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アベノミクスの思い出,悲劇にも喜劇にもなりえなかった「暗愚三昧のアホノミクス」が日本をダメノミクス状態にさせた経緯(3)

 ※-1 2023年11月8日に書いてみた「前文」

 a)「本稿(3)」に当たる原文は,2014年3月13日に記述していた。それは※-2以降において復活・再掲する文章となる。「本稿(1)(2)」として再生させた内容は「ほぼ10年前」における分析・評価,批判・展望を開陳していた。

 ところが,安倍晋三の第2次政権が2020年9月26日にようやく幕を閉じてからも,菅 義偉および岸田文雄の自民党自堕落政権が,今日までダラダラと持続可能であったために,日本の政治経済はガタガタどころか,もはや救いようがない地点にまではまりこんでいる。

 いまは,インバウンド関連で外国人観光客が日本に大勢来てくれ,お金も落としてくれるのはいい。ところが,ちょっとしたホテルの宿泊料でも5万円から10万円といった「ツーリズム的なハイ・プライス」になっているようで,国内で仕事や生活をする労働者階級にとっては,出張のとき1万円未満のホテルを探してみたら,カプセルホテルしかなかったよし。

 2022年12月時点における話として,東京のホテル料金は2倍から3倍に高騰する始末とか。この値上げ幅が10年くらい長い時間をかけて上昇していったなら,まだ理解できなくもない。だが,コロナ禍がようやく収まり,外国人観光客が再来しだしたら,たとえは汚いが「糞詰まっていた便秘」の中身が一挙に吹き出したごとき無秩序の奔流になっており,概して,日本の産業経済・企業経営の脊柱じたいが,いかにもかぼそい様相になったかの様子まで感じさせるではないか。

 というようなこともあって,ともかくここ10年〔一昔?〕ほどの時間が経過するうちに,あのアベノミクスという本当のド・アホノミクス,超バカノミクスのおかげで,いまや,日本の政治がとりくみ経済を運営を進めるべき航路は,完全にその目的地をみうしなっていた。そのせいで,日本の国民・市民・庶民たちの日常生活は,経済社会的に沈下と没落の傾向が不可避になっている。

 かつて,経済大国だったこの日本であるが,いまでは「衰退途上国」だとまで自嘲せざるをえないほど,いうなれば落ちぼれた元・先進国になっている。

 b) 最近,一部の労働貴族たちのための《連合》という労働組織の上部団体は,2024年の春闘の時期を迎えて,5%ないしは6%だといった賃上げを資本家・経営者側に要求するらしい。だが,非正規労働者が4割近くも占める労働者「総数のうち」で,いったいどれほどの利害・関心がそのうちに反映させえるのか,これには疑問しか湧いてこない。

 連合のなかでも相対的・比較的に恵まれいる一部の「大企業体制の枠組」のなかにいられる労組に注視していえば,実質賃金の傾向的な低落に対して多少はあらがえる闘争も可能かもしれない。しかし,それ以外の「大多数の企業労働者」群から観た「春闘」なるものは,幼児がつかんで振るガラガラ程度の音響効果しかあるまい。

 要するに2010年代,安倍晋三が調子に乗って吹く鳴り物入り,そしてあの日銀前総裁で喰わせ者であった黒田東彦自身が太鼓を叩く「二人三脚」で,まともな経済学者からは,初めからできもしないと批判されていたはずの「リフレ目標を設定した経済政策」を,無視やりにぶちあげてみたものの,

 結局は10年ほどが経ったいまから総括するに,国際経済競争の熾烈な舞台において日本の産業経営陣は,なんとかトヨタ自動車だけが順位付けで50番以内に残っていたものが,最新,2023年における関連の統計資料を再確認したところ,トヨタどころか1社も姿がみられない。トヨタは52位に下落していた。今後さらにもっと下がっていくと予測するほかあるまい。

初めてこの順位付けから日本企業が消えた

 c) 実質賃金の問題に戻ろう。駄洒落的にいう。アベのベアは本物ではなく,これは戦時経済統制体制ばりに強要された,それも一部の大手企業だけによる賃上げ「限定版」であった。しかも,実質賃金の上昇に向かって,文句なしにつながっていたなどとは,とうていいえない。

