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事業承継ってどんな種類があるの?3つの承継について調べてみた。

会社の数だけ存在する経営課題。
その中でも、「事業承継」については多くの経営者とっての悩みです。
政府も課題解決に向けた取り組みを進めています。

2022年4月には中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を改訂しました。
そこで、改訂にともない中小企業が抱える問題点やそれに向けた取り組みを3本立ての記事としてお送りしています。
第一弾は、経営者が取り組むべき問題を取り上げました。

今回は、第二弾として具体的な事業承継についてご紹介します。

事業承継とは

事業を誰に承継するのか。
経営者からするともっとも悩ましい問題の一つ。
中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」によると、事業承継は次の3つに分類されます。

1、親族内承継
2、従業員承継
3、第三者承継(M&A)

会社の将来を左右するかもしれない、事業承継。
実は、経営者の交代をした中小企業は、売上高や利益率が成長しているとの報告があります。(図表1、図表2)

図表1 事業承継実施企業の承継後の売上高の成長率
(同業種平均値との差分)

(出典:中小企業庁「中小企業白書」(2021年版、(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工))


図表2 事業承継実施企業の承継後の当期純利益の成長率
(同業種平均値との差分)

(出典:中小企業庁「中小企業白書」(2021年版、(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工))

事業承継はただの経営者交代ではなく、企業のさらなる成長と発展の機会と捉えることができます。

それでは、3つに分類される事業承継についてそれぞれ考えていきましょう。

親族内承継

経営者の親族のなかから後継者を選ぶ方法です。
3つの承継の中でももっともメジャーな手段です。

メリット
◆十分な準備期間があり、スムーズな承継ができる
親族ということもあり、後継者を早期に決めることができます。
そのため、後継者育成として十分な準備期間が確保できます。
もっとも多い承継方法であることから社内の理解や協力を得やすいとされています。また、取引先や金融機関などの社外関係者との引継ぎも円滑に進めることができます。

◆株式や事業資産の承継方法の選択肢が多い
株式や資産の引継ぎには「贈与」「相続」「譲渡」の3つの選択肢があります。事業承継する際には、それぞれ税制度があり、後継者は納税する義務があります。親族内承継の場合は、選択肢が多いことから、受けられる税制措置も多く、後継者の資金面の負担を軽減することができます。

デメリット
◆候補者不在の可能性
親族に経営意欲、経営資質があるとは限りません。また、事業の承継を望まない場合もあります。

◆後継者以外の親族とのトラブル
相続人が複数いる場合、後継者の決定や経営権を巡ってトラブルとなる可能性が高いです。

ちなみに図表3は先代経営者との関係性を示したグラフです。
親族内承継(同族承継)、社内承継(内部昇格)の順に割合が高く、第三者承継(外部招聘)がもっとも低い割合となっています。

図表3 先代経営者との関係性(就任経緯別)

(出典:中小企業庁「中小企業白書」(2021年版、(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工))

もっとも件数の多い親族内承継。
後継者の早期決定により、育成や相続などに関して十分な準備ができます。しかし、後継者の選択肢が限定的なことや、候補者が事業承継を望まないケース、親族間でのトラブルなどの問題点もあります。

次は、2番目に実例の多い、従業員承継についてみていきましょう。

従業員承継

親族内承継に次いで2番目に多い方法が、従業員承継。
「親族以外」の役員や従業員に経営を引継ぐ方法です。

メリット
◆後継者の選択肢が増える
社内の従業員全てが候補者となることから選択肢が増えます。経営者の資質がある人材にはお互いの意思を確認し、早期の準備に取りかかれます。

◆企業文化を維持できる
長く働いていた従業員であれば、経営理念や方針、社内外の実情を把握しているため、一貫性があり円滑な事業承継が可能です。

デメリット
◆親族とのトラブル
これまで親族経営をしてきた会社の場合、株式や資産の引継ぎ方法などでトラブルとなることがあります。

◆後継者の資金負担が大きい
親族以外の場合、株式や資産は有償譲渡が多く、無償の贈与の場合でも納税が必要となります。そのため、後継者の資金面の負担が大きくなります。

親族内承継に比べ、後継者候補の選択肢は増えます。また、従業員が引継ぐことで企業文化は維持されやすいと言えます。
一方で、後継者の資金確保や親族間との調整などの問題点があげられます。

最後に、第三者承継(M&A)です。

第三者承継(M&A)

株式譲渡や事業譲渡などにより、社外の第三者へ引継がせる方法です。
今まで紹介した2つの承継方法に比べ、件数は低いですが、図表3から分かる通り、近年増加傾向にあります。
2019年12月、経済産業省は「第三者承継支援総合パッケージ」を策定しました。
この政策は、民官の支援機関が一体となって、今後年間6万者・10年間で60万者の第三者承継の実現を目指すものです。

近年、政府が力を入れている第三者承継(以下、M&A)。
メリット・デメリットは以下の通りです。

メリット
◆優秀な人材を幅広い選択肢の中から検討できる
上記で説明した2つの承継と比べ、もっとも幅広い対象から後継者を選定できます。少ない選択肢では消去法的な選定になる恐れがありますが、外部人材であれば、妥協せず優秀な人材確保へつながります。

◆事業拡大へつながる
第三者である後継者は、今までにはなかった視点や価値観、経営ノウハウを持っている可能性があり、事業拡大や業績の改善が期待できます。
実際に図表4と図表5のような調査結果が報告されています。

図表4 M&A実施有無別、売上高成長率(中央値)

(出典:(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工)

図表5 M&A実施有無別、営業利益成長売率(中央値)

(出典:(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工)

上記の調査より、M&A実施有無と売上成長率、営業利益成長率は相関関係があることがわかります。

デメリット
◆時間的余裕が必要
企業の財務状況やその時々の経済環境などにより、買い手が見つかるまでに時間がかかることがあります。そのため、早期に取り組む必要性があります。

◆M&Aへの抵抗感
これまでに関係性のなかった人へ会社を委ねることになります。また、実例も他の承継方法より少ないと認識されており、従業員や取引先といった関係者が抵抗感をしめす場合があります。

しかし、事業承継・引継支援センターが全国に設置されたことや、政府の政策(第三者承継支援総合パッケージなど)によりM&Aは増加傾向です。(図表6)

図表6 事業引継ぎ支援センターの相談件数、成約件数の推移

(出典:(独)中小企業基盤整備機構調べ)

それにともない、中小企業白書(2021年)にはM&Aに対するイメージが向上しているとのデータがあります。(図表7)

図表7 10年前と比較したM&Aに対するイメージの変化

(出典:中小企業白書(2021年版))


まとめ

全ての経営者がいずれ考えることになる事業承継。
「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継(M&A)」、どれを選択するかはとても難しい問題です。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、時間をかけて慎重な判断が求められます。
そのためにも、常に新しい情報に触れ選択肢をたくさん用意しておくことが重要だと感じます。

第二弾はここでおしまいです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

次回は3本立て記事の最終回。お楽しみに!!

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