BBC「生成AIの児童画像」の記事に疑問あり(1)〜Pixivについてのミスリードを誘うのでは?〜

「生成AIの児童性虐待画像を売買日本のソーシャルメディアなどで」という記事

 2023年6月28日のBBC Newsの記事「Illegal trade in AI child sex abuse images exposed」(※1)について。
 この記事は、イギリスのBBC Newsだけでなく日本のBBC News Japanにも掲載されています。日本語タイトルはこちら。「生成AIの児童性虐待画像を売買日本のソーシャルメディアなどで」(※2)。
 英語の原文タイトルを直訳すると「AI児童性虐待画像の違法取引が暴露される」になります。「trade」すなわち「取引」のところは「売買」とも訳せます。「exposed」は「暴露される」「あばかれる」ですが、日本語タイトルではそれに該当する語が見当たりません。「Illegal」は「違法」ですが、こちらもそうです、見当たりません。「llegal trade」すなわち「違法取引」となるとグッと印象が変わるのですが。
 記事の内容は、「生成AIによって作られた児童性虐待画像」の取引調査レポートが中心となっています。調査は、BBCやジャーナリストのオクテイヴィア・シープシャンクス氏によるものです。
 この記事、法的に言う「児童ポルノ」を扱ってるようにも見えますが、そもそも、法律における「児童ポルノ」の定義は日本とイギリスとでは異なります。そうした線引きが曖昧なまま、「問題の画像」についてのレポートは進みます。「生成AIによって作られた性的な児童の画像」および「生成AIによって作られた性虐待と解釈できる児童の画像」、準拠法がどちらの国か不明な「児童ポルノ」、そして「児童の(あるいはそのように見える)性的な漫画・アニメタッチのイラスト」が、フワっとひとまとめに「問題の画像」という感じで。
 紛らわしいので先に述べておきます。生成AIによって作られた児童画像における児童は非実在であるため人権はありません。したがって、こうした画像は、日本の児童ポルノ法(正式名称「児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」)において定義される「児童ポルノ」には該当しません。

Pixivへの調査レポートの部分について

 記事には日本のPixivに対して行った調査レポートも出てきます。元々のタイトルがタイトルなので、PixivがIllegal tradeの温床となっているのか? と一瞬戸惑います。しかしながら、「シープシャンクス氏の調査では、(Pixivの)ユーザーらは工業製品を大量生産するような規模で、児童虐待画像を作成しているように思われる」と言うに留め、Illegal tradeがあったと言い切れる確実なエビデンスは提示していません。
 なんだかミスリードを誘う文章だなあと思いました。記事中の、このPixivへの調査レポートの部分には、他にも曖昧でミスリードを誘う箇所があります。
「同氏は、「膨大な量で、(クリエイターたちが)『最低で月1000枚を目標にしている』と言うほどだ」と話した。」という部分。
 ここですが、第一に「膨大な量」というのが違法な「児童ポルノ」のことを指すのか、合法の性的な(漫画・アニメタッチの)イラストのことを指すのか曖昧。第二に「膨大な量」なのが仮に違法画像であるとしても、準拠法を日本としているのかイギリスとしているのかも曖昧。
 こういった曖昧な文章の書き方は、ミスリードを誘うのではないかという疑問があります。これでは、Pixivの多くのクリエイターたちが、「工業製品を大量生産するような規模で違法な児童性虐待画像を作成している」、というふうにも読めてしまうのではないでしょうか。
(続く)

[注釈]

(※1)6月28日BBC Newsの記事「Illegal trade in AI child sex abuse images exposed」
https://www-bbc-com.translate.goog/news/uk-65932372?_x_tr_sl=auto&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=wapp

(※2)6月28日BBC News Japanの記事「生成AIの児童性虐待画像を売買日本のソーシャルメディアなどで」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66038728


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?