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HKT48博多歌笑劇(改訂版) 第一話

HKT48博多歌笑劇(改訂版)

第一話

★配役(役名はメンバーの名前そのまま)

☆田中家
姉:田中美久たなかみく
妹:田中伊桜莉たなかいおり

☆テナントビル・アネックス田中
2階・ダンスボーカル教室「ナンシーと音」
オーナー講師:下野由貴しものゆき
ダンス講師:本村碧唯もとむらあおい
今回の生徒:
運上うんじょう弘菜ひろな 小田彩加おだあやか 地頭江じとうえ音々ねね 豊永阿紀とよながあき 伊藤優絵瑠いとうゆえる 市村愛理いちむらあいり 栗山梨奈くりやまりな 坂本さかもとりの 長野雅ながのみやび 村上和叶むらかみわかな

1階・鉄板お好み焼き屋「食べ鉄亭」
店主:松本日向まつもとひなた
                                    
☆松岡商事
ヤンキー女社長:松岡菜摘まつおかなつみ
チンピラ社員:秋吉優花あきよしゆか(男装)

お巡りさん(兼ナレーション):坂口理子さかぐちりこ

★影ナレ
M00 Overture

★ステージ暗転
★オープニングナレーション:坂口理子
★ナレ【福岡市内で複数のテナントビルを所有する田中家。最後に建てたテナントビルのそばに自宅を構え、二人姉妹と両親の四人家族で暮らしていた】
★何も置かれていないHKT劇場のステージに並んで立つ美久と伊桜莉にピンスポット
美久「私、姉で大学生の美久と、」
伊桜莉「私、妹で高3生の伊桜莉、」
美久「そしてタヌキと呼ばれた父と、体は菜々緒だと言い張る母の4人で、ずっと仲良く暮らしてました」
伊桜莉「ところがある日、離婚する事になって、父が出て行ってしまって…」
美久「さびしいな。戻って来てくれんかな。とっても大きなチチだったのにな…」
伊桜莉「…それから母も、男の人にハマってしまい度々たびたび家を開けることがあったのですが、ついに今朝、置き手紙を残して姿を消してしまいました」
美久「ふざけんなってーの」
伊桜莉「手紙にはこう書かれていました。『家を出ます。探さないで下さい。借金取りが来ると思うけど、借りたお金は彼の独立資金に全部使って残ってないので、当分返せませんと言って追い返して下さい』って」
美久「簡単に言うなっつーのっ。もしお父さんが残してくれた家とテナントビルを取られたら、ウチらどうやって生きてくんだよっ!」
伊桜莉「私、借金取りを追い返すなんて怖くて出来ません!」
美久「ああ、今日からウチらに、母の借金を取立てに来るヤツらが付きまとうんだ…。うわ〜ん」
★暗転
★ナレ【姉妹の前に暗雲が立ち込め、今にもその命運は尽きてしまうかに思われた。だが、ここで運命は思わぬ方向へと進み始めるのである】
★M01「NEVER」MIE(ドラマ「不良少女とよばれて」主題歌)が流れ始める
★スクリーンにオープニングタイトル
 「第一話 不良物件とよばれて」
★ここからドラマ風に、声を低くしたナレーション
★ナレ【…このドラマは、借金の返済を迫る業者に立ち向かう、勇敢ゆうかんな姉妹とテナントの店主たち、そしてそこにつどうお客たちの、奇跡の物語である】
不良少女とよばれて オープニング

★ステージ明転 

M01 「NEVER」MIE (ドラマ「不良少女とよばれて」主題歌)
NEVER MIE
        
★ソロボーカル:豊永阿紀

栗山  長野  市村  坂本  村上
  地頭江 伊藤  運上  小田
        豊永

★豊永はジャケットに黒Tと黒のパンツ、運上は赤ジャージ、小田は紺か紫か緑ジャージ、地頭江と伊藤はヒップホップなヤンチャなレッスン着とメイク、市村は猫耳のかぶり物とゆるふわレッスン着、村上はうさ耳フードの付いたパーカー、他は動きやすい私服
★イントロは決めポーズのまま不動
★曲中のフォーメーション移動なし、ボーカルは決まった振り付けなしでその場で感じるままに、ボーカル以外は同じ振り付け(以下2曲も同じ)

M02 「タマシイレボリューション」Superfly 
Superfly 『タマシイレボリューション』Music Video

★ソロボーカル:豊永阿紀

栗山  長野  坂本  市村  村上
  地頭江 伊藤  運上  小田
        豊永

M03 「夏祭り」Whiteberry 
Whiteberry「夏祭り」 MUSIC VIDEO

★歌い出しは市村のソロ

地頭江 伊藤  豊永  運上  小田
  栗山  長野  坂本  村上
        市村

(M02、M03は省略しても可)

