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父が泣いた日

年明けにリウマチと診断され、その治療が開始となった途端に胃がんが見つかった父。
リウマチと胃がんの両方を診てもらえる病院を紹介され、先日はじめてその病院を受診してきた。

病院へ向かう途中「実を言うと俺はまだ半信半疑なんだ。こんなにメシが旨いのに胃がんなんておかしいよ。」と父は何度も繰り返した。
そう思いたい気持ちが強かったのだろう。

そんな父の期待を裏切り、診察室で見せられた画像では胃の上方にぼこぼこした大きなガンがあった。

「あーこれは完全にガンだな!!」

患者である父が大声で診断した。
医師も思わず笑ってしまっていた。
想像していたよりもずっと大きなガンであった。

さらに胃の下の方にも医師いわく「怪しいもの」があるという。
下部にある「怪しいもの」が腹腔鏡で除去できるようであれば胃は2分の1程度の切除で済む。
しかし、そうでなければ父の胃は全摘となる。

他の臓器への転移の有無を検査し、胃カメラも再度おこなうことになった。
リウマチの方は骨密度なども検査することになった。

消化器科、リウマチ科とも医師がとても親身であることに父も私たちも救われた。

消化器科では「王選手と同じですよ。大丈夫!頑張りましょうね。」と励ましてくれた医師に対し父は「ナボナですね!」と素っ頓狂な返事をしていた。

ちなみにリウマチ科も消化器科もどちらも美人の女医さんである。
父は本当にラッキーだ。

その日の帰り道、父は「これでもう腹をくくったぞ。あんなものさっさと取っちまえばこっちのもんだ。」と気丈に振る舞っていた。

夕ごはんのときは3人ともよく分からないテンションで色んな話をしたような気がするが、正直あの日のことはあまりよく思い出せない。
その夜はあまり眠れなかった。

翌日、家族そろって朝ごはんを食べていると突然「本当のことを言うと、まだしばらくはこのまま3人で一緒にいてぇよ。」と父が泣き出した。

私は父が人前で泣くのを初めて見た。
息子(私の兄)を亡くしたときも母や私の前では一切泣かなかった。
その父が泣いている。

父に向かって「何言ってんの!あと10年は大丈夫だよ。長いねえ!あーやだやだ。」と答えた。

私は泣くのをこらえていたがやっぱり涙はこぼれてしまい、とっくに空っぽになった大きな茶碗で泣き顔を隠してゴハンをかきこむふりを続けるしかなかった。

来週早々に精密検査の結果を聞き、今後の治療方針が決まる。

父の、心からの笑顔が早く見たいと願う。