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2度目の就職の話 【受付編 ①】

「今日からよろしくお願いします。」
私は受け付けの女性3人と私の後に入社された男性、高岡さん(仮名)に挨拶をしたものの、
「よろしくね。」
返してくれたのは仲宗根さんと高岡さんのふたりのみでした。

仕事は受付の4人の背後に置かれた丸椅子に座って待機し、彼女たちから手渡されるカルテを待つ、病棟から電話がかかってくればカルテを受け取りに行く…基本はそれの繰り返しの単純作業でした。

病棟の看護師の中には電話する手間を考えると自ら受付に出向くほうが早いと思われるかたも多々おられて、イメージしていた以上に暇な仕事でした。
そして手隙の時間が多い中、私はまた上村さんと岩橋さんの自分に対する陰口を聞くことになりました。
岩橋さんに到っては、
「だっさいかばん。中学生みたい。」
「あいつの髪、黒くてカラスみたい。」
「ノーメイク?てか、化粧下手すぎない?」と仕事とは関係のないことまで噂している始末でした。
そして時折、その様子を耳にした仲宗根さんから注意を受けていました。

私は確かに見た目も、持ち物に関しても、3人とは差がありすぎていたような気がします(今でもメイクに関しては、普通の洗顔で落とせるレベルの基礎化粧くらいしか出来ないです)。
髪は入社のときに較べ、かなり短くなっており、タイトな仕上がりになるよう段を入れてもらっているのですが、岩橋さんから言わせればヘルメットのようだと。
受付には時折、婦人科外来の看護師さんが用件があって訪ねてくることがあったのですが、
「同じナチュラルメイク、黒髪でも、あの人は可愛いから大違いね。」
と、聞こえるように話すのでした。

それから受付でも、薬局窓口でも、訪れればひとことふたこと雑談をして帰っていく女性の患者様がふたりいて、私は少し苦手に感じていて避けていたのですが、岩橋さんと一緒になって、私の見た目についていろいろと言ってきたのでした。
「お姉さんたちを見習ってきれいにしないとね。」

ある日私は少し頑張って自分なりに念入りなメイクを施しました。
すると、廊下ですれ違った仲宗根さんが、
「ちょっと。」
と、私を呼び止めました。
「メイク縒れてるよ。」
鏡で見ると確かに、一部ファンデーションの塗れていない箇所がありました。
笑顔で教えてくれた彼女の中に優しさを感じ、これからの厳しい毎日の心の支えになるのでした。


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