下手しもてから本村碧唯と下野由貴が拍手しながら登場
本村「いいじゃんいいじゃん」
下野「みんな練習の成果が出とうよ」
★下野が最前センターに来て、観客席を向き口を開く
下野「ここは、田中家のテナントビル、アネックス田中の2階にある、ダンスボーカル教室の『ナンシーと音』よ。私はこの教室のオーナー講師の下野由貴、彼女はダンス講師の本村碧唯。ここでは平日は学生中心、土曜は社会人中心、日曜は子供中心の教室をやっていて、今日は学生中心のこんな生徒さんたちが来てくれてるわ」
本村「由貴ちゃん、そっちは壁だよ?誰に向かってしゃべりようと?」
下野「アハ、なんでもないけん気にせんで」
★下野が生徒のみんなの方を向く
下野「それじゃあみんな〜、下に行ってお好み焼き食べる〜?おごるわよ〜」
全員「食べる食べる〜」
下野「じゃあ、貴重品だけは自分で持ってね〜」
全員「は〜い」
★下野が観客席を向く
下野「では皆さん、この後は、1階の鉄板お好み焼き屋『食べ鉄亭』のシーンよ!それじゃあセットチェンジ、行ってみよー!」
★暗転、全員集合のオープニングの冒頭部分のBGMが流れる
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★セットチェンジ後、明転。真ん中奥に入口があり右側が開いた引き戸になっていて、下手しもて側(向かって左側)に鉄板付き(に塗り分けた)3つのテーブルと丸イスが4個づつ、上手かみて側に鉄板付きL字型カウンターと高めの丸イスが観客席側の長辺に4個、入口側の短辺に2個あり、カウンターの中で店主の作務衣姿さむえすがたの松本がボウルを抱えて混ぜる仕草をしながら立っている。真ん中奥の入口から美久と伊桜莉が駆け込んでくる
美久「こんちわっ!」
松本「いらっしゃい、どないしたん、そんなに慌てて」
美久「ウチの母、来てない?!」
松本「え、あんたのオカン?来てへんで」
美久「あ〜もうっ、どこ行ったんだよっ」
松本「どうしたん?何があったん?」
伊桜莉「あの、今朝、母が家を出て行ってしまったんです。しかも借金を残したままで」
松本「借金を!?そら難儀やな。取立てが来たんか?」
伊桜莉「いえ、まだですけど、来たら当分お金は返せないから追い返せって置き手紙があって」
松本「むちゃ言うなぁ〜」
美久「か弱い乙女のウチらが追い返せるわけないじゃんね!」
松本「…そ、そやな」
★あさっての方向を向く松本
美久「なん、今のは?なんか言いたげじゃね?ねぇ、なんでウチから目をらすと?」
松本「べ、別にそらしてへんで。気のせいちゃうか?」
★さっきと逆にそっぽを向く松本
美久「あー、誤魔化ごまかした!今ゼッタイ誤魔化ごまかしたね!わかりやすい表情してんな!」
★手を腰に当てる美久。
松本「そうかあ?気のせいちゃうかぁ?」
★松本がすっとぼけた後、パッと二人に向き直る
松本「そんなんどうでもええねん。今はアンタらのオカンの方が大事だいじや。行き先に心当たりはないんか?」
伊桜莉「それが、思いつく所を回ってみたんですが、全然手掛かりが無くて。店長さんは何か知りませんか?」
松本「そやなぁ、…あ、そういや、いつだったか男と来て楽しげに食べとったな。そいつのトコとちゃうか?しらんけど」
伊桜莉「その男の人の居場所ってわかりますか?」
松本「わからんわ〜。一度しか来てへんからな。どこの誰かもわからへんわ。ゴメンやで」
伊桜莉「そうですかぁ〜。ああ、どうしたらいいのかなぁ」
★悩む伊桜莉。松本がカウンターに両手をついて身を乗り出す
松本「ま、あせらんと、とりあえず何か食べていかへん?お腹減ったらナンとかカンとかって言うやんか」
伊桜莉「腹が減ってはいくさは出来ぬ、ですね」
松本「そやそや。お腹減っとったらいくさできひんやろ」
伊桜莉「そうですね。美久ちゃん、何にする?」
美久「豚玉!」
伊桜莉「じゃあ私も」
松本「あいよ〜。座って待っとってや」
★美久と伊桜莉が3つあるテーブルの右テーブル(センター側のテーブル)に行き、右手前に美久、左手前に伊桜莉が向かい合って座る。同時に入口から下野と本村と生徒たちが入ってくる(服はレッスン着のまま)
全員「こんばんわ~」
松本「いらっしゃーい。おぉ、えらいぎょうさん来たなあ。相席でええなら詰めて座ってやー」
下野「はーい。美久ちゃん伊桜莉ちゃん、一緒にいいかしら?」
★下野が声を掛ける
美久「もちろんでーす」
下野「じゃあみんな、詰めて座ってね〜」
★下野と本村がカウンター席へ、生徒のみんながテーブル席へ。右テーブルの右手前の美久の奥に運上、左手前の伊桜莉の奥に小田。中テーブルの右手前に地頭江、右奥に豊永(胸にカメラを下げてちょこちょこ写真を撮っている)、左手前に伊藤、左奥に長野。左テーブルの右手前に栗山、右奥に坂本、左手前に猫耳の市村、左奥にうさ耳フードの村上が座る。本村がカウンターの長辺の左端席(一番センター側)、下野がその右隣の席にお互いちょっと半身になって向かい合って座る。松本がメモを手に取る
松本「みんな何にするん?」
★下野が代表して答える
下野「私がまとめて言うわね。豚玉みっつ、豚めんたいチーズ玉みっつ、豚キムチーズ玉ひとつ、納豆チーズ玉ひとつ、山芋しそチーズ玉よっつ、以上で」
松本「フンフン、えーっと…」
下野「もう一度言いましょうか?」
松本「豚玉海鮮デラックス12個やな!」
全員「ちがーうっ!!」
松本「冗談やって。ちゃんとわかってるで。しばらく待っとってや」
★カウンターに戻る松本。みんながザワつく
運上「大丈夫?ちゃんとオーダー通り出てくる?」
美久「大丈夫じゃない?」
小田「んー、どうかなぁ。なんてったって、あの日向だしさぁ」
全員「う〜ん」
★みんなが考え込むと、スーツにアロハシャツのチンピラ社員の秋吉が入ってくる
秋吉「邪魔するでー」
松本「邪魔するんやったら帰ってやー」
秋吉「おう、すまんすまん」
きびすを返して帰る秋吉、それを捕まえる白ジャージにスカジャンでスマホ片手のヤンキー女社長松岡
松岡「何やってんの?」
秋吉「いや社長、このやり取り、一度やってみたかったんッスよ」
松岡「あのね、ここ吉本劇場じゃないの。いいから、入りなさいよ」
秋吉「へーい」
★松岡に押されるように秋吉が、続いて松岡が入る。二人から顔をそらす美久と伊桜莉。秋吉がカウンターに歩み寄る
秋吉「あんた、ここの店長さんッスか?」
松本「そうですけど?」
秋吉「この人、今日ここに来なかったッスか?」
★秋吉がスーツの内ポケットからスマホを出し画面を見せる
松本「あ、美久ちゃんたちのオカンやね。来てへんで」
★首を振る松本。松岡が秋吉を押しのけて前に出てくる
松岡「正直に言いなよ。その人、このビルを担保たんぽに借金して逃げてるんやけんね。事によってはこのビル、借金のカタに取られるよ」
松本「えっ、そんなにおっきな借金してたんか!?」
★松本がテーブルの美久と伊桜莉を見る。秋吉と松岡もつられて振り返る。美久が思わず舌打ちする
美久「チッ、何やってんだよっ…」
★顔をしかめる美久、ビビる伊桜莉
秋吉「あっ社長、アイツら娘たちッスよ!」
美久「ほらバレたじゃ〜ん」
松岡「あらあら、こんな所におったんやね〜。アンタたち、お母さんがいつ家に帰ってくるか、知っとうよね?」
美久「知らんよ」
松岡「知らんわけないやん。自分の母親がいつ家に帰ってくるか知らんとか、ありえんやろ」
美久「ホントに知らんって。今朝置き手紙残しておらんくなって、ウチらも今日ずっと探しよったんやけん」
松岡「それじゃ困るのよねぇ。アタシらも、返すもんは返してもらわんと」
★松岡が美久たちに上から目線で歩み寄り、美久たちが座る右テーブルの正面に観客席に背を向けて立って見下ろす。美久が動じずに返す
美久「無理っちゃない?手紙に、お金は全部使ったけん当分返せんって書いてあったし」
松岡「なんてぇ?おいおい、こっちがおとなしくしてるからって、まさか舐めてんじゃないよねぇ、ぁん?」
★松岡がテーブルに片手をつき美久に向かってニカッと歯を見せて威嚇いかくした後、伊桜莉に向き直り、えりの後ろをつかみ上げて立ち上がらせる。すくみ上がる伊桜莉に松岡が作り笑顔を見せる
松岡「妹ちゃ〜ん、今から母親を探し出してさ、ここに連れてきてくれないかなあ〜。出来るよねぇ?」
★松岡がえりつかんだまま揺さぶる。
伊桜莉「そんな、無理です、出来ません」
★それを聞いた松岡がテーブルをバンッ!と叩き、声のトーンをグッと落とす
松岡「出来ませんじゃねぇよ。アンタの母親の落とし前、どうつけるんだよ。ぁあ?」
★松岡がつかんだえりをグイッと引き寄せ目の前すぐに顔を近づける。同時に中テーブルの右手前にいた地頭江がスッと立ち上がり、向かいに座っていた伊藤の肩をパパンッと素早く2回叩く
地頭江「優絵瑠、ちょっとこっち」
うなずいて立つ伊藤。地頭江がカウンターの方へ手首をグルグル回しながら歩き、伊藤が両手を組んで裏返して斜め下に伸ばしながら後について歩き、松岡と秋吉の横を通り抜けてカウンターの短辺側の前へと回り込み、二つ並んだ高めの丸イスに、顔を松岡の方へ向けお互い半身にハの字に向き合って、カウンターを背に片足を地面に付けたまま浅く腰掛ける。二人の動きを目で追っていた、えりつかんだままの松岡と秋吉が二人の方へ向き直る
松岡「何する気よ」
地頭江「別にぃ、何も」
松岡「ハァ?しらばっくれてんじゃねーよ。なんでわざわざ座る場所を変えたのか、理由を言いな!」
地頭江「別に。そっちじゃ巻き込まれそうやったけん、こっちに来ただけやけど」
伊藤「どこに座ろうが自由じゃん。私たちの勝手でしょ」
ました顔で動じることなく座っている地頭江と伊藤。反対側の左テーブルで坂本が首をかしげる
坂本「ね〜、なんで二人はあっちに行っちゃったのぉ?」
村上「何かあったらすぐ動ける場所を取って牽制けんせいしてるんじゃない?ほら、あの怖い人たちの動きが止まったでしょ。なかなかやるじゃん、あの二人。かなり場数ばかずを踏んでるって、絶対」
★松岡と秋吉はピクリとも動いていない。そこで豊永がカメラを手に立ち上がって二人の前に回り込んで出る
豊永「ちょっといいですか。お取り込み中すみませんが、一枚撮らせてもらってイイですかね」
突拍子とっぴょうしもない言葉に松岡が一瞬キョトンとする
松岡「ハァ?何言ってんのアンタ。いいワケないじゃない。何なのよアンタ」
豊永「申し遅れました。私、ノンフィクションライターで、週刊誌の特命記者やってるトヨナガといいます」