 なかんずく,ここ四半世紀の日本労働経済における「実質賃金の推移」が「基本的に低減傾向であった事実」をしるために,まず,最新の記事(2日前,11月7日夕刊の報道)を初めの「前振り」として引用するのにつづき,この「結果としての事実を歴史的な経過をたどって教えていた統計図表」を,つづけて,いくつかかかげておくことにした。 

実質賃金が低下したから消費支出も減少
実に分かりやすい因果および相関の関係

 つぎにかかげる記事(2023年2月7日)は,「実質賃金の伸び」といえるような「労働経済にかかわる現象」が,全期間的・平均的には全然なかった経過を説明する報道である。

実質賃金の伸びは「実質マイナス」
まともに給与・賃金をもらえる労働者の平均給与のこと
つぎの図表がより分かりやすく
日本の賃金水準の低迷と沈滞ぶりを理解させる
「日本衰退」「日本没落」「日本沈没?」
それも労働者「階級」がまっさきに……

【参考記事】


 ※-2 さすがの日本経済新聞も,甘利 明経済財政・再生相(当時)のファッショ的な発言をたしなめた

  1)「ベア回答7割,業績回復追い風 経営者アンケート」『日本経済新聞』2014年3月13日朝刊1面

 日本経済新聞社は〔2014年〕3月12日,2014年春の労使交渉の一斉回答日に合わせて主要企業の経営者に対し緊急アンケートを実施した。今回,賃上げ回答をした企業の約7割の経営者が基本給を底上げするベースアップ(ベア)を実施すると答えた。多くの企業が業績回復にくわえて,デフレ脱却に向けた政府の賃上げ要請にも応え,給料アップに踏み切る。

 国内の主要企業の社長(会長,頭取含む)を対象に実施し,合計101社から回答をえた(いずれも有効回答のみを集計)。

 補註)以下の記述では,会社の数(調査された母数)がきわめて少なく,あくまで,そのごく一部の主要企業(大手:大規模会社)中心の話であることに注意したい。この話題は,日本産業全体に妥当するものとはなりえなかった。それよりも「話題性としてならば注目するに値していたこの記事」の意味に注目したい。

〔記事に戻る→〕 それによると,賃上げを回答した52社の経営者のうち,ベアを実施するのはほぼ7割の36人。引き上げ幅については「0.5%以上,1%未満」が21人(約40%)でもっとも多かった。次いで「0.5%未満」が9人(約17%),「1%以上,1.5%未満」が4人(約8%)などと続いた。

 補註)なお,2014年4月からの消費税上げ幅は3%であった(8%になっていた)。この数値とどのように突きあわせて考えればよいか? 消費者の生活実態に対して,この税の上げがどのように響くのか,大手企業の一部会社でそのようにベアを実施したからといって,日本経済全体に及ぼせる実際の効果はそれほど期待できない。

〔記事に戻る→〕 基準内賃金全体をめぐる回答の理由(複数回答)を聞いたところ「従業員の士気を高めるため」(42.6%),「業績が回復したため」(22.8%)が上位。円安の追い風などで,2014年3月期に過去最高益を記録する見通しの企業も多く,経営者が先行きに自信を深めている様子がうかがえる。セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長は「今回は先行きへの期待をこめて回答した」としている。

 補註)ベアを実施するからには,「従業員の士気を高め」て,もっと会社の業績が上がることを期待する,というわけである。

 ところで,a)「業績が回復したため」というベアの理由は分かるが,b)「士気を高める」ためという理由については,少し説明が必要である。

 b) のその士気に関した話の出発点としては,そうすると,ベアを実施するための「賃金原資」はもともと内部に蓄積されていたのだが,アベからうるさくいわれたので,その「ミクスに協力する意味」で,ここに至ってわが社の場合,ベアの要求に応じたという理屈になるのか?

