かの意見を聞くと「確かにそうだな」と思いつつ、また別の意見を聞くと「そっちの方が合ってるかも」。結局、「ケースバイケースだな」と玉虫色の判断になりがちです。サンデル教授は哲学者たちの思想を引用しながら、それぞれの問題へ向き合う足掛かりを提供してくれます。

以下は私の感想です。本書から私が得た事は、自身が何に基づいて「正しさ」を判断しているのか、を言語化するための知識が得られた点。これによって、自分自身の判断の偏りや、ときにダブルスタンダードになる事を自覚できるようになりました。本書で紹介されている各思想は比較しやすいように極端なものも多く、日常生活で一つの考え方を徹底することは難しいと思います。置かれた状況によって、最大幸福をめざしたり、自由を尊重したり、美徳を重んじる判断をするでしょう。しかし、その場で感じたままに振る舞うだけでなく、自身を客観視する事で少しずつ「在りたい姿」に近づけるのではないかと感じました。理想は遠いですが。。

私が興味深く感じた考え方を一つご紹介。それは、ジョン・ロールズの「無知のベール」という思考実験。無知のベールを被ると、一時的に自分は何者かが全く分からなくなる。こうした状況で人々が集まり、皆が同意できる法律であれば、それは正義にかなうと論じたものです。この世界では、一部の人を犠牲にする法律は制定されません。賛成した自分自身が虐げられるかもしれないので。また一部の強者が有利な法律も制定されません。自分は弱者かもしれないので。私自身、何か判断をするときは少し思い浮かべるようになりました。

という事で、以上ご紹介でした。学生向けの講義がベースのため、分かりやすい語り口と刺激的な事例で飽きさせません。また自身の事を色々と考えさせられる良書と思います。自分にとっての「正義」を見つけましょう!


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