★名前を強調して言い、ジャケットの内ポケットに手を差し込み、名刺をつまんだ手を前へ差し出す豊永。松岡がアゴで指図さしずし、秋吉が歩み寄って受け取る
秋吉「週刊ウィークエンダー!?」
★日テレ「ウィークエンダー」のブリッジ、クインシー・ジョーンズの「アイアンサイド」が流れる(チャッチャラッチャラッチャ〜ってやつ)
アイアンサイド/クインシー・ジョーンズ
豊永「ウィークエンダー、知ってくれてますか」
秋吉「聞いたことはあるッスよ。50代以上ならこの名前を知らない人はいないってやつッスよね」
豊永「じゃあ話が早い。私もこんな人間模様にんげんもようあふれた場面、なかなか出くわす事はないんで。ぜひ記事にさせてもらえませんかねぇ。もちろん匿名とくめいで、顔にはモザイク掛けますから。いいですよね?」
★返事を待たずカメラを構える豊永
松岡「冗談じゃないわよ!秋吉、とっととそいつ、ここからつまみ出しな!」
えりつかんだままアゴで示す松岡。それを見て運上がすっくと立ち上がる
運上「ちょっと待った!その前にっ!」
★二人の前に出てくる運上
松岡「ハァッ!?今度は何っ!」
★キッとにらむ松岡
運上「あなたが掴んでるその手、いい加減離しなさいよ!」
松岡「なんだって?!うるさいよ邪魔すんじゃないよ!怪我けがしたくなかったらおとなしく引っ込んでなっ!」
運上「ぅるせーな、離せって言ってんだよコラッ!」
★可愛らしい見た目とは予想外のセリフに松岡も一瞬ひるむ
松岡「…な、なんだってぇ?フンッ、いい度胸してんじゃんか!離さなかったらどうするってんだよ、ぁあ?!」
★言われた運上が振り返ってカウンターの中に入る
松岡「なんだ逃げるのか?」
運上「逃げねーよ」
★運上が果物ナイフを握りしめてカウンターから出てくる
秋吉「何するッスか!」
運上「決まってるだろ。離さなかったら、グッてするんだよ!」
★ナイフを構える運上。秋吉がたじろぐ
秋吉「ア、アンタ正気か!?そんな事したら刑務所行きだぞ!」
運上「さぁ、それはどうかな。正当防衛だって言えば、罪には問われないからね!」
秋吉「バカ言うなよっ、そんなの俺たちが証言したらウソだってバレるだろうが!」
運上「どうかなぁ〜。チンピラなアンタたちの証言と学生の私の証言、警察はどっちを信じるだろうねぇ。なんならけてみようか?!ヒヒヒッ」
不敵ふてきな笑みを浮かべる運上
秋吉「おまえ正気しょうきか!?」
運上「もちろんさ!おでぃ、すぐそこの交番に直接電話しな!5分も掛からず飛んでくるよ!」
★小田がスマホを手に取り電話を掛け、コール音がひびく。運上が左足を一歩前へ踏み出し半身になり、ナイフを握った手を引いていつでもグッと突き出せる体勢でビタッと構え、一方で豊永がカメラを手にいつでもシャッターが切れる臨戦態勢で構える。カウンターの前では地頭江と伊藤が腰掛けたままじっと動かずにいる
運上「さあどうすんのさ!やり合うなら受けて立つよ!このナイフなら死にはしないけど、服が真っ赤に染まるくらいは血が出るさ。さぞかし痛いだろうねぇ〜。ヒヒヒッ」
★運上が思いっきり引きつった笑顔で松岡を見る
秋吉「社長、取り合えず引き上げましょう、こいつらヤバイっす」
松岡「そうね。フンッ、仕方ないから、今日のところは帰ってあげるわよ。でも勘違いしないでよ、諦めて帰る訳じゃないからね!」
★振り返った松岡の背中に、店長の松本が声を掛ける
松本「もう来んでええでー」
松岡「うるさいわね、絶対また来てやるわよ!」
松本「ほな、もっと明るい時に来てやー」
松岡「アタシに指図さしずする気?!いい度胸してるじゃない。アンタ、次会った時は覚えときなさいよっ!」
★息巻いて出ていく松岡、あとに続く秋吉。二人の姿が消えるのを見届けてから、運上が構えていたナイフをカウンターに返す
運上「ありがとうございました、助かりました」
松本「あ、いやいや、こっちこそ助かったわ」
★運上が振り返って大きく息を吐く
運上「あ〜良かった、上手うまく出来た♡」
小田「普段からやっといてよかったね」
★運上と小田が駆け寄り微笑み合う。それを見て地頭江と伊藤がキョトンと顔を見合わせる
全員「え?えっ???」
地頭江「どういう事?」
★地頭江が混乱した顔で運上に近寄る。みんなも席を立って寄って来る
運上「エヘッ。私たち、普段から色んな役になりきって演技して遊んでたんです。さっきみたいなヤンキーとか」
地頭江「じゃあ今の、演技だったの?」
運上「そうですよ〜。普段わたし、あんな言葉使いしませんよ〜」
地頭江「そ、そうか、演技だったのか」
★信じられない様子の地頭江の横に伊藤が寄る
伊藤「そうよね。全然イメージ無いもん、びっくりしちゃった」
美久「にしても、いい度胸してんな!」
運上「みんなが居てくれたからね。何かあったら助けてくれるかなって。驚かせてゴメンナサイ。でも、うまくいったでしょ?」
美久「うん、助かったー。ありがとう」
運上「どう致しまして」
女将おかみのように丁寧ていねいに頭を下げる運上
伊桜莉「あの、さっきから気になってたんですけど、電話つながってませんか?声聞こえますけど」
小田「あ、ホントだ」
松本「なんや、ずっとつながっとったんか?マズイんちゃうか?」
★小田がスマホを耳に当てる
小田「もしもし、もしもしー?」
★フツーに電話の向こうに問いかける小田
小田「もしもし、あ、良かった気づいてくれた。あ、いや違うとって。ちょっと掛けてみただけなんよ。うんそう、なんもないと。うん、ゴメンって」
終始しゅうし軽い口調の小田
松本「その言い方はアカンで」
かまわず小田が続ける
小田「うん。そう。なんもないと。…もう〜、やけんゴメンって言いようやん、お父さん」
松本「オトンやったんかいっ」
★コケるみんな
小田「うん、やけん別になんもないとって。え?いいっていいって、お金送らんでいいってば、もう〜」
★スマホに微笑みかける小田
松本「あ〜、親心やなぁ。ええオトンやないかぁ〜」
小田「うん、元気にしとるけん心配せんでいいよ、じゃあまた掛けるね」
★小田が電話を切りスマホをしまう
小田「お騒がせしましたぁ」
松本「ええオトンやないか〜、アンタの事が心配なんやで。大切にしぃや」
小田「はい。えっと、私も、あなたの事が心配なんですけど」
松本「え?ウチの事が?なんで?」
小田「えっと、さっきの怖い人たちあなたに、次会った時は覚えとけよって啖呵たんか切ってませんでしたか?」
松本「あ、そやな、確かにそんなん言っとったわ」
小田「ですよね。なんか、結構イライラして出て行ったみたいだったんで、心配だなぁって思って」
松本「あ〜、確かにそうやな。う〜ん、しもたなぁ〜、もう来んでええでなんて、いらん事言わんかったら良かったわ。アイツら絶対また来よるでぇ」
小田「私たちがいない時に来て、因縁いんねんつけてきたら、どうしますぅ?」
松本「どないしょ〜」
★頭を抱える松本
下野「警備会社に入ってないの?」
松本「入ってますけど、閉店後になんかあった時の為やから」
運上「営業中もここに警備員さんが居てくれるように頼めないんですか?」
松本「そんな金あれへんわ〜」
★松本が首を振ると、市村がハイッと手を挙げ猫耳を揺らしながら寄って来る
市村「定点カメラ付けたらどうかな?」
松本「定点カメラ?」
市村「そう。定点カメラで店内をLive配信しちゃえば、全世界が目撃者になるから下手なことは出来ないと思うけど?」
★松本が手をポンと叩く
松本「それええな!」
市村「でもガラガラの店内も映っちゃうから、お客が全然入ってないのもバレちゃうけど」
松本「そらアカンわぁ」
★肩を落とす松本に、市村が早口で切り返す
市村「でも大丈夫。私ライバーやってるからここからLive配信してあげるよ。これでも私毎日配信1000日超えてちょっとは知られたライバーなんだから。フォロワーさんがこのお店の事をつぶやけば拡散されてどんどん広がってイイ宣伝になると思うな」
松本「それええな!」
伊桜莉「でも、カメラとかパソコンとかそろえたら、それなりにお金が掛かるんじゃないかしら」
松本「そらアカンわぁ」
市村「心配しないで。使ってない機材、丸々タダで貸してあげるから」
松本「それええな!」
市村「その代わり、お好み焼きタダで食べさせてぇ〜」
松本「そらアカンわぁ」
市村「えー」
松本「冗談やって。ええでええで。いつ食べに来てもタダにするで」
市村「やった♡」
松本「交渉成立やな」
市村「じゃあ、明日のお昼のひまな時間にセッティングするって事でいい?」
松本「ええで。任せるわ」
市村「わかった。そうだ、わかにゃん、一緒に手伝ってくれない?」
村上「いいよ〜」
市村「じゃあ明日のお昼、二人で来るね」
松本「お昼やな。ほな、頼むわ」
★下野がセンターに出てきて観客席の方を向く
下野「じゃあ、一息ついたところで、次のシーン行ってみようー!」
★暗転、全員集合のオープニングのBGMが流れる
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★明転。お好み焼き屋のカウンターの中で、一人ソワソワしている松本
松本「ハァ〜、今あいつら来たらどないしょ〜。心配やわ〜」
市村「こんちわ~、おまたせ〜」
★猫耳の市村とうさ耳フードの村上が、大きなバッグの持ち手を左右から片方ずつ持って入って来る
松本「良かった、待っとったでー」
市村「待っててくれたんだ」
★二人がバッグをカウンターの足元に置き、長辺の左端に市村、その右隣に村上が、ちょっと半身になって向き合うように座る
市村「じゃあ、最初は豚玉からね」
松本「え?」
市村「忘れたの?昨日いつでもタダで食べさせてくれるって言ったじゃん」
松本「ぁあ、言うたけど、いきなり?」
市村「うん。あ〜、お腹減ってるとなんにも作業する気が起きないな〜」
松本「わかったわかった、しゃあないなぁ。二人とも豚玉でええか?」
村上「あ、私はいらないよ。こんな炭水化物のかたまり食べたら太っちゃうし。それにこのお店、そんな余裕ないでしょ」
松本「そうやねん。そうしてくれると助かるわ〜。ほな、一人分だけやな」
★松本が背を向け準備を整え、こっちを振り返って抱えたボウルをかき混ぜる仕草をする
??「邪魔するでー」
★入口の奥から声だけが聞こえて来る
松本「うわっ!」
★とっさにしゃがんで隠れる松本。入口からお巡りさんの坂口が現れる
坂口「あれ、店長おらんと?」