 つまり,ベアを実施する論理が「経済・資本の論理」ではなく,それ以外の「なにか」が大きく介入したかのような経緯が,基本として強く感じられるのであった。

〔記事に戻る→〕 今春の労使交渉に,安倍政権が賃上げを求めていたことがどの程度,影響したかについては「少し影響した」との回答が23人で約40%だった。「ある程度影響した」は21人(約36%),「かなり影響した」が3人(約5%)の順になり,回答した58人の8割を超える経営者が政府の要請が影響した,と答えた。

 ただ,各社の中長期的な国内の総人件費に関する方針は「現状維持」(約44%)と「減る」(約18%)の合計で6割以上を占めた。足元の業績は回復傾向だが,大手企業は将来をにらんで人件費増にはなお慎重で,今後も賃上げの流れが続くかは不透明な情勢だ。

 各社はグローバル化を急いでおり,海外の総人件費については7割以上の経営者が中長期的に「増える」との認識を示した。

 補註)従業員の希望や労働組合の要求に対応して,企業側がいつも〔毎年〕なんらかでもベアを実施していたら,業界における競争において,人件費の要因のために不利になることは先刻承知である。

 だから,とりわけ最近では(ここでは2014年の話であったが),進んでベアをいたしますという企業はまれであった。たとい儲かっていても,誰〔どの会社〕がそのような「〈バカなこと〉を率先してやるか」という雰囲気があった,ということになっていた。

〔記事に戻る→〕 この日の企業の労働組合への回答によると,大手企業の多くが6年ぶりにベアを回答。日産自動車は満額回答の3500円。トヨタ自動車は組合による4000円の賃金改善要求に対し2700円を回答し,2008年実績の1000円を大幅に上回った。

 補註)トヨタの正規社員ではなく「期間工」の賃金待遇に関しては,当時(2014年ころ)どうなっていたのか? 実例を挙げて考えてみたい。つぎに言及するのは一例に過ぎないが,2007年ころの話題であった。

 「トヨタの期間工として働き,働きぶりが良かったのか,そのまま正社員となった人がいたそうで,現在勤続20年だということだった。年収800万弱。ボーナス年2回それぞれに120万円程度で,年間240万。

 註記)ところでこの実話に対して,同じトヨタで働く期間工の賃金を比較すると,約2分の1〔以下〕であった。同じ仕事・職務・作業なのに倍もの差はあるのは,あきらかに不当・不公平・不公正。

 前述の話題は,あえて江戸時代の状況のなかでいうとなれば,同じ武士のなかでも身分によって俸禄が大きく異なるのと「同じ性質の問題だ」といえなくはない。武士のあいだにはむろん,いろいろと仕事に違いはあるとはいえ,絶対的な「身分の基準」がそれぞれの「仕事の種類」を超えたかたちでもって,俸給(石高)そのものを取り決めていることは事実であった。

 以上の例え話的な説法はひとまず,現代の賃金問題を「近世における比較のかなわぬ賃金問題」であっても,無理にでも対置させて考えているだけの価値がないわけではない。なんらかの含意は汲みとってもらえる。

〔記事に戻る→〕 今月〔2014年3月の〕下旬に労使交渉が本格化する銀行界でもベアへの期待が高まってきた。三井住友銀行の労働組合が17年ぶりにベアを要求する方針を固め,他のメガバンク労組も足並みをそろえる見通しだ。保険業界では損保労連が12日,基本給の改善を求める方針を決めた。

 補註)以上は日本経済新聞の記事を引用しているなかでの評言であった。こういった「当時における」「ベアの傾向」がそのように,「大手の一部企業に出てきたことの意味」を,もっと的確に分析・解説する親切さがほしかた。

 なんというか,まあひとまず,アベノミクスとアベノポリティックスに協力しようとする姿勢が,当社:日経の報道路線においてならがともかくありますよ,とだけはいいたかったような,実に単調な「報道」になっていた。その種の印象が避けえなかった。


