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ある奇妙な会議についての物語

第1回「世界ウイルス会議」

この物語は、少し不思議な会議についての報告です。
その名も「世界ウイルス会議」。この会議は、WHOや国連が主導するものでもなく、もちろん人間たちが集まる会議でもありません。「世界ウイルス会議」とは、私が勝手に名付けた、ウイルス同士がオンラインで(?)行う会議(?)なのです。

まず、ウイルスが生きるための大前提について述べておきます。それは、ウイルスは生物の体内でのみ繁殖することができる、ということです。さて、これを踏まえて「世界ウイルス会議」の内容に移りましょう。


会議の幕開け

議長は「レトロウイルス」と呼ばれる、非常に古くから存在するウイルスです。
議題は、新興ウイルスであるコロナウイルスの行動について。
参加者にはコロナウイルス、インフルエンザウイルス、エボラウイルスなど、人類がまだ発見していないウイルスも含まれていました。

会議が始まると、議長のレトロウイルスが厳かな声で口を開きました。
「新興のコロナウイルス族は少し無茶をし過ぎているのではないか。
このままでは、我々の繁殖に必要な人類を滅ぼしかねない。」


ウイルスたちの論議

最初に口を開いたのはインフルエンザウイルス。
「我々一族も、人類がスペイン風邪と名付けた時期には大いに暴れたが、今はつまみ食い程度で我慢している。
コロナ一族もそろそろ大人しくする時期ではないか。」

これに対し、コロナウイルスは反論します。
「何の寝言を言っているのかインフルエンザ族よ。
あなた方の時代と今とでは人類の数に大きな違いがある。
もっと暴れても人類が滅びることは絶対にない。
インフルエンザ族のつまみ食い程度で我々一族が満足できると思っているのか。」

エボラウイルスも意見を述べました。
「コロナウイルス族よ、そんな事を言っても我々を見てみろ。
発生当初は鼻息荒く張り切っていたが、症状が激しすぎて人類に目の敵にされ、今では細々と一族を守っているに過ぎない。
お前たちも注意しないと我々と同じことになるぞ。」


議長の考え

議長が重々しく言葉を続けました。
「我々の歴史の中では、人類と共存し、人類を進化する方向に役立ってきたウイルス族も存在している。
彼らを見習う時期が来ているのではないか。
太く短いウイルス族の繁栄で終わるか、細く長く一族を維持してゆくか。
決断を迫られているのではないだろうか。」

インフルエンザウイルスも頷きながら、「コロナウイルス族よ、議長のおっしゃるとおりだと我々も考えている。」と賛同の意を示しました。

コロナウイルス族の反論は続いていましたが、ここで議長は議事を進めることにしました。
「皆の意見は理解できた。しばらく時間を頂きたい、本日の結果を一族みんなで検討する。」


第2回「世界ウイルス会議」

数週間後、第2回の会議が開かれました。議長が再び口を開きました。
「コロナウイルス族よ、一族での話し合いの結果の報告をお願いする。」

コロナウイルスの代表が応じました。
「前回会議での意見に我々も従うことを了承した。
すでに行動を起こした株族が2部族いることを報告する。
デルタ株族とオミクロン株族である。」

代表は続けます。
「デルタ株族は、そろそろ力をセーブする時期だと考えていたようで、大人しくするとのことだ。
オミクロン株族は、人類を重症化させる力を弱くする代わりに感染者数を増やし、あまり目立たないように生存を図る戦略を取るとのことだ。」

議長は満足げに頷きました。
「これで人類の目を我々ウイルス族から逸らすことが出来ると考える。ウイルス族も安定的に繁栄を続けられると考える。
これで世界ウイルス会議を終了する。」


この奇妙な会議は、ウイルスたちの知られざる思惑を垣間見せるものでした。
彼らもまた、自らの存続のために、時に慎重な戦略を練る必要があるのです。
ウイルスたちの間で交わされるこのような会議が、私たちの知らないところで、どれだけ繰り広げられているのか想像すると、なんとも不思議な気持ちになります。

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