市村「居ますよ。ここに隠れてますよ」
松本「言うたらアカン!」
市村「大丈夫だって。ほら、出ておいでよ」
★松本がカウンターから顔を出す
松本「なんや、お巡りさんやないですか〜。驚かさんといて下さい」
坂口「え?何も驚かしてないけど?」
松本「いやいや、なんで入ってくる時、『邪魔するでー』って言うたんですかぁ」
坂口「え?だって基本じゃないと?『邪魔するでー、邪魔するんやったら帰ってやー』ってやり取り」
松本「そんなんテレビの見過ぎですわぁ」
坂口「そう?で、なんでそんなにビビっとうと?」
松本「てっきり、仕返しに来たんかと思うて」
坂口「仕返し?」
松本「そうです、聞いてくださいよ〜。昨日コワモテの二人組が来て、ウチがいらん事言うて怒らせてしもて。次会った時は覚えとけよ!って言われて、いつ来るかいつ来るか心配で…」
坂口「そっかー。じゃあちょっと長めにここに居てあげようかな」
松本「ホンマですか?」
坂口「ええ。巡回も増やすように言っとくね」
松本「さすがやわ〜、頼りになります〜」
坂口「じゃあ、持ち帰りで山芋豚玉ひとつちょうだい」
松本「ありがとうございます、ちょっと待っとって下さい」
★ボウルをかき混ぜる仕草をする松本が、市村に声を掛ける
松本「お巡りさんの分を先にしてもええ?」
市村「いいよ」
松本「ありがとうな」
★坂口がカウンターに手をつき身を乗り出す
坂口「ねえ、お手洗い貸してくれる?」
松本「あ、トイレですか?あっちの奥にありますよ」
下手しもての奥を指差す松本
坂口「奥ね、ありがとう。ちょっと借りるねー」
松本「ウンコですか?」
坂口「ちがうっ!」
★坂口が下手奥しもておくに消える
市村「良かったね、強い味方が現れて」
松本「ホンマやわ〜。やっぱ、普段から手ぇ抜いたりらくしたりせんと真面目に仕事しとったら、神様は助けてくれるんやな。あ、山芋すり下ろすの手伝ってくれへん?」
市村「言ったそばかららくしようとしてんじゃん!」
松本「バレたぁ?」
市村「バレるに決まってるじゃん。ダメだって」
村上「いいじゃん手伝ってやんなよ。タダで食べさせてもらうんだからさ」
市村「えぇー」
村上「いいじゃん。そうだ、なんなら焼くのもセルフでやったら?ねぇ、店長さん」
松本「そら助かるわ〜」
村上「決まりね」
松本「決まりやな」
市村「えーっ、ちょっと、勝手に決めないでよ」
村上「いいじゃん、タダで食べさせてもらうんだからさ。苦しいお店に少しでも負担かけないように、自分で食べる分は自分で焼いてもいいでしょ。そういうスタイルのお店もあるんだしさ」
市村「えー、焼いてもらってもいいじゃん。私食べるだけがいいよ〜」
村上「ふ〜ん、料理できないんだ」
市村「そんな事ないけど」
村上「じゃあいいじゃん。まずは山芋すり下ろすのからね。店長さん、山芋とボウル貸してくれる?」
松本「あいよ」
★ボウルを差し出す松本。村上が受け取り、市村に押し付ける
市村「ちょっとちょっと、私は山芋頼んでないもん。私やらないよ」
★ボウルを押し返す市村
村上「いいじゃん、練習がてら」
市村「嫌だって」
村上「いいじゃん」
市村「嫌だって」
村上「いいじゃんか」
市村「嫌だってば」
村上「強情ごうじょうねっ」
市村「どっちが、よっ」
★ボウルを押し付けあう村上と市村。それを見ながらボウルを混ぜる松本。松岡と秋吉が入って来ても気づかない
松岡「何やってんの?」
松本「うわっ!来よった!」
★ビクッと驚く松本とバッと振り向く市村と村上
松岡「あらあらずいぶんなお出迎えね」
秋吉「あっ社長、かぶり物したコイツら、昨日も居たッスよ」
松岡「そうね、覚えてるわ。あら、その大きな荷物は何?二人で家出?」
★足元に置いてあるバッグを指差す松岡
市村「いえ、Live配信の機材です」
松岡「Live配信?」
松本「そやで。これから店内を生配信し始めるから、もう下手へたな事は出来へんで」
松岡「あらそう。だったら、やるなら今のうちねぇ」
松本「え?」
★動揺する松本に松岡がカウンターをバンッと叩いてせま
松岡「アンタ!さっき私に気づいた時、嫌そうな顔したよね?」
松本「え?そうですかぁ?」
松岡「ちょっと出て来て」
★松岡が手招きをして松本をカウンターの外に呼び出し、松本をカウンターの短辺を背に立たせて、怒りを抑えた声を出す
松岡「昨日からず〜いぶんと、めたことしてくれるじゃない。アンタ、あたしらの事、客だと思ってないよね?」
松本「そ、そんな事ないですよ」
松岡「だったら、『いらっしゃいませ』はどうしたのよ」
松本「あ、いらっしゃいませ」
松岡「そんなんじゃ納得いかないわねぇ。もう一回ちゃんとやって」
松本「いらっしゃいませ」
松岡「笑顔が足りない。もう一回やり直し」
松本「いらっしゃいませ」
松岡「声が小さい!やり直し!」
松本「いらっしゃいませー!」
★松本と向かい合う松岡の後ろに、トイレから出てきた坂口が手を腰に当てながら近寄る
松岡「そうそう、最初からそうすりゃいーんだよ。ったく、こっちが大人しくしてるからってめたまねすんじゃねーぞコラ。一発くらしたろか、ぁあ〜?」
★松岡が松本の胸ぐらをつかみカウンターに押し付ける。同時に、坂口に気づいた秋吉が松岡の肩を叩く
秋吉「社長、」
松岡「うるさい黙ってて」
秋吉「社長、」
松岡「いいから黙ってて」
秋吉「社長、」
松岡「何よさっきから、」
★振り向いた松岡が、仁王立におうだちの警察官の坂口を見てパッとつかんでいた手を離し、クルッと向き直る
松岡「あらやだアタシったら、はしたない事しちゃった、テヘッ」
★おでこをペチッと叩く松岡
坂口「あのね、今さら可愛い子ぶっても無駄なのよ。全部見てたんだから」
松岡「あら〜、全部見てたんですかぁ?あのでも、あたし、別に何も悪い事してませんよねえ?」
坂口「どこがよ。言葉でおどすのは脅迫罪きょうはくざい、胸ぐらをつかんだのは暴行罪、挨拶あいさつ無理強むりじいさせたのは強要罪きょうようざい、そんな態度でここに居るだけで威力業務妨害罪いりょくぎょうむぼうがいざいになるわね。ちょっと、私と一緒に交番まで来てもらえるかしら?」
松岡「ハ、ハイハイ、もちろんです!」
坂口「じゃあ、持ち帰りのお好み焼きが出来るまで、そこで二人とも待っててもらえるかな?」
松岡&秋吉「ハイ、喜んで!」
★カウンターの長辺の右側(入口から遠い側)に並んで立つ二人。坂口がカウンター短辺の手前の席に座り見守る
坂口「日向ちゃん、ゆっくり焼いていいからね」
松本「はい、任せとってくださぁい」
★お好み焼きを焼くジューッというSE音が入る。松本が焼いていると美久と伊桜莉が入って来る
美久「ゲッ、アイツらまた来てる!」
伊桜莉「でもおまわりさんも居るよ」
★一瞬立ち止まるが、坂口を見つけ駆け寄る
美久「おまわりさ〜ん!」
伊桜莉「何かあったんですか?」
★坂口が観客席側に体の正面を向けるように座り直す
坂口「うん、ちょっとね。大丈夫よ、お好み焼き出来たら、この人たちも一緒に交番に連れて行くから安心して」
伊桜莉「良かった」
美久「ねぇねぇおまわりさん聞いてくださいよ〜、この人たち、昨日ウチらに暴力振るっておどしてきたんですよ〜」
坂口「え?」
伊桜莉「母がこの人たちから借金してるんですけど、逃げて居場所がわからないからって、私のえりつかんで揺さぶって、母を探してここに連れて来いっておどしてきたんです」
坂口「ちょっと待って、情報が多いから整理させて。まず、あなたたちのお母さん、居場所がわからないの?」
伊桜莉「ハイ。置き手紙を残して家を出て行ったんです。男の人が出来たみたいで」
坂口「あらそうなの〜。男女の事だったら警察はどうしようもないけど、捜索願そうさくねがいを出すなら交番に来てね」
伊桜莉「はい」
坂口「で、そのお母さんがこっちの二人から借金してるのね?」
伊桜莉「はい」
★坂口が立ち上がってカウンター右側の松岡と秋吉に歩み寄る
坂口「で、居場所がわからないから探して連れて来いって、アンタたちがおどしたって事ね?それホントなのね?」
秋吉「あ、いやその、お嬢ちゃんたちの母親が俺たちから借金してるってのは、本当ッスけど」
坂口「だからそのあとの、連れて来いっておどしたのは本当の事なのね?」
松岡「いや、そんな事は…」
坂口「あるようね」
秋吉「でも、それを言うならお互い様っすよ」
坂口「え?どういう事?」
秋吉「俺たちだって、ここに居たイカれた客にナイフ突きつけられて、刺すぞ、こっちは正当防衛だって言えば罪にならないんだ、俺たちがウソだって証言しても警察は信じないぞって、おどされたッスよ」
★訴える秋吉に、坂口が両手を腰に当ててさと
坂口「それは、あなたたちが先にこの子たちを暴力でおどしたから、助けるために売り言葉に買い言葉で言ったんじゃないの?違う?」
秋吉「あ、いや、どうッスかね…」
坂口「そうでしょ。そもそも、あなたたちがそんな風に暴力的に振る舞ってるからそんな事になるのよ。借りた方だって逃げ出したくなるんじゃないの?ま、民事不介入みんじふかいにゅうだから借金の件には警察は踏み込めないけど、昨日この子たちに暴力を振るっておどしたって件は、後でタップリ時間を掛けてしぼらせてもらうわよ」
松岡「ハイ…」
松本「出来たでー」
★松本がお好み焼きを入れた紙箱をビニール袋に入れて手渡す
坂口「じゃあ行きましょうか。念のため言っとくけど、逃げない方が身のためよ。分かってるわよね」
松岡「ハイ…」
★坂口が松岡と秋吉の背中を押すように入口へ歩き、ウインクを残して出ていく
松本「は〜、ビビったわ」
美久「ヨッシャ、これでアイツら、ここには来づらくなったよね!ざまあみろっ!」
伊桜莉「後は定点カメラが付けば完璧ですね」
松本「そやな。グッと気が楽になるわ〜」
市村「じゃあさ、カメラ取り付けの手間賃で1枚焼いてよ、ね?」
松本「ええで。1枚焼いたるわ」
市村「やった♡」
村上「まったく、おねだり上手なんだから」
伊桜莉「ねえ美久ちゃん、家に居るより、ここに居た方が安心かもよ」
美久「そうかもな。なぁ、閉店までここに居てもいいよな?」
松本「ええで」
美久「ヨッシャー。あ〜、安心したらお腹減ってきちゃったよ。ちょっとおやつに食べよかな。店長ー、山芋鉄板焼ひとつ!」
松本「あいよ〜。待っとってやー」
伊桜莉「それじゃあ一息ついたところで、次のシーンに行きますね〜」
★暗転、全員集合のオープニングのBGMが流れる
19810919