 ※-3「Myニュースでまとめ読み2〈 きょうのことば〉ベースアップ 恒常的な賃金増に」『日本経済新聞』2014年3月13日朝刊3面「総合」

 ▽-1 企業が従業員の月例賃金を決める賃金表・賃金カーブの水準を一律に引き上げること。すべての従業員の賃金を一様に底上げする効果がある。一時的な賃金増である年間一時金(ボーナス)の引き上げと比べて,退職金などの算定水準も底上げになるため,恒常的な賃金増(会社からみれば人件費負担増)につながる。

 ▽-2 年齢や勤続年数に応じて,1年経つと給与が増える仕組(定期昇給)をとる企業では,定昇+ベアが翌年の賃金の増加分になる。物価が上昇している局面で,ベアがなければ,年齢・勤続年数が同じ人の実質的な賃金は前年に比べて目減りしてしまう。近年はデフレの傾向が続いており,昨年までの春季労使交渉でベアを実施する企業は少なかった。

 ▽-3 もっとも,1月の消費者物価指数は前年同月比 1.3%上昇し,8カ月連続で上がった。4月からは消費税率が5%から8%に上がる。このため,デフレ脱却をめざす政府は経営側に賃上げを強く要求していた。各産業の労働組合を束ねる連合はベアの統一要求を5年ぶりにかかげ,月例賃金の1%以上の水準をかかげていた。

 補註)こうなっていとしたら,ベアなどという賃金面での対応が十分に期待も実現もできていない「その他大勢(多数)」の諸企業に勤務するサラリーマン・労働者の立場は,アベノポリティックスによるアベノミクスの企業側に対する「賃上げ要請」に対して,一部の企業であってもまたいくらかでも実現されていくことになれば,いよいよ,さらにとり残されてしまうにちがいあるまい。そういう結果になることは必定である。

 それでは,以前より問題になっていた日本経済社会内における「個別企業ごとの賃金格差(単なる「差」ではない「それ」)」がさらに拡大していき,より定着していくごとき傾向は,これを完全に止めることなどできるはずがない。大企業と中小・零細企業とのあいだでに存在してきた〈あれこれの経済格差〉は,どうしても現実的なつきものであった。

 けれども,アベノミクスが企業側に向けてアベノポリティックス的に要求したベア実施は,これに応じられる企業とそうではない企業とのあいだで,「相当の〈体力差〉」が,そもそも最初から実在していた。さらにいえば,大企業間でも業種ごと・会社ごとに,その格差は大きくある点も確か。

 たとえば,こういう現実もあった。

 ローソンも流通小売産業としてベアに応じる姿勢を積極的に示した。けれども,こういう批判を聴くと,はたして喜んでいいのか疑問符が付く。

 問題なのは,ローソンの「賃上げ」が正社員だけを対象にしているということだ。正社員とアルバイトなど非正規雇用者とを合わせると,ローソングループでは約20万人が働いている。しかし今回の「賃上げ」の対象となるのは,約3300人の正社員だけである。約18万5000人の非正規雇用者は対象外なのだ。

 補注)前段には,セブン&アイ・ホールディングスも同じ話題の対象となって出ていた。

 賃金を上げることで消費を活発化させてデフレ脱却につなげるには,3000人の社員を対象にするより18万人の非正規雇用者を対象にするほうが効果が大きいことは誰が考えてもわかる。そこを無視して,「デフレ脱却のための賃上げ」と誇れるのだろうか。「われわれの政策の成果」と胸をはるにいたっては,あきれるしかない。

 ローソンにつづいて作業服店チェーンのワークマンも賃金を引き上げることが〔2014年〕2月19日になって明らかになったが,こちらも対象は正社員である。とんちんかんな米倉〔弘昌日本経団連〕会長発言となった公明党と経団連の政策対話でも,前提になっているのは「正社員の賃上げ」で,「非正規雇用者の賃上げ」はふくまれていない。それでデフレ脱却が狙いというのは,論点がずれすぎているというしかない。

 註記)前屋 毅「『賃上げ』騒ぎはデフレ脱却にはつながらない」『YAHOO!JAPAN ニュース』http://bylines.news.yahoo.co.jp/maeyatsuyoshi/20130220-00023558/ 

