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ココロを豊かにさせてくれる二人の賢者の声。(哲学書評)

現代世界。それは不確実で、混沌としていて、情報の渦があちこちにある。注意していないと足をすくわれてしまう。コロナ禍の日常では、誰もがココロが不安定になりかねないような環境におかれている。

今回は、ふたりの賢者をとりあげる。その賢者とは、フランシス・ベーコンとブッダである。『ベーコン随想集』と『ブッダが説いたこと』のレヴューを兼ねて、前者の本を対談式に無脚色で編集する。悩んだら哲学者の声を聴け。これはある人が言っていたことである。

『ブッダが説いたこと』はワールポラ・ラーフラというスリランカ出身の学僧が著した。ラーフラ師は、『ブッダが考えたこと』を書いた仏教学者、リチャード・ゴンブリッチ(美術史家のエルンスト・ゴンブリッチの息子)の師匠です。岩波文庫。

この本は、千夜千冊の案内(1757夜)を読んで知った。
https://1000ya.isis.ne.jp/1757.html 

 いわば、現代人が心身ともに健康な生活をおくるための、最高の教科書だといえる。そして、人生を本当の意味で豊かにするヒントが詰まっている、生き方の指南書でもある。岩波文庫は、古典的作品がメインで読むのに骨が折れるのでは?そんな声はあると思う。けれど、この本は驚くほど読みやすい。岩波文庫に抵抗感がある方でも読めるのではないかと思う。そういう自分も岩波文庫はまだそんなには読めない。

ブッダという人類史上稀にみる、マインドコントロール(マインドメンテナンスといってもいい)の達人は、精神や感情のフクザツな働きを誰よりも理解している。第7章、心の修養(バーヴァナー)は素晴らしいと思った。この章はブッダの以下の言葉で始まる。

ブッダが言った。「弟子たちよ、病には二種類ある。肉体的な病いと心的な病いである。肉体的な病いは、一年、二年、100年さらにはそれ以上にわたって、かからない幸せな人がいる。しかし弟子たちよ、心的な汚れから解放された者たちを除いて、この世の中で心的な病いのない状態を一瞬たりとも享受できる人は稀である。(p.149)

そして、心に関する修養(p.160)で、こう書かれている。

あなたは裁判官ではなく、科学者である。自分の心を観察し、その本当の性質が明らかになると、あなたは情熱、感情、ストレスに対して冷静になれる。そうすると執着がなくなり、自由になり、ものごとがありのままに見えてくる。(p.160、161)

日常で仏教にそこまで馴染みがない人ももちろんいると思う。しかし、この本でラーフラは、仏教は、信仰や信心というものにほとんど関知していないという。つまり、信じるのではなく、見ること、理解することの重要性を説いている。ものごとがみえないとき、まず人は疑う。そして判断し、理解し、わかる。盲目的に信じるのではなく、自分自身の探究、学びによって新たな地平がひらける。(p.30要約)

ラーフラ師は、このように書く。

私はこの小冊子を、仏教に造詣がないけれども、ブッダが本当に何を説いたのかを知ろうとする、教育があり、知性のある一般読者を対象に著した。そのために、私はブッダが実際に用いたことばを忠実かつ正確に、そしてできるかぎり簡潔に、直截に、平易に伝えようと心がけた。(まえがきより)

さて、これで『ブッダが説いたこと』の案内は終わる。ベーコンに登場してもらおう。
対談テーマ。友情について 怒りについて 

友情について(二七)

Q 友人を持つことにどんな意味があるのでしょうか。

A.人々は、孤独が何であるか。また、どの程度までが孤独であるか、ほとんど気づいていない。群衆は仲間ではなく、顔を並べただけでは絵の陳列室にすぎず、愛のない所では、会話はシンバルをチリンチリン鳴らすにすぎないからである。「大きな都市は大きな孤独」というラテン語の諺は、そのことを示唆している。(p.119)

しかし、われわれはさらに進んで、この上なく真実のこととして、真の友人を持たないことが、それこそ悲惨な孤独であると断言できる。..…..…それがなければ、この世は荒野に過ぎない。そして、孤独のこのような意味からいっても、性質や感情が友情に不向きにできている人は誰でも、それを野獣から受けついでいるのであって、人間性からではない。(p.119)

友情の主要な効果は、あらゆる種類の情念が原因となって引き起こす、心のわだかまりや高ぶりを和らげて発散させることである。..……真の友人のほかに、どんな処方もない。真の友人には悲しみも、喜びも、望みも、疑いも、忠告も、心に重くのしかかるどんなことでも、打ち明けることができる。(p.119、120)

友人の第二の効果は、第一の効果が感情に対してそうであるように、知性に対して健全をもたらすものであり、最上のものである。友情は感情にあっては、荒天と嵐を晴天にするが、しかし知性にあっては、思想の闇と混乱を白昼にするからである。確かなことだが、心に多くの考えをもっている人は誰でも、それを他の人に伝えたり話したりすることによって、才知や知性が明晰になり、ほぐれてくる。(p.124)

茂木健一郎さんは自身のyoutubeチャンネルで、孤独に対する最上の対策は教養であると話していました。ベーコンの話からは、教養と友情の相乗的な関係が垣間見れます。また、複数の友人ではなく、真の友人という点はポイントだと思います。


怒りについて (五七)

Q. 怒りはどうしたら、静め、和らげられるのでしょうか。どうすれば、怒りの働きが押さえられるでしょうか。

A. 第一について言えば、怒りがどんなに自分の生活を悩ますことかと、その結果を深く考え、とくと反省するより、仕方がない。また、そうするのに最も良い時は、怒りの発作がすっかり収まって、怒りを振り返ってみるときである。(p.241)

第二の点について言えば、怒りの原因と動機はだいたい3つある。まず、傷つけられることに鋭敏すぎることである。自分が傷つけられたと思わない人は誰も、怒りはしないからである。(p.241)

次は、加えられた危害を、その事情からみて、完全な侮蔑であると理解し、解釈することである。侮蔑は、危害そのものと同じように、あるいはそれ以上に怒りを激しくするものだからである。それゆえ、侮蔑の事情を見分けるのに巧みだと、怒りを激しく燃やすことになる。(p.241)

最後に、自分の評判を傷つけられたと考えると、怒りを何倍も鋭くもする。この場合の対策は、ゴンサロがよく言ったように、「もっとじょうぶな名誉の織物」をもつことである。(p.241)

『ベーコン随想集』の書評として、以下のものが参考になった。フランシス・ベーコンは、エッセンスを濃縮した縮約版がでているようなので、そちらの本は上の編集よりも上質なのは間違いないと思います。(https://www.bookbang.jp/review/article/506619







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