★明転。カウンターの中に松本、テーブルに美久と伊桜莉。生徒たちの内、まず栗山を先頭に坂本、長野、村上、市村が連なって入口に来る
栗山「ねぇ、Live配信中って張り紙があるよ」
坂本「あ〜、昨日言ってたやつかなぁ」
市村「うんそう。入って正面にカメラがあるよ。あと奥の方の斜め上にもね」
長野「ホントだ。じゃあ今、映ってるんだ」
村上「そっか、カメラ映り気にしないといけないね」
市村「うん。あとね、Wi−Fiも使えるようになったから」
坂本「ホントだぁ〜、Wi−Fi飛んでるぅ」
村上「カズレーザーかっ!」
栗山「ハハッ、りのちゃんには見えてるのかもよ」
全員「あー、確かに」
★生徒たちがテーブル席の方へ入って行き、最後に本村と下野が入口で立ち止まる
本村「Live配信中だって。どうする、世界中から見られてるよ私たち」
下野「いいじゃん。いいとこ見せればウチの生徒も増えるかもよ!」
★先に入った生徒たちが昨日と同じ席についた後、下野が右手を真っ直ぐ上げ正面を向いて入って来る
下野「オイッスー!」
全員「オーーッ!」
★下野が下手の花道の方まで歩いて行く
下野「声が小さーい。もういっちょ、オイッスー!」
全員「オーーッ!」
下野「よくできましたぁー」
★拍手をしながらセンターへ歩く下野に、本村が歩み寄る
本村「何やってんの?このネタ、全員集合世代じゃないとわからんって」
おいっすー!もういっちょ、おいっすー!集
下野「いいじゃん、その世代のファンが多いっちゃけん、大事にせんとさ」
★松本がメモを片手に歩み寄る
松本「注文は決まってますかぁ?」
下野「うん、決まってるよ。メモ貸して、書いてあげるよ」
松本「え〜、口で言って下さいよ〜。ウチがボケられへんやないですか」
下野「あのね、私を前フリにしないでよ」
松本「ええやないですかぁ。ウチの見せ場を取らんといて下さい。それともアレですか、メニューの長セリフ覚えられへんのですか?」
下野「そんな事ないよ。日向よりは記憶力あるって」
松本「そうですかぁ?なんなら勝負してみますかぁ?」
下野「いいけど、どうやって?」
松本「そう言われると困りますけどぉ」
★そこで二人の前に本村が出てくる
本村「は〜い、じゃあここでゲームをしまーす!」
下野&松本「ゲームぅ?」
本村「うん。題して、注文メニュー記憶力チャレンジ〜!」
★本村が拍手をあおる
下野「どうすると?」
本村「これからみんなにアドリブで注文メニューを順番に言ってもらいます。それを日向と由貴ちゃんのどちらが多く覚えられるかを競ってもらいま〜す。そして〜、負けた方には罰ゲームぅ〜」
★本村が、市村が持ってきてカウンターの横に置いておいたバッグの中からハリセンを取り出す
本村「負けた方はこのハリセンでお尻を引っぱたかれちゃいま〜す!」
松本「え〜」
下野「いつの間に用意したのよ」
本村「エヘヘ〜」
★笑ってごまかす本村
本村「じゃあ行くよ!まずアタシからメニュー言うね」
★以下、アドリブでメニューを言い(それらしい空想のメニューでもいい)、下野と松本が先攻後攻をじゃんけんで決めて覚えたメニューを言い、より多く言えた方が勝ち、少なかった方が負け。
本村「じゃあ負けた方は罰ゲームね。真ん中に出て来て〜」
★負けた方がセンターに出て来て、横に本村がハリセンを持って立つ
本村「じゃあ行くよ!ミュージック、スタート!」
★チェッカーズ「ワンナイトジゴロ」が流れ始め、歌い出しの「キル・ユー」で曲が止まり、同時に本村がハリセンでパーンッ!とお尻をひっぱたく とんねるず チェッカーズ ワンナイトジゴロ Kill you スリッパ まとめ 追補版
★リアクションを見て盛り上がった後、本村がセンターに出て観客席を向く(おそらく日向が負けるでしょう。いや、意外と日向が勝つのか?はてさてどうなる!?)
本村「は〜い、今回のゲームの結果はこうなりました〜。次回をお楽しみに〜」
松本「次回があるんや」
下野「じゃあみんな席について〜。劇に戻るよ〜」
全員「は〜い」
★全員が席についた後、松本がボウルを2つ持って左テーブルに行く
松本「ほな、あいちーは自分で焼いてや」
市村「あ、そっか」
★市村の前にボウルを一つ置く
坂本「えっ!?自分で焼くのぉ?焼いてくれないのぉ?」
松本「あいちーだけな。タダにするから自分で焼いてや、って決めてん」
栗山「だったら私も自分で焼くよ。人数が多いけんその方が早いし」
松本「ホンマ?助かるわ〜。ほなこれ、任せるわ」
★松本が栗山の前にボウルを置く
伊藤「じゃあ私も!」
長野「私も〜」
★以下続々と手を上げる
松本「よっしゃ、そしたらみんなお好みのタネ、カウンターに取りに来てや〜」
★松本がカウンターの中に戻りボウルを並べ、みんながカウンターの周りを取り囲んで順番に受け取って席へ向かう
坂本「私うまく焼けるかなぁ〜」
長野「心配なら、梨奈ちゃんに頼めば焼いてくれるんじゃない?」
坂本「梨奈ちゃん、私のも焼いてくれるぅ?」
栗山「いいよ〜焼いたげるよ〜」
坂本「ありがとう〜」
★坂本がボウルを手にテテテッと栗山の元へ走っていく。みんなもそれぞれ席に着いて、お好みを焼く仕草をして(コテは無いので手振りだけエアーで)、お好み焼きを焼くジューッというSE音が入る。
松本「おぉ、こりゃあラクでええな。今度から大勢おおぜい来た時はこうしよ〜」
★伸びをする松本
美久「だったら、そのかわり値引きするんだぞ」
松本「えー、そんなん困るわぁ。お客さん入ってへんのに、値引きやなんてこくなコト言わんといて〜。ウチ休み無しで働かなアカンくなるやんか〜」
★ガックリと肩を落とす松本
美久「わかった、わかったよ言わねーよ」
松本「そうか?そしたら推しのライブに行く回数減らさんで済むわ〜」
美久「ったく、しょうがねえヤツだな!」
伊桜莉「いいじゃない。この店の売上が、回り回って家賃として私たちの元に入ってくるんだから」
美久「そっか。さすがだな、一番しっかりした考えしてんな!」
★それを聞いてニヤッと微笑む伊桜莉。松本が、思い出したようにポンッと手を叩く
松本「そや、手がいたから、ここで一曲歌わせてもらうわ。Wi−Fiでスマホのカラオケ使えるようになったしな」
★松本がスマホを取り出し選曲する
松本「これやな」
★松本がスマホを片手に持ちセンターへ出てくる
★イントロが流れ始め、松本が口上を述べる
松本「関西が生んだ演歌の歌姫、天童よしみさんの50周年記念曲です。上手くはないかもしれへんけど、一生懸命、魂込めて歌います。聞いたってください」
★マイクのように持ったスマホで歌詞を見ながら歌う松本(お好みを焼くSE音は消える)