 補註)前段のごとき「批判」を受けて,いや,大企業は正規社員がほとんどであって,これにベアを適用するのだから効果があるという意見には,こう答えておけばいい。

 大手一流大企業には,たとえば製造業であれば,下請け企業が1次・2次・3次とぶら下がっている。これだけいえば,いいたいことは理解してもらえるはずである。

 一般論になるが,この大企業でも派遣社員・契約社員は大勢雇用しているし,パート・アルバイトで雇用している従業員もたくさんいる。こちらの労働者社員にはベアがあっても,5円・10円(時給)では,まさに「スズメの涙」(以下!)であり,目にみえた効果など上がるわけがない。

 

 ※-4「賃上げを一過性に終わらせない」『日本経済新聞』2014年3月13日朝刊「社説」

 安倍政権の賃上げ要請に産業界が応えたかたちだ。春の労使交渉は〔2014年〕3月12日,主要企業の経営側から一斉に回答があり,毎月の給与水準を底上げするベースアップ(ベア)で近年にない額の賃上げに踏み切る企業が相次いだ。

 問われるのは賃金増を一時的なものにせず,来年,再来年と賃金を伸ばし続けられるかである。働く人の所得が安定して増え,消費が活発になることがデフレ脱却に必要だ。企業は賃金の原資になる利益を継続的に増やせるよう,競争力強化に励んでもらいたい。

 補註)ここまでの記述でもすぐに分かるように,こういう話は,一部大手のそれも業績のよい会社だけに妥当する〈エール〉でしかないことである。書かれている文章に感じとれるのは,ただ〈期待〉〈希望〉である。

 来年(2015年)以降もベアが実現しても,それも今日の話題に登場する一部大手の企業に限定されるようなベアであれば,この有効範囲--その空間も時間も--は,おのずと限界がある。

 補注の補注)前段の補注については,初めのほうでいくつか挙げてあったが,実質賃金に関した図表のなかに描かれていたその絶対的な低下傾向に注意してほしいところであった。

〔記事に戻る→〕 トヨタ自動車は直近の2008年(の1000円)を上回る2700円のベアを実施する。ホンダのベアも2200円と前回2008年(の800円)を大きく超えた。電機業界は日立製作所,パナソニックなど大手6社が1998年の1500円を上回る2000円のベアを回答した。新日鉄住金や三菱重工業なども毎月の給与水準の引き上げを決めた。

 政府は昨〔2013年〕秋,経済界や労働組合の代表らと政労使会議を設け,企業に賃上げを求めてきた。経営者にも賃上げに前向きな動きが広がり,それが回答に反映している。

 しかし,スズキは海外販売の先行きなどを慎重にみて一律のベアを見送った。賃上げは結局,企業の収益力しだいであることを政府は認識すべきだ。甘利 明経済財政・再生相は利益が増えているのに賃金を上げない企業には「経済産業省からなんらかの対応がある」と述べたが,民間の賃金決定への干渉は慎むべきだ。

 規制改革や法人税率の引き下げなど企業が活動しやすい環境づくりが政府の役割である。持続的に賃金を引き上げていくうえで企業には課題が多い。今〔2014〕年3月期に最高益を更新する企業が相次ぐが,円安やコスト削減効果に支えられている面も大きい。

 補註)「円安やコスト削減効果に支えられている」その実績・成果なのであったから,企業業績の回復といっても本物とはいいにくい。コスト削減というものの効果についていえば,企業努力のなかでもいちばん効果が上がりやすいのは,賃金削減(労務費カット)である。このことは,資本主義企業経営であれば第1原則みたいな真理である。

 しかし,このコストに関して「ベアさせろというアベノポリティックス流のアベノミクス」とのことである。これではどだい無理な筋書にならざるをえない。それでも政府の経済政策に協力しろと要求するのは,文字どおり無理難題でしかない。もっとも,その要求には〈矛盾そのもの〉が含まれている。

〔記事に戻る→〕 米欧企業では2桁が当たりまえの自己資本利益率(ROE)は,日本企業は1桁にとどまる。成長力のある事業の創造やビジネスモデルづくりにとり組む必要がある。非正規労働者の賃金を増やすためにも利益の増大が欠かせない。

