「食堂み」の女たち19

光恵は響子の両親に、今娘は何をしているかと聞かれたので「民宿 宮下」の名前を出した。「民宿 宮下」は老夫婦が細々と商っている家族経営の宿で、ごくわずかな客しかとっていない。響子はここに来る前、宮下に泊まっていたらしく、老夫婦が腰を気遣いながら動いているのを見るに見かねて、宿泊客なのに掃除をしたり料理を運んだりしたそうだ。そのうち老夫婦がからここで働いてほしいと懇願されたのだった。
給料は十万ちょっとというので、「食堂み」での家賃は五千円下げてあげた。夕食は食堂のその日の残りを住人たちと分け合って食べていると話すと、両親は深々と頭を下げ「安心しました」夫婦の肩に張り付いた力が落ち笑顔になった。
帰り際「ご迷惑をおかけします」と分厚い封筒を両手で差し出してきたが、光恵は「いただけません」と断り押し返した。
「私は自分の稼いだお金で食べていますので」少し嫌らしい言い方かもしれないが、それが光恵の正直な思いだった。一代で「ホテル 富岡」を作った人だ。分かってくれるだろう。
両親が去った後、ほどなくして響子が帰ってきた。顔が赤い。どっかで飲んできたな。


続く

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