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【学年通信】 祖母のこと

私の祖母は,理髪業を営んでいた。祖母は,私が高校を卒業するまで,私の散髪をしてくれた

仕事の合間を縫って,私の散髪をしてくれるので,お客さんが来ると途中であっても後回しにされた。バリカンが半分入った頭で,「遊びに行っておいで」といわれると,幼かった自分は,何も気にせず,その頭のまま遊びに行った

今でも床屋さんに入ると,あの床屋独特のにおいとともに祖母のことを思い出し,懐かしい気分になる

祖母は,戦争で夫(祖父)を失い,戦後,女手一つで,父を含め4人の男の子を育て上げた。祖母は戦争のことをほとんど語らなかった。戦後の苦労をあまり思い出したくなかったのか,今となっては祖母の気持ちを知るよしもない

その祖母が,戦争について私に話してくれたのは,記憶する限り次の一言だけである。「日本は清やロシアとの戦争に勝っていい気になったんだよ。あんなことはするもんじゃない」と

私は,この言葉で私に何を伝えたかったのだろうと今でも考える。単に反戦を意味していたのか。勝ち負けについて話していたのか。人の所業について話していたのか。

「ご先祖様に顔向けができない」という言葉に象徴されるように,亡くなった者に忖度できる生物は,地球上で人類だけなのだという。夏は,亡くなった者を思う季節でもある。この夏も,私は祖母の言葉を忖度したいと思う。

(2018年8月)

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