 企業は,新興国での生産販売など海外事業の利益の比率が高まる傾向にある。現地で上げたもうけはその国・地域の従業員の待遇を改善する原資でもある。日本の従業員の賃金を上げていくためには,研究開発を含めた国内事業の付加価値向上がより重要になる。

 --さて,以上に紹介し多少議論してみた日経のこの社説は,政治家の言説に忠告(警告?)していた。

 まず「甘利 明経済財政・再生相」の発言は,つまり「利益が増えているのに賃金を上げない企業には『経済産業省からなんらかの対応がある』と述べ」ていた。

 すると日経側論説委員は,政府のそうした姿勢は「民間の賃金決定への干渉」であると,まるで苦虫を潰したかのような表情で,この社説を書いていたようにも感じられる。いわく,なんといっても「賃上げは企業の収益力しだいであり,政府はこの点をよく認識すべきである」。

 甘利大臣のいいぶんを,ここで勝手に敷衍させていえば,利益が減っているのに賃金を下げない企業に対して『経済産業省からなんらかの対応がある』と述べても,なにもおかしくないことになる。しかしこれは,まったく要らぬ形式論理を振りまわしての非難でしかなりえかった。

 甘利 明が実業界側の「資本の論理」「経営のリクツ」を十分に把握してモノをいっているようには聞こえなかった。財界側も政界側も本来,終局的には「同じ穴のムジナ」同士であるのだが,しかし,その穴のなかでは睦みあいながら,なおかつ肘を突っつきあっている。

 いまの安倍政権は,2012年12月の衆議院選挙での圧倒的な勝利〔とはいっても国民有権者の2割台の支持率しかなかったが〕に浮かれて,いまなおこのように資本主義経済体制にある日本の国家経済に対して,この本質的特性をしらぬままであっても,政治屋なりに理不尽な要求を突きつけている。

 いまから80年も以前であったが,大東亜戦争中の大日本帝国では,東條英機という軍人能吏がいて,(もっとも石原莞爾は関東軍在勤当時,上官であった東條英機を〈東條一等兵〉と呼んで憚らず,嘲笑したが),戦争統制経済体制を牛耳れたつもりになって,この戦時経済をそれなりに運営させていた。

 しかし,太平洋戦争の敗北は,東條英機のその気分的な国家運営のために保持していた精神が,現実的にはなんの裏づけもなく空振りを多発させていた事実を反証した。戦争の時代におけるそうした話題には及ぶべくもないが,なにやら,安倍晋三君のやっているつもりの「アベノポリティックス & アベノミクス」の足跡にも,それに似たような負の実績が残されていた。

 一国の首相や担当大臣が「企業にベアをやれ」と要求するのは,ファッショ:全体主義経済体制を想起させる。しかし,そのような経済運営面における要求を産業経済界に出したところで,今日〔ここでは2014年3月13日朝刊「社説」〕の報道にもはっきり出ていたように,ごく一部の最大手・一流企業側で,しかもその業績がよい会社の場合にしか応えられないはずのものであった。

 もちろん,デフレ基調を続けてきた日本経済のなかで,極力,ベアをさぼってきた会社のなかには,ずいぶん儲けてきており,だから内部蓄積もたんまり溜めこんでいる会社となれば,国家側にベアを頼むなどと個別に要請された場合,これ応えることがないのではない。

 つぎの報道は朝日新聞のものである。日本経済新聞との書き方に比べて,語感の相違が明確ににじみ出ている。

 

 ※-5「〈時時刻刻〉大手渋々,安倍ベア演出 好業績,政権意向に乗る」『朝日新聞』2014年3月13日朝刊」

 6年ぶりの本格的な賃上げ春闘が注目されたのは,アベノミクスを成功させたい安倍政権が,労使で決める賃金交渉に公然と口をはさんだからだ。賃上げの動きは,中小企業や非正社員にどこまで波及するのか。政権がめざす「経済の好循環」への道のりは険しい。