M04 「あなたに咲いた花だから」天童よしみ
【新曲】あなたに咲いた花だから天童よしみオリジナル

   ソロ:松本

★曲が終わった所で、運上が立ち上がる
運上「すみません、お手洗いどこですか?」
松本「あぁ、あっちの奥にあるで」
運上「あっちですね。あの、ちなみに洋式ですよね?」
松本「そやで。女子専用と男女兼用と二つあるから、女子専用の方が綺麗きれいやと思うわ」
運上「わかりました、助かります」
松本「なんや、ウンコか?」
運上「ち、違いますっ!」
松本「怪しいな。ま、ええわ。ゆっくり行ってき〜や」
★運上が下手しもて奥に消え、松本がカウンターに戻る
小田「あのっ、店長さん!私も歌っていいですか〜!」
★サッと手を上げる小田
松本「おぉ、ええで。歌うの好きなんか?」
小田「ぁいや、なっぴが戻って来るまで歌って待っててあげようかなって思って。誰か一緒にどう?」
★小田がテーブルの前に出てみんなに声を掛けると、豊永、地頭江、伊藤が手を上げる
三人「いいよ」
小田「なに歌う?」
★小田がスマホを差し出し、三人も立ち上がってのぞき込む
豊永「世代に関係なくわかる曲がいいよね」
小田「TikTalkで再ブレークした曲とか?」
地頭江「じゃあ、これいいと思わん?」
三人「いいね」
うなずいて前に出てくる(みんながスマホをマイクのように持ち歌詞を見ながら歌い踊る)

M05 「ギザギザハートの子守唄」チェッカーズ
1984 チェッカーズ ギザギザハートの子守唄

伊藤  地頭江  豊永  小田

★四人が歌い終えテーブルに戻ると、入口から坂口が駆け込んで来る
坂口「ゴメン、ちょっとトイレ貸して!」
松本「あー、さっき一人入ったから、男女兼用しかいてないと思いますけど、ええですか?」
坂口「いいよいいよ、じゃあ借りるね」
松本「あ、ひょっとして〜、」
坂口「ウンコよっ!」
★振り向いて力を込めた声を上げる坂口
松本「そうですか。ごゆっくり」
★坂口が下手しもて奥に消える。松本がみんなを見回す
松本「他に歌う人おる〜?」
栗山「じゃあ、私たちも一緒に歌わない?」
市村・坂本・長野・村上「いいよ〜」
栗山「じゃあ歌いま〜す!」
★5人が立ち上がり、栗山が差し出したスマホの画面をみんなで覗き込む
栗山「何がいい?」
坂本「明るい曲がいいなぁ〜」
長野「最近じゃない曲の方が歌いやすいよね」
市村「これがいいんじゃない?」
村上「いいね。見てるファンの世代はこういうの好きだよ絶対」
栗山「じゃあこれね」
★五人が前に出てくる(スマホをマイクのように持ち歌詞を見ながら歌い踊る)

