見出し画像

2度目の就職の話 【薬局編 ⑪】

上村さんが使っていたマグカップと同じものを探しに、主要駅にある大型雑貨店を訪ねましたがシンプルなものしか見つかりませんでした。
今ならネットショッピングで簡単に見つけることが出来たでしょうが、当時はまだ初代のWindowsの発売以前、インターネット環境を持つ一般人などほとんどいない時代でした。

「これいいんじゃない?持ちやすいし。」
一緒にいた専門学校時代の友人が、ピンク色で持ち手に特徴のあるスタイリッシュなデザインのマグカップを見つけてくれました。
「そうね。」
上村さんのマグカップとは似ても似つかないものでしたが、長期間問題を放置しておくわけにはいかないので仕方がありません。

翌朝、割れを修理したマグカップでお茶を飲んでいる上村さんに、「遅くなって申し訳ありません。よかったら使って下さい。」と、買ってきたマグカップの入った箱を差し出しました。
彼女は箱を一瞥したあと、
「いらない。」と凍りつくような目でそっけない返事をしたのです。

薬局に戻ると、
「そこまでしなくてもねえ。」と桐島さんは同情してくれました。
けれど、この時点では少しずつ心を通わせることの出来ていた桐島さんの信頼を裏切る出来事がまもなく訪れるのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?