 「円安で息を吹きかえし,業績も改善してきた。企業が経済の好循環の実現に努力しているのはうれしいかぎりだ」。経団連の米倉弘昌会長は〔2014年〕3月12日,名古屋市内で記者団にこう語った。1カ月前,「いまはベアという世の中ではない」と慎重な姿勢だった米倉氏。この日は大手のベア回答を自賛した。

 一方,安倍政権の甘利 明・経済再生相は「デフレ脱却と経済再生の原動力となる手応えを感じる」と胸を張った。円安の恩恵を受け,自動車や電機など大手製造業は今期,過去最高益の業績見通しが相次ぐ。賃上げの原資がないわけではない。

 ただ,一時金(ボーナス)と違ってベアは将来にわたって人件費の増加につながるため,企業はベアに慎重だ。「収益は一時金で還元するのが基本」(新日鉄住金)との強い姿勢を当初は崩さなかった。

 かたくなな企業に,政権は春闘の半年前から手を打った。昨〔2013〕年9月に政労使会議を開き,経営者を招いた。「好循環」に向けたとり組みをただし,賃上げを求めるねらいだった。「ボーナスよりもベアが望ましい」(菅 義偉官房長官)として,より消費を刺激するとされるベアにこだわる姿勢も鮮明にした。

 企業の態度を軟化させたひとつは,政権が打ち出した復興法人税の前倒し廃止だ。今月末に廃止され,もうけの2%分ほどの税金が軽くなる。利益が多い企業ほど自由に使えるお金が増える。企業側には,わかりやすい「賃上げ原資」と映った。

 そこで経団連は「復興法人税が廃止されれば賃上げする」と表明。

 補註)ここで川柳。「法人税 相殺される ベ・アかな」。なーんだという印象である。法人税を減らした分を補填するための税金に消費税があることはいうまでもない「事実」であった。

 なお,ここで断わっておくべきは,日本の法人税が高いといわれるが,「実は」「大きな誤解なのである」という一点である(詳しくは,森永卓郎監修,武田知弘『「新富裕層」が日本を滅ぼす-金持ちが普通に納税すれば,消費税はいらない!』中央公論新社,2014年2月,引用箇所は51頁)。

〔記事に戻る→〕 今〔2014〕年1月には6年ぶりにベアを容認する姿勢に転じた。集中回答日の前日には,政権側から「なにも対応してくれないなら,好循環に非協力的ということでなんらかの対応があると思う」(甘利氏)と念を押す発言も。

 ふたを開けてみれば,金額にばらつきはあるものの幅広い業種でのベア回答のラッシュ。日立製作所の御手洗尚樹執行役常務は3月12日,「好循環にどう貢献するかを考えた。政府の要請などいろいろ,非常に大きな強い風だと感じた」と振り返った。

 政権の意向に乗った春闘だけに,企業からは「ベアは今回かぎり」との思いもにじむ。富士通の山本正已社長は「来〔2015〕年以降は,今年の特別な要因をのぞいたうえで,賃金のあり方を検討する必要がある」。政権がお膳立てした賃上げ春闘が,来年も続く保証はない。

 補註)要は,今回(本年)だけのベア回答だよと釘を刺す格好で,大手企業側は応えている。安倍晋三君の顔を立てる意味で,そうは応えておくけれども,「来年のいまごろは,はたして安倍首相の政治的な立場が,間違いなく同じに堅持できているかどうか,この保証はないし……」,「それにいまの経済状態が持続するという保証もないな……」というのが,政府の要求に応じている会社側のホンネである。

 1年後,企業業績がいま以上に上向きになるという保証も,むろんない。いまのところにおける業績の向上,これが実現できている大企業でも,「円安とコスト削減」によるものだという事情は,先述にも指摘されていた。円安とは別に,「コスト削減」要因として重要な原価要素である労務費(人件費)を上昇させるベアのことである。まだまだ先行き不透明の世界経済情勢のなかで,会社側がベアそのもにより積極的になれないのは当然である。