M06 「MajiでKoiする5秒前」広末涼子
広末涼子「MajiでKoiする5秒前」

★歌い出しのカウントは坂本のソロ

市村  栗山  坂本  長野  村上

★五人が歌い終えテーブルに戻ると、入口に松岡と秋吉が現れる
秋吉「こんばんわ~」
松岡「邪魔するわよ」
★松岡がスマホ片手に入って来る
松本「いらっしゃーい」
松岡「どうも。昼間はお世話になったわね」
★ぶっきらぼうに返す松岡。秋吉がテーブル席に目を配り、いている運上の席に気付く
松本「世話したつもりは無いけどな。どっちかって言うとされた方やわ」
松岡「言ってくれるじゃない。アンタ、ずいぶん強気じゃないの」
松本「そらそや。なんかしたらまた警察にしぼられるで。もうカメラで配信もしてるしな」
松岡「あらそう。アンタ、アタシがカメラにビビるとでも思ってるの?」
松本「え?ビビらへんのか?世界中に配信されてるんやで?」
松岡「そうよ。だからビビるのはそっちの方よ」
松本「え?なんでや」
松岡「なんでって、今アタシたちがここに居る姿も配信されてしまうんでしょう?あ〜、この店にはこういう人たちが来るんだって、世界中に知られるわけよね。さあ、果たしてどのくらいの人が、アタシらが居るこんな物騒な店に来る度胸があるかしらねぇ?」
★言われた松本がハッと固まる
松本「あぁ、ホンマやわ」
★肩を落とす松本
松岡「あらあら〜、さっきの勢いはどうしたの〜。可哀想かわいそうに、アタシたちをめるからこういう事になるのよ〜。わかった〜」
★カウンターから身を乗り出し顔をグッと近寄せる松岡。その時トイレを流す音が聞こえ、秋吉が松岡の肩を叩く
秋吉「社長、そのくらいで」
松岡「そうね。ほら、さっさと注文聞いたらどうなのよ。心配しないで、長く居座る気はないし、その必要もないからね。配信ってホント便利よねぇ」
★松岡がカウンターの短辺の奥側の高めの丸イスに手を掛ける
松岡「この高いイス、座りづらいから嫌いなのよ」
★座ろうとした松岡の後ろに、下手しもて奥から出てきた運上がせま
運上「だったら、座らないで出て行ったらどうなのさ!」
★その声に松岡が振り向く
松岡「またアンタなの!しつこいねっ、またナイフを持ち出したりするんじゃないだろうね!」
運上「だったら、持ち出される前にとっとと出ていきな!」
★両手を腰に当て胸を張る運上。
松岡「フンッ、出ていきゃしないよ。アタシらだってこの店の客だからね」
運上「客?よく言えたもんだね。昨日あれだけ暴力振るって迷惑かけといて、今日になったら客だなんて認められるわけねーだろ!そもそもあやまったらどうなんだよ昨日のことをさ!」
★運上が人差し指を立てながら松岡にせまる。後ろから、トイレから戻ってきた坂口がゆっくり歩み寄ってくる
松岡「あやまれだぁ?…アタシに、あやまって欲しいって、そう言いたいのか?」
★松岡が運上から目線を外し、語尾を弱めて言う
運上「そうさ!客として認めて欲しかったら、まずは土下座して謝りな。話はそれからさ!ほらやってみろよ!」
松岡「…」
運上「なんだ出来ねーのか。だったら出てけよ!じゃねーとグッてしちまうぞ!おい聞いてんのかコラッ!」
★食って掛かる勢いの運上。小田がイスから腰を上げ声を掛ける
小田「なっぴ、後ろ、後ろー!」
運上「ん、どうしたのさ」
★振り返る運上。坂口が仁王立におうだちで立っている
運上「キャッ!」
途端とたん内股うちまたになって腰砕こしくだけになる運上
坂口「キャッ、じゃないわよ。あなた、ちょっとやりすぎよ」
運上「え、え、やりすぎ、ですか?」
坂口「そうよ。全くしょうがないわね…」
★坂口が眉間みけんをポリポリと
坂口「まずそっちの二人、もういいわ。帰ってもらえるかしら」
松岡&秋吉「ハ、ハイッ!」
★そそくさと出ていく二人
坂口「で、あなただけどさ。やけに威勢いせいのいい言葉並べてたけど、どういう訳なの?そんな事言う風には見えないんだけど」
運上「あ、はい、普段から私たち、色んな役になりきって演技して遊んでたんです」
坂口「私たち、って事は他にもいるの?誰?」
小田「はい、私です」
坂口「じゃああなたもこっちに来て。あ、丸イスも二つ持ってきて」
★坂口がそう言ってカウンターの短辺の手前の高めの丸イスに、カウンターを背にして二人の方を向いて腰掛ける。丸イスを持って来た小田が運上と並んで坂口の方を向いて座る
坂口「まず、今あなたがやった事だけど、立派な犯罪なのよ」
運上「えっ?」
坂口「あなたが言った、グッてするぞ、は脅迫罪きょうはくざい。2年以下の懲役ちょうえきか30万円以下の罰金。そして脅迫きょうはくして土下座をさせたら強要罪きょうようざい。これは3年以下の懲役刑ちょうえきけいのみになるわ。まあ今回は実際に土下座にまでは至らなかったから強要罪きょうようざいは成立しないけど、脅迫罪きょうはくざいは成立するのよ。それくらいの事をあなたはやってたのよ、わかる?」
運上「…はい」
★すっかりシュンとしている運上
坂口「それから、さっき出ていった二人が言ってたんだけど、昨日あなた、ナイフを突きつけて二人をおどしたんだって?それ本当なの?」
運上「…はい、本当です」
坂口「まったく。なんでそんなアブナイ事したのよっ。あの二人がまだ常識があっておとなしく引き下がってくれたからよかったけど、もっと怖い人だったら反撃されてひどい目にあってたかもしれないのよ。そこまで考えてたのっ?」
運上「…いいえ」
坂口「ナイフをうばわれて逆に刺されたりしたら、あなたの体に傷が付いたかもしれないのよ。せっかくお母さんが産んでくれた綺麗きれいな体なのに、刺された傷なんて付いたら、お母さんがどれだけ悲しむと思ってるのっ。お母さんはね、十月十日とつきとおかもの間あなたの成長をお腹で感じながら、今日は動いた、あっ今、お腹をったよパパ、あなたに似て活発な子かもね、でも顔は私に似て欲しいわ、じゃないとモテなくて困るもの、えっ、『モテんでいい』ですって?どうしてよ、『だっておまえ嫁に行ったら寂しくなるだろ』って?んもうそんな心配をするのは早いわよ、『いや早すぎることはないぞ』って?もうしょうがない人ねぇ、『いいや俺は絶対嫁にはやらん』何言ってるのよ親バカなんだからぁ『挨拶あいさつに来た男は追い返してやる』そんな意地悪言わないの『いやおまえしょうがないだろ、男親ってのは昔からな、娘のためなら死ねる覚悟で、それはそれは娘の事を愛おしく思いながらな…」
★坂口のお説教にエンジンが掛かって来たところで、ゆっくり暗転していき、坂口の声もフェードアウトする

★暗闇で無音のまま時間を置いて、明転。右テーブルだけに生徒が居て、右手前に地頭江、右奥に顔をせるほどうつむいた運上、左手前に豊永、左奥にちょっとうつむいた小田が座っていて、地頭江と運上の後ろに伊藤が丸椅子を持ってきて寄り添うように座り、地頭江と豊永がうつむく二人をなだめている
地頭江「ほら、いつまでもせってないで元気出しな」
豊永「そうそう。お巡りさんもお説教だけで許してくれたんやけん、良かったやん」
運上&小田「…」
豊永「取り敢えずさ、お好み焼き残ってるけん食べたら?お腹空いとうやろ?」
小田「うん」
地頭江「さ、食べな食べな。なっぴも、ほら」
運上「…うん」
★運上と小田が手を口へ運び始める。しばらくして松本がカウンターからやって来る
松本「もう閉店の時間やねん。閉めるで」
地頭江「まだ二人が食ってる途中でしょうが!」
★松本を手で押しのける地頭江。
【北の国から名場面】子供がまだ食ってる途中でしょうがっ! 田中邦衛さん
★同時に、さだまさし「北の国から〜遥かなる大地より〜」が流れ始める
北の国から-遙かなる大地より~螢のテーマ
★暗転して小田を中心にスポットライトが当たる
小田「…母さん。僕は今日、初めてお巡りさんのお世話になってしまったわけで。…なっぴと軽い気持ちで始めた遊びを、ひどくとがめられてしまったわけで。…母さん、こんな僕を、母さんは許してくれますか?…母さん、僕は今、とっても母さんに会いたいです。母さん…」
★曲がしばらく流れた後、余韻よいんを残しながらフェードアウトし、明転
豊永「あ、戻った」
★天井を見上げる豊永
地頭江「ま、お巡りさんが言った通り、アイツらが大人しく引き下がってくれて良かったよ。これから何してくんのか読めなくて不安だけどさ」
小田「…ひょっとして、仕返しされたりするかな?」
運上「えっ」
★ピクッと食べる手を止める運上
地頭江「アイツらが何者なのか、それ次第じゃないかなー」
★それを聞いた豊永が身を乗り出す
豊永「それ、ちょっと調べようって思ってるんよね」
★その言葉に4人がバッと顔を向ける
地頭江「え?」
豊永「あんな、いかにも昭和な格好で借金を取立ててるなんて今時ないから、興味が湧いてさ。社長って呼んでたから会社としてやってるんだろうけど、実際のところ何してるのか、記事に出来るのかどうか、ちょっと調べてみようって思ってさ」
地頭江「ふ〜ん。気をつけてやりなよ」
豊永「ああ」
伊藤「無茶しないでね」
豊永「わかってる。慎重にやるさ」
★暗転。ドラマ「太陽にほえろ」のサスペンスシーンのブリッジが流れる。
サスペンスM1 井上堯之バンド

