気を逸らす
どこかに痛みがあったり
何か心配事や不安があったり
そういうときって神経がそこにばかり集中してしまい、痛みや不安がどんどん強くなっていく気がする。
一点に集中してしまった神経をどこかに上手く逸らせば良いのだろうけれど、そう簡単なことではない。
わかっちゃいるけれどやめられない、とスーダラ節でも歌っている。
何の話をしようとしているかというと、
とにかく痛みを他に逸らす必要が私にはあったのだ。
至急至急、大至急。
約2週間ほど前に後頭部(耳の後ろ)の腫瘍の摘出手術を昼休みに受けてきた。
ぎりぎり外来(日帰り)で出来るかな、のビッグサイズ腫瘍であった。
長さ約10センチ弱の傷を8針縫合した。
先日その抜糸をしてきたのだ。
担当医が傷を見るなり「あれ?」と言った。
医師が言うと怖いセリフのベストテンに入る言葉「あれ?」。
「あれ?赤いなあ。痛かったでしょ?」と。
痛みはあったが我慢出来ないほどではなく普通に暮らしていた。
仕事も普通にしていた。
「ちょっとね、傷の感じからすると抜糸かなり痛いかもしれない。」
私はこれまで抜糸の経験は何度かあるが痛かった記憶はない。
そのため「痛い」と言ってもたかが知れているだろうと思い「気絶するほどじゃないなら大丈夫だいじょうぶ。」と軽く答えてしまった。
数分後には激しく後悔した。
気絶するほど痛かったのだ。
創部から血が出たのも分かった。
キュッキュッと引っ張られてつっぱるような痛み。
そのつど奥歯を噛みしめ目をギュッとつむる。肛門にもチカラが入る。
3発目の痛みでもう逃げたくなった。
そして私は思いついたのだ。
創部に神経が集中しているから余計に痛みが強いのだ、と。
痛みを別のところへ分散すれば良いのだ。
私は糸がつままれた瞬間に、指の爪の付け根を反対の手の爪でグッと強くおした。
これは意識レベルを確認するための痛み刺激であり、かなり痛い。
痛っつぁぁぁぁい!!
だめだだめだ。
どっちも痛すぎてどっちがどう痛かったかよく分からない。
少なくとも分散された感はない。
次こそちゃんと判断するぞ。
ぐぬぅ!!痛ぁぁぁい!!
抜糸の方が痛い気がする。
やっぱり自分だと本気のチカラで爪を押すことができないのだろうか。
これでは検証できないじゃないか。
私は渾身の力をこめて爪を押してみる。
「いっ!!痛ぁっ!!」
私が思わず声を上げると先生は「え?今なにもしてないよ!?」と驚いて声を上げた。
私は爪を押すことだけに夢中になり、抜糸のタイミングと合わせることを完全に忘れていた。
これではただ自分で自分の意識レベルを確認しただけである。
「意識レベルは異常ありません。」
意識レベル以外がいささか心配である。
医師に事情を話すと呆れて笑っていた。
そのまま爪を押しながらの抜糸は続き、結局抜糸はずっと痛かった。
抜糸した創部の痛みは落ち着いたが、爪の付け根の痛みは残っている。
今度は爪の付け根の痛みを逸らすための何かを考えなければならない。
困ったものだ。