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祖母の天ぷら 3段落エッセイ

父方の祖母は私が母のお腹にいた頃に亡くなった。祖母は50代。父は20代後半だったか。

私が小学生の頃、両親はときどき祖母のレシピを再現しようと苦戦していた。祖母は料理上手だったらしい。レシピは魚のすり身を揚げた天ぷらだ。あの、衣をつけて揚げる方じゃない天ぷら。さつま揚げみたいなの。もっと薄くて端っこがカリカリしてるようなの。卵の白身と塩と魚のすり身の配合を見つけようと必死な父と手伝う母。ミンサーでぐるぐる回すのを手伝ったっけ。初めてのはぼそぼそしていて味が薄くて細かい骨だらけだったのを覚えている。

だんだん上手くなって、かなり美味しくできても何かが違うらしい父。思い出補正もあってこの上なく美味しかった記憶になっていたのかもしれない。料理上手は計量しなくっても感覚だけで美味しく作るから絶妙な味付けが再現できなかったのかもしれない。それから何十年もかけて少しづつ、母の味が一番美味しいとなっていった父。ある日2人で作った天ぷらが納得いく出来栄えで、それ以来は面倒だからと作らなくなった。母の料理の腕が上がって、もう天ぷら食べなくてもどんな料理でも美味しいからじゃないかと思っている。でも、あのレシピ、聞いておかねば。

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