★時間を置いて明転。右テーブルに向かい合って座る美久と伊桜莉。カウンターの中で頭をきながら立つ作務衣姿さむえすがたの松本。カウンターの長辺の左端の席にうさ耳フードの村上が右向きに半身になって座って頬杖ほおずえをついていて、カウンターの右端の下に、猫耳の市村が体操座りで顔をひざに埋めカウンターにもたれるように小さくなって座り込んでいる。入口の奥からまず生徒たちの声だけが聞こえてくる
栗山「結局、あいちーとわかにゃん来なかったね」
長野「昨日の夜から連絡がつかないんだよね」
坂本「どうしたのかなぁ」
生徒たちが入口に姿を現し、「こんにちわー」とやって来て、松本が力なく「いらっしゃーい」と返し、生徒たちが入口から入って来る
栗山「あっ、わかにゃんここに居たんだ!」
坂本「ねぇあいちーは?いないのぉ?」
長野「あ、あれ、あいちーじゃない?!」
坂本「ほんとだぁ!」
栗山「どうしたと、あいちー」
★体操座りでうずくまる市村に寄ろうとすると、市村が顔を伏せたまま片手をブンブン振り回して近寄らせない
松本「今日ずっとそうやねん。離れといた方がええで」
栗山「何があったんですか?」
松本「それがな、昨日借金取りのアイツらが店に来たんを配信で見て、『あんな人たちが来る店と関係があったなんて幻滅げんめつです』って、フォロワーがめっちゃ減ってんて。それで来た時からああやねん」
栗山「そっか〜。ライバーにとってフォロワーは、命の次に大事だからね」
坂本「かわいそぉ〜」
★そこで村上がため息をハァ〜ッとつく
村上「だからってさ、やってしまった事を後悔しても仕方ないじゃん。配信で失ったものは配信で取り戻さないとさ」
頬杖ほおずえをついたまま語る村上
栗山「そうだよあいちー。また頑張ろうよ。もう今日の配信はやったの?毎日配信途切れちゃうよ」
★市村がピクンと顔を上げるが、またすぐせる
長野「あー、戻っちゃった。重症だね」
坂本「あいちーぃ、大丈夫だよぉ頑張ろうよぉ」
★市村はじっと動かない。後ろから見ていた運上が前に出てくる
運上「こういう時によく効く、こっちに呼び寄せる魔法の言葉がありますよ」
★さだまさしの「北の国から」が流れ始める。運上がのどを整え軽く発声練習をしてしゃがもうとした時、先に坂本が手を伸ばす
坂本「る〜るるる〜」
★言われてしまった運上が、自分と坂本を交互に指差し、しゃべらず身振りだけで「私の!その役、私の!」と訴え、両手で両目をこすって「ふ〜ん」と泣きべそをかき、小田が横から頭をポンポンとして「よしよし」となぐさめる
坂本「る〜るるる〜」
長野「来ないね。やっぱりキツネと違って、猫だと効かないんじゃない?」
坂本「え〜、そんな事ないよぉ。だってキツネは猫の仲間だもぉん」
栗山「違うよ、キツネはイヌ科の動物だよ」
坂本「そうなのぉ?!そっかぁ、だから効かないんだぁ」
村上「いやいや、そもそも人間でしょあいちーは!」
★見守っていた下野が前に出てくる
下野「あいちー、元気だしなって。私もほかの生徒たちに声かけてフォロワーになってくれるように頑張るからさ。とりあえずなんか食べよう。ほら、店長だってこれからはタダで焼くまでやってくれるって」
松本「ん〜、そやな、しゃあないわ。これからはずっと焼いたるで」
下野「ほら、いいってよ。何が食べたい?」
★市村が顔を伏せたまま何か言うが聞き取れない
下野「え?なに?」
市村「#✕@△&◯%…」
下野「え?聞こえないよ?」
★市村がバッと顔を上げる
市村「豚玉海鮮デラックスッー!」
★大声にみんなが
下野「だってさ」
松本「よっしゃわかった。精魂せいこん込めて焼いたるからな!期待して待っときや!」
★下野にうながされカウンター長辺の右端の席に腰掛ける市村。左隣に下野が座り、下野と村上の間の席に本村が座る
松本「あいちーのが先やから、みんなのタネの準備は後回しや。座って待っとってや」
★松本の言葉にみんながテーブルへ移動し前と同じ席に着く。そこへ秋吉と松岡がやって来る
秋吉「こんばんわー」
松岡「邪魔するわよ」
★松本が慌ててカウンターから出る
松本「ゴメンやけど、今日はホント邪魔やねん。帰ってくれへんか」
松岡「なんでよ、もう暴れたりしないわよ」
松本「ちゃうねん。そういう事じゃないねん。とにかく今日は帰ってや」
松岡「なんでよ食べさせてよ、食べたら、すぐ帰るから」
松本「アカンねん。帰ってや」
松岡「いいじゃないのよ」
松本「アカンアカン」
松岡「いいじゃん」
松本「アカンアカンアカン」
松岡「ねえ〜、」
★渋る松岡に、松本が大きく息を吸って駄々だだっ子のように身震みぶるいし怒鳴り声を上げる
松本「アカンッ言うてんねんからっ、とっとと出て行ったらどないやねーんっ!!!」
★朝日放送「あっちこっち丁稚でっち」の赤フン男登場のBGMが流れ、
座長になって30年 記念公演 !?・寛平の帰ってきた あっちこっち丁稚
入口から坂口が、空中で平泳ぎするような手振りと坂田師匠のような足運びで入ってきて、上手かみてから下手しもてまで往復した後、松岡と秋吉の腰を左右の手で押すようにして一緒に外へ連れ出していく
下野「なに?今の」
松本「ええねんええねん、気にせんどってや。わかる人だけわかればええねん。さ、続けるで」
★カウンターの中に戻る松本。本村がパッと手を上げる
本村「ねぇ、もうみんな食べ終わった所までシーンが進んだ事にせん?」
★コケるみんな
下野「ずいぶんな手抜きじゃない?」
本村「だって、ダラダラしゃべってつないでも仕方ないやん。時短って時短。最後のシーン行こうよ」
下野「しょうがないわね。じゃあみんな、そういう事で」
★下野がみんなを見回し、本村も席に座る。松本が右テーブルの方へ身を乗り出す
松本「ほな、なっぴ一曲歌ってや。昨日なっぴだけ歌ってへんやろ」
運上「うん」
松本「なに歌う〜?」
★松本がスマホ片手にカウンターから出て右テーブルに座る運上に小走りに寄る
運上「ん〜、だったら、みんなで歌えるから、Re:Japanリ・ジャパンの「明日があるさ」にしようかな」
松本「あぁ、吉本のヤツやな。ウンウン、確かにみんなで歌える歌やな。よっしゃ、長い曲やからみんな分かれて1番ずつ歌うで」
★松本がみんなに声を掛け、パッと運上に振り向く
「ほななっぴ、センターに立って待っときや。曲出しはウチがやるわ。自分のスマホで歌詞見とくんやで」
★運上が自分のスマホを取り出してセンターの位置に行き、松本がカウンターに戻る
松本「ほな行くで〜、これが最後の曲や!」
★なぜか吉本新喜劇のテーマ「Somebody Stole My Gal」(ホンワカパッパ〜、ってやつ)が流れる
吉本新喜劇のテーマ
全員「ちがーうっ!」
松本「しもた、間違うた」
下野「吉本違いでしょっ」
美久「なにやってんだよっ」
松本「ゴメンゴメン。今度こそちゃんと行くで〜。これが最後の曲や!」

M07 「明日があるさ」Re:Japan
Re Japan 明日があるさ 吉本

★(スマホをマイクのように持ち歌詞を見ながら歌う)

1番:運上
2番:長野、村上   以下、順番に前へ出て来て運上の左右に並びながら歌う
3番:栗山、坂本
4番:地頭江、伊藤
5番:小田、豊永
6番:美久、伊桜莉
7番:下野
8番:本村
9番:市村      
10番:松本
11番:秋吉、坂口、松岡
12番:全員

最後の並び 肩を組んで左右に揺れながら歌う
11、9、7、5、3、1、2、4、6、8、10

★曲終わりに本村が前に出る
本村「今日はおわり〜!」

★暗転。お好み焼き屋セット撤収

★アンコール口上、明転

MC  劇の感想など

EN ザ・ドリフターズ「いい湯だな(ビバノン・ロック)」の1番の歌詞に「ドリフのビバノン音頭」と「さよならするのはつらいけど」の歌詞を足して修正した替え歌(8時だよ全員集合のエンディングの雰囲気)
全員集合エンディング
ドリフエンディング

  
(後列)市村 松本 伊桜莉 美久 本村 下野 松岡 坂口 秋吉 
(前列)長野 村上 栗山 坂本 運上 小田 豊永 地頭江 伊藤

★歌詞 (合いの手とセリフ:小田)

ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(アビバノンノン)
ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(ア〜ビバノンノン)

いい湯だな(アハハン) いい湯だな(アハハン)
湯気が天井から ポタリと背中に
つめてぇな(アハハン) つめてぇな(アハハン)
ここは百道の ど真ん中の湯

ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(アビバノンノン)
ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(ア〜ビバノンノン)

笑ったね(アハハン) 歌ったね(アハハン)
あなたの笑顔が 目に浮かぶ
カワイイな(アハハン) ステキだな(アハハン)
みんなで楽しく 笑いましょ

ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(アビバノンノン)
ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(ア〜ビバノンノン)

笑ったね(アハハン) 歌ったね(アハハン) 
笑う門には 幸せが来る
いいもんだ(アハハン) いいもんだ(アハハン) 
みんなで楽しく 過ごしましょ

ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(アビバノンノン)
ババンバ バンバンバン(アビバビバビバ)
ババンバ バンバンバン(ア〜ビバノンノン)

いいトコだ(アハハン) いいトコだ(アハハン) 
さよならするのは つらいけど
時間だよ(アハハン) 仕方がない(アハハン) 
また会う日まで ごきげんよう

ババンバ バンバンバン(宿題やったか?)
ババンバ バンバンバン(お風呂入れよ)
ババンバ バンバンバン(歯磨けよ)
ババンバ バンバンバン(また今度〜!)


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