一方その頃(もう一つのストーリー)

私が生まれた時、父は既にいませんでした。

母の話では、彼はこう言い残して家を出て行ったそうです。

「ポコポコと子供ばかり生んで、しかも女の子なんて可愛くもない。」

そう言って、兄だけを連れてどこかへ消えてしまったのだとか。

母はいつも、口を歪めて言いました。

「お前の父親は、最低な男だったんだよ!」

母は必死に兄を探し、そして私を育てるために、精一杯働いてくれました。

私はほとんどの時間を保育園で過ごしました。保育園が終わると、別の保育園に連れて行かれ、夜遅くに「お母さんが来たよ」と起こされて家に帰ることもあれば、大人たちが集まるお店に連れて行かれ、お酒を飲む大人たちをただじっと見つめることもありました。

時には、母の腕に抱かれたまま車道に飛び込むこともありました。車のライトが眩しく、怒鳴り声が響く中で、恐怖に駆られて母にしがみつく手を離すことができませんでした。手を離したら、もっと恐ろしいことが起きるのではないかと思ったのです。

母はいつも、車道の真ん中で誰かの名前を叫んでいました。

つづく…

#ノンフィクション
#アダルトチルドレン


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