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6番 かささぎのわたせる橋に           中納言家持

2017年9月19日/今橋愛記

かささぎのわたせる橋におく霜のしろきを見れば夜ぞふけにける      中納言家持ちゅうなごんやかもち 〔所載歌集『新古今集』冬(620)〕

歌意 
かささぎが翼をつらねて渡したという橋ー宮中の御階みはしにおりている霜が白いのを見ると、もう夜もふけてしまったのだった。    

『原色小倉百人一首』(文英堂)より

さいしょ歌だけをぱっと見ると、意味がわからないまま、わからなくてもなんとなく良いかんじがして、そのままもっと知りたくなって、解説を読みはじめると、七夕たなばたの伝説。え、それやのに霜、て?  え、何。どうゆうこと? と混乱して、意味がわからなくなって、混乱が止まらず。最後には、いつも、ちょっといやになってしまう歌。
それを、歌人・高島裕たかしまゆたかは、

だが、この歌の、言葉の連なりそのものの美しさに立ち返ったとき、歌意の如何にかかわらず、不思議に納得させられてしまう。それは、主調がa音からo音へとなだらかに移ってゆく音の連なりが、翼を大きくひろげて天空を行く異国の鳥が現われ、やがて遠ざかってゆく(あるいは翼を収めて地に降り立つ)イメージに、自然に合致するからだろう。やはり、歌は調べである。 

『トリビュート百人一首』より

とお書きになっていて、ああ、やっぱりすごい人だ。高島さん。とわたしは、ちょっと感動するのだった。
歌意の如何にかかわらず、でいいんやね。音の連なりが、そうなんです、たしかにうつくしいのです。それだけで、いいんやね。正確な意味を追うことばっかりに わたしは気をとられてしまってね。 

作者の大伴家持は、歌人・大伴旅人おおとものたびとを父に持ち、
歌人・大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめに育てられ。編纂に たずさわったとされる『万葉集』には、この人の歌が 479首(!)入っていて、だんとつのトップ。 

ここだけを聞くと、それはそれは華やか。なのだけれども。
歌人であり政治家でもあった彼は、激しい勢力争いに巻き込まれて、波乱万乗の人生を送るのだった。
すきな歌がある。

新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事よごと(巻20、4516)

年改まった日に降り続ける真っ白な雪。その清らかな雪が降り続くやうに、人々に、この国に、どうか吉き事が続きますように 

高島裕『廃墟からの祈り』

また、高島さんになってしまうけれど、『廃墟からの祈り』という本で、はじめてこの歌を知ってから きれいな景、とてもきれいなこころの歌だなあと 強くひかれた。いやしけ吉事よごと(良い事の意味)。美しい祈りの歌。

この歌で、『万葉集』全20巻は、幕を閉じている。
そして彼は、42歳のときの この歌以後、死ぬるまで 一首も歌を残さなかった。

冴えきっていたのです 
あの冬の星
ひえるゆび、ひざ 
頰と たましい      今橋 愛

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