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JCXAS:モノクロに沈んだコンプライアンスにカラフルな未来への芽吹きを

僕が2019年からやっているコンプライアンス担当者の勉強会にRe:houmuというものがある。Re:houmuはもともと僕がやっていたセミナー受講者たちの同窓会組織。当時は珍しかった(今でも珍しいかもしれない)ワークショップ型のコンプライアンス研修で盛り上がった受講者たちの「もっとこの人たちと話をしていたい!」という要望に応える形で始まったものだ。

このRe:houmuを2024年に法人化し、JCXAS(日本コンプライアンストランスフォーメーション協会)として新しくスタートさせることになった。なお、僕は法人としてのJCXASとは出資雇用関係が無い世話役のようなものなので、一人のユーザーの声として以下を読んでいただければ嬉しい。

なんで、コンプライアンスは息苦しいのか?

率直に言って、「コンプライアンス」という言葉のイメージは良いものとは言えない。一円たりとも利益を生まないような面倒な手続の要求、言葉狩りを思わせる言動の規制。極めつけは、それらの活動に対する疑問や意見を口に出すことすら「不適切」になってしまう息苦しさ。コンプライアンスを好きだという人はほとんどいないのではないかと思う。

これはコンプライアンス部門で働く人同じだ。だから彼らは常に悩んでいる。自分たちの仕事に何の意味があるのか?ビジネスの邪魔をしているだけなのではないか?時には心無い言葉を浴びせられたり、不本意な社内評価をされることだってある。

本来、コンプライアンスというのは弱きを助け、誰もが正々堂々と働ける組織や社会を創る素晴らしい仕事だ。少なくとも僕はそう考えている。職場での暴力や強制わいせつが無くなれば安心して働ける人が増えるし、長時間働かされることが無くなれば、健康を害する人も減るだろう。そういう組織・社会の方がサステナブルだし、人は幸せなはずだ。

こんなポジティブな活動の担い手が、ネガティブなイメージに支配されていたら幸せな組織や社会なんてつくることはできない。コンプライアンスはもっとポジティブなものに変革されなければならない。これがJCXASの基本的な理念だ。

法律主導から、現場主導へ

本来ポジティブな活動であるはずのコンプライアンスがなぜネガティブなイメージに支配されている原因の一つとして、僕たちは「法律主導」「専門家主導」になり過ぎたという点に注目した。

日本では歴史的な経緯もあって、コンプライアンス=法律問題と考える向きがとても強い。その結果、法律や法律の専門家たちが考える問題であるという雰囲気が出来上がってしまったように思う。

もちろん、それは間違いではないし必要な面もある。でも、法律は組織の目的とは無関係に存在するものだから、法律の面が強調され過ぎると、コンプライアンスと組織の目的=ビジネスに対立構造が生まれがちである。これがコンプライアンスに対するネガティブなイメージの原因であるように思う。

2020年代になると、企業不祥事の調査報告書などでコンプライアンス違反の原因として、組織構造や風土の問題が指摘されるようになってきた。立派なルールや制度をつくることだけがコンプライアンスではない、という考えが企業不祥事の分野でも広がっている。法律に頼り過ぎたコンプライアンスには限界が来ているといえるだろう。

コンプライアンスは「誰もが正々堂々と胸を張って働ける組織をつくる」ことだから、その主導権は専門家ではなく組織で働く人びとにあるはずだ。だから僕たちは、組織で働く人びとが主導権者であるという自覚を取り戻す必要があると考えた。法律を無視したいとか法律家と敵対したいわけではない。本当の主役=組織で働く人びとを中心都市、法律家やそれ以外の分野の専門家たちが脇を固めながら、正々堂々と働ける組織を創りたい、言うなればコンプライアンスの民主化が僕たちの願いだ。

そのために僕たちが注目するのが現場で働く人たちの「実践知」。実践知とは、体験や実践によって得られた知という意味で、平たく言えば「当事者としてやってみて、初めて身に着く知識やノウハウ」のこと。コンプライアンスの仕事で言えば、法律の解説のような専門家が得意な部分ではなく、組織をどう動かすか?といった組織で働く人びとが得意な部分だ。

「実践知」を集約し、高めていくことでコンプライアンスの課題を解決し、ポジティブなスパイラルを作っていく、というのが僕たちが考える打ち手だ。

JCXASのWebサイトより

JCXASの活動

JCXASの活動は主に3つ。ひとつ目は前身のRe:houmuから続く月1回のオンライン交流会の「トーキングサークル」。ここはJCXASの理念に共感した会員たちの真面目な雑談会で、各自が自由に話題を持ち込んで他社の担当者に意見やコメントを求めることができる場。こういった対話の中から実践知の種を探す機能も担っている。

ふたつ目の活動はワーキンググループ。これはテーマ別の研究会のようなもので、トーキングサークルで見つけた実践知の種について研究を行い磨き高めることを目的としている。

みっつ目はセミナーやコンサルティング。メンバーが持つ実践知や、ワーキンググループで生まれた実践知をセミナーやコンサルティングという企業との直接対話を通じて、コンプライアンスをポジティブに変革していく機能を持つ。

Re:houmuは担当者間の内輪の勉強会という色合いが強かったけれど、JCXASはこの3つの活動を通じて、企業や、コンプライアンス分野の外とも積極的に交流し、よりプロアクティブにコンプライアンスの変革を進めていくことを意図している。

JCXASに向いている人、そうでない人

ハッキリ言って、JCXASが掲げる理念やミッションはイノベーターやアーリーアダプターを強く意識している。長く続いた法律主導のコンプライアンスという現状に挑戦するには、常識にとらわれない柔軟な思考と行動力を持つ仲間が必要だからだ。

コンプライアンスについて本気で考えている、新しい挑戦をしたい、そのために投資を積極的に行っている企業や個人であれば、JCXASの活動はきっと楽しい。コンプライアンス以外の分野で、例えば幸せに働ける組織を作るような仕事をしている人事部門や経営企画部門の人で、他分野の人たちとの繋がりと共創を求めている人にも楽しんでもらえると思う。

また、これから第一歩を踏み出してみたいという企業や人にとってもいい意味で刺激的な体験を提供できると思う。

反対に、法律の知識を増やしたいとか、自分の仕事に権威の裏付けが欲しいとかいう人たちの期待に応えるのは難しいかもしれない。JCXASは新しい団体だし、追求するのは名もなき担当者たちの実践知だからだ。

2019年にRe:houmuを立ち上げて依頼、100名を超える担当者の皆さんが様々な知見をくれた。それこそがJCXASの原点であり原動力だ。モノクロに沈んだコンプライアンスの世界に、カラフルな未来への芽吹きをもたらすJCXASの活動が、一人でも多くの人に届いて欲しい。



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