 ◇「中小・非正規,広がり欠く」 --中小企業の労使交渉はこれから本番を迎える。日本商工会議所の調べでは,中小の4割が,年齢や勤続年数に応じて自動的にあがる「定期昇給」を含む広い意味の賃上げを予定する。だが,中小労組などでつくる産業別労組JAMは「大手のようなベアができるわけではない」(藤川慎一副会長)とみる。

 補註)定期昇給とは,年齢ごと・勤務年数ごとに上がる賃金:俸給の階層(ランク)のことであるから,正規社員である場合は,通常,この定期昇給だけは適用されている。しかし,派遣・契約社員は,基本的に別の話である。

 「デフレ脱却にベアが必要といわれても,別世界の話。うちにはむずかしい」。川崎市川崎区でプレス業を営むマサオプレスの宮澤章社長(45歳)は大手のベア回答を淡々と受け止める。受注が伸び,今年度の売上高は約2割増えたが,「定期昇給がやっと」だ。

 非正社員に目を向ける企業も出てはいる。大手では,トヨタが非正社員の日給を200円引き上げる考えだ(前述の補註参照)。家具大手のニトリもパートやアルバイトの時給を平均21.4円引き上げる方針を打ち出した。

 とはいえ,約2千万人いる非正社員が広く賃上げの恩恵を受けられるようになるにはほど遠い。鉄道会社で改札業務にたずさわる男性契約社員(33歳)は「収入が上がらないと結婚もできないし,景気もよくならない」と話した。

 補註)これでありながら,日本の人口が減少していく困るという話に対して,日本政府はなにか対応策があるのか? 安倍晋三君の観ている「この先」の「経済と社会」は,いったいどうなるのか,これがさっぱり分かりえない。人口政策すらまだ確たるものがない様子である。

 人口政策といったら,その後も合計特殊出生率は沈滞したままに,しかも出生数そのものはじわじわ減少してきた。次表をみたい。なお,この図表のなかで右の「出生数」と「合計特殊出生率」の数値は,引用者が加筆した。

2023年以降も出生数は減少度を増す

 ◇「経済好循環,物価高が壁 消費費増税の影響必至」--政権が描くどおり簡単には,経済の好循環は実現しない。これまでは物価が上昇する一方で,賃金はそれほど上がってこなかった。モノを買う力が前年よりも弱い状況が今〔2014〕年1月まで7カ月連続で続く。

 足元の物価上昇率は前年の同じ月に比べて1.3%ほど。4月に消費税が上がることで,物価をさらに2%幅ほど押し上げる。バブル末期の1991年以来の3%台の物価高がやってくる。

 消費を冷えこませないためには,これに見合うだけの賃金増が必要だ。だが,賃上げトップランナーのトヨタの賃金の上昇率は0.78%ほど。今年度の物価上昇率見通し(0.7%)は上回るものの,定期昇給をふくめても2.87%で,消費増税を織りこんだ物価の値上がりには追いつかない。

 多くの企業はベアを実施するにしてもトヨタより低くなる。「デフレで染みついた企業の賃金抑制の姿勢も一朝一夕にはかわらない」(伊藤忠経済研究所)側面もある。賃金増より物価高の方が意識されそうだ。

 SMBC日興証券の宮前耕也シニア・エコノミストは「政府の主導でベアをおこなっても,働き手全体の賃金に波及させることはむずかしいだろう」と指摘する。

 --こちら朝日新聞の記事のほうが,現状における日本経済の現実,それもベア問題をめぐる事実に関する議論としては,より実相に迫っていると判断できる。

 要するに,今年:いま〔の2014年〕であっても,平均的な給与労働者にとっては,とてもきびしい生活状況であったのに,一部の大手企業における,それも業績のよい会社のベアに庶民の目を注目させるためのごとき報道は,いただけない。

 もっと関連する問題をまんべんなく拾い,分析・解説・批評するのが新聞紙の仕事・任務であるはずであった。大部分の勤労者には,ほとんど縁のない,ましては非正規社員,年金生活者(無職ではなく有職者も大勢いる)にとっては,はるか向こう岸の話題ばかりではないか。この指摘はとくに,日本経済新聞について強く述べておきたかった感想であった。

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