ドラマ「アンチヒーロー」から尋問を学ぶ:物を利用した証人尋問
ドラマ「アンチヒーロー」のリアリティ
アンチヒーロー第1話を見ました。これからの展開に期待できそうな終わり方で、おもしろかったです。もちろんエンタメですから本物の刑事裁判どおりとはいきませんでしたが、手続きについてリアリティを感じる場面もありました。
今回は、私が良くできていたと感じた尋問の場面を取り上げたいと思います。なお、ネタバレはありませんのでご安心下さい。
尋問では証人に自由に物を見せることはできない
長谷川博己さんや堀田真由さんが演じる弁護士が証人尋問をする場面がありました。そのなかで、このような台詞がありました(記憶で書いているので細かい点は間違っていると思いますがご容赦下さい)。
ここの言い回しはとてもリアルです。私自身、法廷で同じ言葉を数え切れないくらい言っています。これらは証人に物を示す際のキーワードなのです。
尋問で証人に物を見せられるのは3つの場面のみ
裁判は法律の定めに従って行われます。もちろん、証人尋問もそうです。どのような聞き方が許されるのかなど、細かく決められています。
その中には「こういう場面で、こういう使い方をするのであれば、証人に物を示しすことができる。」という定めもあります。つまり、証人尋問においては、自由に物を見せられるわけではないのです。証人尋問で物を利用できるのは、次の3つの場面に限られています。
場面1:記憶喚起のため
ドラマで出てきたものの1つ目です。裁判が行われるのは、事件からだいぶ時間が経ったあとです。時間経過から記憶が薄れてしまっている人もいます。また、裁判の緊張からド忘れしてしまう人もいます。そういう時に、証人に思い出してもらうため、記憶を刺激するための物を示す。これが「記憶喚起のため」に物を示す場面です。
場面2:供述の明確化のため
こちらもドラマで出てきたものです。証言は、言葉だけで聞いていたのではわかりにくいことがあります。例えば、ある人が玄関から建物のなかをどのように通って事件現場までたどり着いたのかを話している場面。それを言葉のみで説明をし、聞いている裁判官や裁判員に理解してもらうことは簡単ではありません。
そういうときは、その建物の図面を示して、証人が移動した経路を書き込んでもらうことができます。言葉だけではわかりにくい供述を明確にする、という意味で「供述の明確化のため」と呼ばれている場面です。
場面3:同一性の確認
ドラマには出てきませんでしたが、物を示せる場面はもう一つあります。それが「同一性を確認するため」です。例えば、現場で凶器の包丁を発見した警察官が証人だとします。その人に対して、今裁判所で取調べられようとしている包丁が、現場で発見したものと同一のものであることを見て確認してもらうために示す。これが「同一性の確認のため」と呼ばれる場面です。
隠し持っていた物を突然示すことは許されない
ドラマや映画を見ていると、弁護士が自ら探してきた証拠を突然証人に突きつけ、それをきっかけに証人が真実を語りだすという場面を目にすることがあります。その回のクライマックスとも言える場面です。しかし、残念ながら現実の裁判では許されません。
まず、証人に示す物は、必ず事前に相手方(弁護士であれば検察官)に見せておかなければなりません。さらに、さきほどの場面1と場面2の場合には、物を示す前に裁判官の許可を取らなければなりません。
・・・ドラマでこれをやっていては盛り上がりませんね。
まとめ
現実の法廷には細かいルールがあります。そのルールの中で尋問を上手に行い依頼者を守るのが弁護士の役割です。確かにドラマほど自由には出来ませんし、ドラマほど劇的な場面は多くはないかもしれません。しかし、人の人生がかかった非日常的な空間であることは間違いありません。
裁判の傍聴は誰でも出来ます。一度裁判所に足を運んでみると良い経験になるかもしれません。
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