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48番 風をいたみ岩うつ波の        源重之

今橋愛記

風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけてものを思うころかな 源重之みなもとのしげゆき 〔所載歌集『詞花集』恋上(211)〕

歌意 
風が激しいので、岩にうちあたる波が自分ひとりだけで砕け散るように、私だけが心もくだけちるばかりに物事を思い悩むこのごろであるなあ。

『原色小倉百人一首』(文英堂)より

くだけちる波が印象的な一首。                        風をいたみは、風が激しいのでの意味。初句の語法もだけれど、全体、77番の〈瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ(崇徳院)〉と似ている。どちらも水の歌。あちらは再び一緒になる事を念じているのに対して、こちらの波は砕けちっている。どちらもすきな歌。

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけてものを思うころかな  

この歌をじっと見ていて俺っぽい歌だと思った。               「おのれのみ」の「の」を抜くと「おれ」になるという視覚的なこともあるのかもしれないが、この歌の主語がたとえば僕では線が細すぎる。

恋の相手を岩、自分を波だとして、岩にあたって、波だけ(自分だけ)が、ただぶつかって幾度もくだけちっているんだよと歌にする。               岩に向かって立ちつくしている背中が浮かぶ。                 男性でありながら自分の弱さを出せる強さと正直さ。              この立ち姿はうつくしい。


岩に波が。くだけちるようにぶつかって
俺だけが くだけちる

おぼえている          今橋 愛

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