RAKERU
私は「RAKERU」がとても好きだ。
私とRAKERUの出会いはかなり前までさかのぼる。
私には先天性の足の病気があり、1歳、7歳、11歳…と成長過程に合わせて何度か手術を受けた。
生後まもなくから中学を卒業するまでの長いあいだ数ヶ月ごとに大学病院に通院していた。
その病院の目の前にRAKERUがあったのだ。
病院を受診するたびに採血やギブスの巻き直し、薄暗い部屋でのレントゲン検査、矯正靴の調整、リハビリなどが行われた。
受診が終わると「頑張ったごほうび」として毎回RAKERUで母と食事をするのが習慣となっていた。
母と二人だけでレストランで食事をするということは、幼い私にとって特別に楽しい時間であった。
あれだけイヤで仕方がなかった「足の病院に行くこと」が、いつの間にか「RAKERUでゴハン食べられる♪ワーイワーイ♪」というものに変わっていた。単純である。
お店の入口まではちょっとした階段があり、木で出来た扉を開けると広々としたフロアが広がっている。
店員さんに座席まで案内され、私は得意げな顔で母の後ろを歩いていく。
他のテーブルでは見覚えのあるお医者さんがお昼ごはんを食べていることもあった。
メニューを見ているだけでワクワクする。
どれもこれも美味しそうだ。
初めて食べたのはハンバーグだったと思うが、ハンバーグよりも記憶に残ったものがある。
ラケルパンである。
初めてラケルパンを食べた時、あまりの美味しさにビックリして思わず立ち上がりそうになった。
ラケルパンはものすごく美味しい。
とても良い香りがする。
ほわほわと温かく、ふわふわでモチモチでバターも最高に美味しかった。
母は必ずひと欠片を私に分けてくれた。
高校入学と同時に通院の必要もなくなり、RAKERUに行く機会もなくなってしまった。
そもそも私はRAKERUというのはあの病院の前にある一軒だけだと思っていた。
ところが大人になり、とあるデパートで買い物をしていると懐かしい看板を見つけた。
え!?アナタ、あのRAKERUなの!?
母にRAKERUというお店があったことを伝え、次の休みに久々に行ってみた。
母も「懐かしいねえ!病院のこと思い出すねー。」とニコニコ嬉しそうであった。
それぞれ違う料理を選んだが、もちろん母も私もラケルパンは注文した。
キッチンからオムレツの卵をかき混ぜる音やハンバーグを焼く音が聞こえてくる。良い香りもしてくる。
しばらくすると可愛いらしいユニフォーム姿の店員さんがお料理が運んできた。
そうそう!このパン!!
やっぱり美味しい。すごく美味しい。
ふと病院に通っていたころの思い出が蘇る。
いつも優しかった先生。
看護師さんのあたたかい手。
耳たぶから血をとる時のチクっとした痛み。
ギブスを切る音やレントゲン台の冷たい感触。
汗を拭ってくれる母のハンカチの香り。
駅から病院に続く商店街の本屋さんには白い猫がいた。
幼い頃の通院や病気の治療が「つらかった記憶」として残らずに、RAKERUのおかげでむしろホワホワとした温かいものとして残っている。
あのころの思い出はラケルパンそのものだ。
最近RAKERUに行くことが出来ていなかったので落ち着いたらまた行こう。
パンはお店でももちろん食べるが、帰りにはお土産に買って帰ろう。